第三十五話 凡才と天才
* *【ユレケオ視点】* *
この世界には凡才と天才がいる。
そんで世の中大抵が凡才。
皆が背伸びして天才の足を少し触る程度。
でも少し頑張って足掴んだって、
俺たち凡才はすぐ手を蹴られる。
だから、俺はこの世界に絶望してる。
なにも最初から絶望してたわけじゃない。
二十歳の頃、国の軍に入ることを決めて、
所属は三個ある隊の内、二番目に強い隊に入った。
そこで地獄みたいな日々を1年、
俺は気が付いたら中級になってたんだ。
でも3年前、準上級になったばかりの俺は知る。
「新人として二名ウチで預かることになった。
エンヌ・ロワルデルドとマテラ・エッスメルトだ」
いわゆる天才。
俺は秀才なんて言われてたが、
そんなの天才の前じゃ等しく凡才扱いになる。
この二人は入った当初は下級だったのに、
1ヶ月で上級にまで上り詰めた。
特にエンヌはずば抜けた天才で3ヶ月目で英級。
俺はそれが憎くて妬ましくてしょうがなかった。
それと同時、
昇級していく二人を見て気がついたんだ。
「エンヌとマテラは強いな。
どうだ? 今度の遠征、参加しないか?」
実力に基づいた信頼。
そう、俺は上級には敵わないって上の連中から断定されてたんだ。
だから絶望した。
結局、初動で何かグングンと力を伸ばし、
誰かの目に留まることがなければ、以降は無意味。
俺はあの3年前から時間が止まってる。
戦争。そりゃァ気の良い話じゃない。
でもな……俺が凡才なりに輝くには、
一世一代の大チャンスなんだ。
今、俺の目の前には天才と呼ぶべき少女がいる。
土壇場で魔剣化を成したんだ。
元々実力があったとしても、
こういきなりパッとできるもんじゃない。
久しぶりだなこの感覚はよォ……
この天才少女、フリィアという剣士に──
絶対に俺は負けたくないんだよなァ〜ッ!!
* *【ケルエタ視点】* *
「答え合わせか〜ァ……なら後悔させんなよ……
フリィア・サタニルドッ!!」
天剣流は素早い動きが特徴の流派。
力を込めない剣の持ち方が特徴で、
流れる風のように斬ってくる。
しかし、欠点として威力が出せない。
それをカバーするのがユレケオの雷属性だ。
雷属性は瞬間的な威力が凄まじい、
それを魔力として放出した時、加速しながら威力も向上するめちゃくちゃに有利な属性なんだ。
威力が込めにくい天剣流にまさにピッタリ。
「水の精霊よ……! その煌々(こうこう)なる光の下に、
我が人生に潤い与え、大敵を打破せよ……!
破浄斬!!」
リルメスは中途詠唱ながらも中級水魔法を発動。
三日月型の大きな水の斬撃、それは向かってくるユレケオに直撃しかかった。
「ッチィ!」
ただ、ユレケオも上級並みの剣士だ。
その斬撃を電撃纏う剣で上へと弾き、
さらにそこから地面を踏み込んで加速してくる。
フリィアちゃんの間合いに入った瞬間、
青い炎が一気に大剣から燃え上がった。
「!」
「流派がダメなんだよお前はァ!!」
ユレケオがフリィアちゃんの大剣を避けて、
思いっきり横腹を剣で斬り裂いて通り過ぎた。
「フリィ!!」
リルメスの悲鳴染みた叫びに、
フリィアちゃんは倒れることなく大剣を握り直す。
フリィアちゃんの後ろにはリルメスとメアラがいて、
ユレケオの狙いはその二人だったんだ。
「結局天才なんてのは傲慢さ……
フリィア・サタニルド、お前が大剣を選んだせいで、
今からお前の大切な存在がここで死ぬぞォッ!!」
ユレケオの剣が二人に近づいた瞬間、
フリィアちゃんは大剣を捨てて地面を踏み込み、
一気に後ろから飛びついたんだ。
「ぐっ! 大剣を捨てたァ……!?」
「っくぅうあああ!!」
フリィアちゃんは火事場の馬鹿力で、
ユレケオを自身の背後に投げ飛ばした。
「なんちゅー力だよ……どこにそんな筋肉が……」
ユレケオは綺麗に着地し、フリィアちゃんを見る。
フリィアちゃんは横腹から血をダラダラ流してた。
それなのに瞳に恐怖だとかはない。
むしろ──
「フリィア様……血が……」
「今は……いいの」
目のギラつきが増し続けてた。
大剣を拾って構え直すフリィアちゃん。
「……悪いけどよォ。
俺は普通にお前を殺すぜ」
ユレケオは一気に走り出して、
この長い通路内の空間を惜しむことなく使う。
壁をキックしては加速し続け、
フリィアちゃんの横を通り過ぎるたびに
身体を斬る。斬る。斬る……辺りは血だらけだ。
俺は迷った。アレを使うべきだと。
なのに……決断できなかった。
不安がなかったんだ。
あんなになったフリィアちゃんを見ても、
俺は全く不安を感じてなかった。
ユレケオの纏う電撃が閃光のように走り続け、
フリィアちゃんは不動のまま大剣を構えてる。
「いいよォ乗ってやるよォ!!
一本勝負、俺は次でお前の首を斬る!!」
閃光が増し続けもはやその動きは、
リルメスは目で追えずメアラも黙ってた。
加勢なんてできない。
むしろその行為はフリィアちゃんにとって邪魔だ。
……。
勝負が決まる。
生きるか死ぬか。
この戦いの最後が決まる。
* *【ユレケオ視点】* *
結局天才はただの傲慢。
あいつも……あいつも……あいつも!
みんな他を見下していやがった!!
この少女は天才。でも傲慢だ。
大剣なんて武器使うから俺に負けるんだよ。
そんな重たい剣じゃ俺なんて捉えられない!!
俺の出せる最高速度で天才を斬り伏せる……!
俺は加速し続けた状態で正面から斬りかかった。
「……!」
なのに……
なのに俺は……地面に叩きつけられてた。
「5回……5回のステップを刻んでた。
あなたの剣は……速かったから身体を見た。
5回のステップの最後に足が伸び切る。
その瞬間に必ず斬ってくると思った」
「……ッ……ッグゥ……!!」
嘘だろ……そんな視点の切り替えを……!
ふざけんな……しかもなんで斬らなかったんだ?
「……わたしは大剣を選んだわけじゃない。
わたしには大剣しかない……それだけ」
……おいおい。そのレベルだったのかよ。
天才はそんなに傲慢なのかよ……
「なんで……斬らなかったァ……!!」
「……あなたにも大切な人がいるはずだから」
……そりゃァ……勝てねェよ。
そのレベルとは思ってなかった……
「クッソ……今日はほんと嫌な日だなァ……
行けよ。俺は負けたんだ」
* *【ケルエタ視点】* *
「勝った……」
フリィアちゃんが勝った。
血だらけで倒れかけた時には、
リルメスがフリィアちゃんを抱えてた。
「フリィ……!! 今治すから!!」
「……リルメスちゃん。わたし勝てたよ」
「っ……すごいわよ……すごすぎるわよっ」
リルメスに身体を支えられる中で、
フリィアちゃんは嬉しそうな表情を浮かべてた。
治癒魔法で治せるとこまで治したが、
それでも、フリィアちゃんは何日かは絶対安静。
横腹の傷が深すぎたんだ。
俺は治癒魔法をかける間、
ユレケオに対して話しかけてみた。
「あの……」
「なんだ……早くどっかいけ」
俺はこの人が気になった。
「なんで凡才とか天才にこだわるんですか」
「……俺はこの世界に絶望してる、
天才にはどうやったって勝てない」
「凡才とか天才とかどうでも良くないですか。
ひたすらに何かをやり続ければ……
凡才だっていつか天才になるかもですよ」
これは学生の頃、いつもそばにいた女友達の言葉。
あいつは昔から足が遅かったのに……速くなった。
なんでか聞いたらこう返ってきた。
『天才は皆凡人、そう思うと気楽なんだよね。
私も凡人だけど、こうして今じゃ優勝しちゃうし?
結局、人をダメにするのは″思い込み″だよ。
逆を言えば、″思い込み″はさいきょーってこと』
「……はっ、綺麗事だな。
ただ……3年間、がむしゃらにやってたら、
光景はお前らの死体だったかもな……」
俺はそれを聞いて三人の方に戻った。
先を急ごう、勝ったとは言えこれは戦争だ。
常に命の危機を迎えてるんだ。
どこもかしこも戦闘だらけ、
みんな無事だろうか……
* *【エルメット視点】* *
ケルエタさんたちを逃した後、
すぐには戦闘が始まらなかった。
「おいはガキん頃から剣についてずっと勉強してきた。
気になるったい。わいはいつから剣に触れ始めた?
なんで剣士ば選んだ? なんでそん流派ば選んだ?
わいは今ん質問全部に答えらるるか?」
こいつはエンヌ・ロワルデルドって奴で、
英級の蒼剣流剣士だ。
まあ超強いだろうが……俺も負けてない。
こんなのはただの自惚れに過ぎないけど、
俺の等級は上級でも英級並みに強いはずだ。
「そうっすね……俺は八歳の頃に剣を触ったっす。
重くて重くて落っことしたっすよ。
それに父親はブチギレ、俺は大泣きでした。
でも……それでも今じゃ俺は剣が大好きっす。
この地剣流は、父が教えてくれたものだから。
俺は剣士になった理由に大層な理由はないっす。
ただ、好きだから。もういいっすか?
こういうのはちょっと恥ずかしいんすよね」
「十分、そんじゃあ殺し合いば始めようか」




