第三十四話 その瞳は誰よりも
準上級。
その等級は中級とは桁違いの強さを表す等級。
中級と準上級の差は激しい。
加えてフリィアちゃんとリルメスが対する男は、
準上級の中でも上澄み、上級クラスの強さだ。
それでも……俺は確信してる。
「フリィ、あたしを頼りなさいよ」
「うん……」
この二人なら、きっと勝てるはずだ。
【準上級剣士に斬殺される
フリィア・サタニルド
リルメス・レクセト・ボルワール】
死のリストは黄色文字……
この戦争が始まってから黄色文字は初めてだ。
基本的にもう赤と黒ばっかだからな。
「……俺ァな〜」
狼族のユレケオって準上級の男は、
戦闘状態になるにつれ、その鼻息が荒くなり始めた。
「俺ァ〜常に一番でありたいんだ。
だから俺の願望のために死んでくれよォ……!!」
「っ!」
そいつの踏み込みは速かった。
速度が今までの敵よりずば抜けてる。
そんなめちゃくちゃ速いユレケオは、
複雑にステップを刻みながら近づいてきて、
フリィアちゃんの後ろにいるリルメスを狙った。
「ッチ」
ただ、フリィアちゃんも負けてはない。
上級剣士の上澄みであるエルメットさんと、
何年も稽古を続けてきたんだ。
その努力が今、大剣に乗ってユレケオの攻撃から、
大切な相手の命を守る。
「……あちょっメアラさん!?」
フリィアちゃんに攻撃を防がれて下がるユレケオ、
その隙にメアラがリルメスの背中に抱きついた。
「ちょ……!」
「メアラ、あいつの動き見える……
リルメス様、メアラの目を使ってくださいなの!」
メアラはそう言ってユレケオを凝視する。
「……わかったわ。頼るわよメアラ!」
「うへへ……」
メアラの目はかなり良い。
動体視力や反射神経も優れてるし、
元々種族的にそういう方面が優秀なんだ。
メアラは自分の強みを理解してるのか……
「友情ごっこなんて後にしてくれよォ……」
ユレケオの剣の流派は天剣流、
五つの流派の中で最速の存在だ。
対してフリィアちゃんは赫剣流、
五つの流派の中で最も遅い存在。
はっきり言ってとんでもなく不利だ。
「ごっこじゃないよ……逆にごっこに見えるんですか」
「はっ、言い返すねェ……口だけじゃないよな?」
それでもフリィアちゃんは攻める。
大剣を普通の剣のように持ってはいるが、
やはり振るう速度はどうしても劣ってしまう。
「おっそいなァ〜ッ!」
「今ですなの!」
「星水衝!」
リルメスが単音詠唱で上級水魔法を放った。
それは大剣を避けたユレケオの反撃を阻止し、
フリィアちゃんから距離を離すことに成功する、
「メアラって目、良いわね!」
「うへへ……へへっ、ご褒美あとでくださいなの」
ユレケオはすごく焦ったい様子だった。
リルメスたちが邪魔で仕方がないのだろう。
だが、二人への攻撃はフリィアちゃんに防がれ、
仕留め切るどころか怪我すらさせられないんだ。
「……わたしたちは貴方を倒して逃げる。
ここで死にたくなんてないから……」
フリィアちゃんがそう言えば、
ユレケオは剣を顔に近づけて右手で刃に触れた。
なんだ……なにをするつもりなんだ?
「まさか……」
「あぁそのまさかだよ大剣少女……」
ユレケオは刃に沿って指を走らせると、
バチバチと剣に電撃が纏い始める。
「戦う相手じゃ初めてか?
″魔剣化″……悪いがこっからは本気だ」
フリィアちゃんたちは驚いてた。
その驚きは絶望とまではいかないが近しいもの。
ユレケオは髪の毛の末端が発光し始めて、
白い息が口から出てた。
魔剣化、それは剣士という存在が、
この世界で優位と呼ばれる原因の一つ。
「いっ!」
「よく防げんなァ〜」
剣士は魔法を基本扱わないせいで、
魔力が戦闘中に枯渇することはない。
だが、3000年ほど前にこの技術が誕生。
魔力を剣に流し続けることによって、
体内の魔力を体外に放出、その際に魔力が身体中を駆け巡り、結果的に身体強化魔法のような状態になる。
つまり、めちゃくちゃ強化されるってこと。
「フリィになにしてんのよ……雷十刺!」
リルメスは魔法の杖から単音詠唱で電撃を放出。
しかし、それはあまりにも威力が小さく、
ユレケオは直撃したのにも関わらず無傷だった。
フリィアちゃんはユレケオの剣を防ぐも、
速度に対応できなくて肩に剣が食い込みはじめる。
「っうぐ……!」
ユレケオはその剣を押し込み続けて、
フリィアちゃんの肩を切断しようとした。
リルメスの判断ミスだ。
咄嗟に放った魔法は威力が低すぎて、
今から詠唱しても間に合わないかもしれない。
「ッ!?」
そこで、メアラが動いた。
回し蹴り、詳しく言えばミドルキックだ。
メアラはリルメスから離れて、
ユレケオの横腹を思いっきり蹴ったんだ。
少女とは言え蹴りの威力は凄まじい。
ユレケオは少しよろめいて、
フリィアちゃんは剣を押し返すと、
ユレケオも後ろに跳んで距離を一気に離す。
「フリィア様になにするですなの……!!」
メアラはブチギレてた。
てか……そんな蹴り上手いのかよ。
「いってェな〜……なんだよお前ェ〜!
今のままだったら殺せてたァ!!」
「黙れなの!!」
二人が言い合う中、
リルメスはフリィアちゃんに近づき、
上級治癒魔法を詠唱する。
「夢狭間に浮き出る緑陽……
極楽快晴、一切の苦を忘れし幻想、
顕現し我らを救いたまえ……癒郷土!」
それはフリィアちゃんの肩の怪我を治し、
万全の状態へと再び身体を戻す。
「ありがとリルメスちゃん」
「ねぇ……勝てそうなの」
リルメスは傷ついたフリィアちゃんを見て、
心底不安そうで苦しそうだった。
でも、フリィアちゃんはそんなリルメスの肩を触り、
大剣を持ち直してユレケオへと向かっていく。
「勝つよ」
そう言うフリィアちゃんの顔は、
リルメスからは見られなかったが、
勝とうとする強い意志は伝わってた。
「……んだよ。復活しちゃったじゃん」
「メアラ、ありがとう。ご褒美あとであげるね」
「うへ……嬉しい」
フリィアちゃんの目はさっきとは違かった。
なにか……覚悟を決めたようなそんな目。
カッコいいだとかそう言う話じゃない。
フリィアちゃんは今、成長してるんだ。
どうすればこのユレケオを倒せるか、
どうやってこの戦争から生き延びるか、
どうしたらみんなとまた笑って過ごせるのか。
多分、数え切れないほどの不安があるんだろう。
それでもそれを目から感じられなかった。
俺はあの目をよく知ってる。
『坂田〜今日飯行かない?』
『んでだよ。やだよ金ないし』
『女子の誘い断るとかないわ〜』
『女尊男卑やめてくれ』
学生の頃……もう名前も忘れたけど、
仲のいい女友達がいた。
『今度の大会見に来てよ。どうせ暇でしょ?』
『だる……ま、いいけど』
『よっしゃ』
そいつは陸上で活躍してて、
確か日本代表とかに選ばれてた。
『……あれが』
大会の時、俺はあいつの目をよく覚えてる。
大衆の前で己しか信じられない状況、
不安や恐怖などはなくなり、想像する未来へ向け、
その足を一歩一歩と踏み出す時の目。
ギラついてたんだ。
その目は誰よりもギラついてた。
だから、日本代表になれたんだろう。
フリィアちゃんの目はそいつそっくりだった。
目の色とかは違う……ただそれでも、
ギラついてて真っ直ぐ前を向いていた。
「……あなた名前は?」
「ユレケオ・ガグバルド。お前は?」
「フリィア・サタニルド」
「……ははっ、成長しやがったなァ〜?」
フリィアちゃんは大剣の刃に指を触れて、
下から上へとなぞり血を流した。
「予想的中……厄日だぜ今日はよォ〜」
ユレケオは苦笑いしながら驚いてて
俺もリルメスもメアラも……みんな驚いた。
「わたしはあなたに勝てない。
でも……″わたしたち″なら勝てる」
大剣へと纏い始める青い炎、
フリィアちゃんの髪の毛の末端が少し光って、
一気に今まで纏っていた雰囲気と格が変わった。
「……リルメスちゃんにメアラ、
もう一回、わたしと一緒に戦ってくれる?」
フリィアちゃんは振り返ってそう言い、
そんなことを言われたリルメスが返答する。
「フリィにはいつだってあたしがいるの。
不安なんて感じなくていいわ」
「メアラは……死ぬまでついていきますなの」
メアラもフリィアちゃんにそう返すと、
ニコッとして安心そうに大剣を握り直した。
「なぁフリィア。お前だけじゃない。
お前らを見るとなんでこんなワクワクするんだ?
……俺は知りたくなったぞ。
なァ……答え合わせはまだか?」
「今からしてあげます」
盤面はリセットされた。
変わったのは気持ちだけ。
たった一つ。気持ちだけ。
ただその一つが大事なんだ。
第二ラウンド、目のギラつきが増し続けてる。
死のリストは頻繁に赤になったり黄色になったりだ。
……俺は不安を感じてない。
絶対に勝てる。勝てるかもじゃない。
今なら確実にこいつに三人は──
″勝てる″
本日投稿1時間遅れてすみません!
描写などに手こずりました。
明日はちゃんと18:15に投稿されます。




