第三十三話 開戦
12月19日。
この日、戦争が始まった。
大体時刻は17時よりも前、
夕暮れ時に結界魔法が発動したんだ。
結界魔法は元来閉じ込めることに特化した魔法。
つまり──
「酷かね〜ここば戦場にしてしまうとかばり最低ばい」
「ニヤニヤしもって言うとるあんたもやけどね」
ここは選ばれたんだ。戦場に。
結界ができてから10分くらい経った今だが、
俺とフリィアちゃんにメアラは、お城に向かってる。
奴らの目的は基本貴族の皆殺しと城の制圧。
それができてしまえば領土を制圧したと言っても、
なにも不思議なことじゃない。
俺がお城に向かう理由はリルメスとも合流と、
グラバさんだとかの強い人に頼るため。
「メアラ怖いですなの……
戦争ってどこが仕掛けて来たんですの……?」
「ダグンド王国……緑峰大陸南部を支配する、
メテオール帝国配下の巨大な国ですよ……」
ダグンド王国とグロワール王国は、
とても仲が悪く交易すら行われてない。
まだ明確に戦争を起こしたのがダグンドだと決まってはいないが、正直そう考えるしかない。
「なんで戦争なんか……!」
フリィアちゃんがすごく困惑しながらも、
怒りが混じったようにそう言った。
「本当に戦争なんかなぜ起きるんですかね……」
ダグンド王国はグロワール王国に武力では勝てない。
だから、今まで戦争だとかは仕掛けてこなかった。
その歴史が意味することつまり、
ダグンドは今のグロワールより強いという、
圧倒的なまでの自信と事実を抱えてるはずだ。
* * *
「フリィ無事だったのね!」
お城でグラバさんにリルメス、
それとテグトトさんにエルメットさんと出会えた。
「リルメスちゃんも良かった……」
グラバさんに出会って俺は一つ質問した。
「グラバさん……表情がかなり暗いですが」
「レオニド領が陥落しました……」
レオニド領……? マジで言ってんの?
「明確な情報は入ってませんが、
ここに敵襲が来る時点でレオニド領は壊滅寸前か、
すでに壊滅したと考えるしか……」
レオニド領はグロワール王国の中で、
最前線とも言える防衛の要だ。
天星山脈の小さな谷は北部と南部を繋ぎ、
そこを通らなければ北部と南部を行き来出来ない。
谷を通らなければ山脈を横断することになるので、
かなり危険というか相当強くないと無理だ。
「レオニド領って俊級の剣士がいましたよね?」
「えぇ、います」
「負けたんですか」
「ここに敵が来てる時点で……」
俊級に勝つには同じ俊級か、
英級が五人程度いてやっと勝てる相手だ。
負けたって……そんな、嘘だろ?
「……グラバさん。どうするとか考えてます?」
「先ほど、領主リアバダ様から告げられました。
リルメスお嬢様を連れて、亡命せよと……」
……リアバダ様も色々勘付いてるのか。
てかリアバダ様は逃げないのか……?
「とりあえず……今すぐに逃げましょう。
テグトトさんとエルメットさんも私たちに」
俺がそう言えば二人は頷いた。
ていうかシルフさんはどこ行った?
「テグ〜!! 来た来た来た!!
大軍が城に向かってきてるよ!!」
そう思ってたら慌てた様子で、
窓からシルフさんが入ってきた。
「まずいっすね〜……どれくらい強そうでした?」
エルメットさんがシルフさんにそう聞いたら、
シルフさんは見たものを全て伝えてくれた。
「この結界魔法自体、俊級魔法使いが作ってて、
こっち来てるやつには準俊級がいた!」
戦力が厚いな……どうする。
リアバダ領の最高戦力はグラバさんだぞ?
リアバダ領は戦いにおいては集団戦専門……
上級の戦士とかが多いのが特徴だから、
一騎当千の敵が来た場合めちゃくちゃ不利なんだ。
「……ケルエタ様、皆を連れて逃げてください。
私がその準俊級を討ちましょう」
「ちょっと! グラバはどうすんのよ!」
「ご安心をお嬢様、私はすぐに戻りますよ」
そんなことを言うグラバさんの表情は優しかった。
リルメスもそれを見て不服そうに黙ってしまう。
「我はグラバ殿のそばでいいんじゃよな?」
「えぇ、テグトト様は私と一緒に」
「俺は護衛係ってことっすね?」
「任せましたよエルメットさん」
これからが決まった。
まずグラバさんとテグトトさんは応戦、
残る俺たちは逃げるためにカカテア領の港に向かう。
カカテア領はメテオール帝国に航路を持つ領で、
ダグンドがメテオール配下だからと言って、
メテオール帝国までが敵なわけじゃない。
とりあえずはこの大陸を離れるのが最優先だ。
てなわけで俺たちは、
ダッシュでお城の″ある場所″に向かう。
「……あれ、ご歓迎どうも」
「テグトト様、前線はお任せを」
「了解じゃ」
* * *
「ねぇフリィ……ルダクルとか見なかった?」
「わたしも見てない……」
「メアラもフリィア様と同じですの」
三人は不安そうだった。
ルダクルが今どこにいるかわからない。
できれば一緒に逃げたいが、
今はそう言ってもいられないし、
落ち着くまではルダクルのことは考えられない。
悪いが……最優先はフリィアちゃんとリルメスだ。
「ここっす!」
エルメットさんがそう言って指さす場所は、
お城の階段の隙間、ここに隠し通路がある。
ここの隠し通路はめちゃくちゃ長い地下通路で、
リルド村のあの屋敷に繋がってる。
「なんや。まだおるたい」
「!?」
なんだ……なんだこいつ?
気が付かなかった……いやなんでここに……
「みんな遅かけん別ルート自分で開拓してここまで来てしもうたばい」
……おい。なんでだ?
なんでこいつ……″九州弁″で喋ってるんだ……!
「みんな下がって。俺がやるっす」
【全知脳発動】
「つまんな。もっと強かやつおらんと?」
【エンヌ・ロワルデルドについての知識。
十七歳 男性 悪魔族 等級・英級
ダグンドの天才と呼ばれる存在であり、
蒼剣流に属する剣士である】
おけおけ、詳細はまた今度読みます。
ところでだ。なんでこいつ九州弁なんだ?
……。
……そこは発動しないってことは、
普通に謎ってことか。
「エルメットさん……そいつ強いですよ」
「大丈夫っす。俺も強いんで」
すげぇ自信だ。いつもは少し頼りないエルメットさんなのに、今日はなんか……普通に頼もしいぞ。
上級と英級にはかなりの差がある。
でもエルメットさんは上級の器じゃない。
機会さえあれば英級になれる存在だ。
「なら……信じます! 行きますよ三人とも!」
そんな感じでエルメットさんを残して、
俺たちは隠し通路の中へと入った。
「一応言うとくばってん、
わいじゃおいには勝てんばい」
「ははっ……クソガキだなお前〜」
* * *
だいぶ周りが寂しくなった。
あれから数分走り続けてるが、
フリィアちゃん以外ヘロヘロだ。
「ちょ、ちょっと休憩したいわ……!」
「メアラも……倒れちゃいますなのぉ」
こうなってしまっては休憩するしかない。
「はぁはぁっ……フリィは元気ね」
「えへへ……まあ剣士だから」
「さすがですなの……フリィア様」
どうしたもんか……リアバダ領の首都レクセトには、
何人か強い人だったり高等級の人はいる。
だけどそれも英級とかの話だ。
俊級の前じゃ無意味……
敵も敵でここに来るまで多くの障害があったはず、
戦力は分散してるはずだ……
でも、それでもあの九州弁の男が来るレベル。
エルメットさんが勝つことを祈るしかないな……
「……!」
いきなりフリィアちゃんが立ち上がって、
大剣を咄嗟に持ってリルメスの背中の前に立った。
そしてその行為はリルメスの命を救う。
「ッ!」
ガキンッと金属音が鳴れば、
なにをされたかすぐに理解できた。
「敵が来ました……!」
斬撃を放てる程度の剣士。
遠くに見える姿はさっきの九州弁男じゃない。
「追手ですね」
エルメットさんは負けてない。
あの九州弁男をちゃんとまだ食い止めてる。
「ほんと嫌な日だよなァ……
七歳歳下に指図された挙げ句、
次は少女に斬撃まで防がれた」
遠くから声が響いてこっちまで聞こえてくる。
「あいつは人望がないから、
俺しかついてこなかったけどよォ〜。
お前らの首持ち帰れば大手柄……」
不気味なやつだ。
ヨロヨロしながらこっちにゆっくりと歩いてきてる。
「だからよォ……だからよォ……!
どうかな。死んでくんね〜かなァ……!」
一気に踏み込んでこっちに飛んできた。
それを防ぐのはフリィアちゃん。
「嫌です……まだわたしたちは死にたくない!」
剣を防いだフリィアちゃんは大剣でそいつを押し返して、距離を無理矢理取らせた。
「ッ……怪力かよォ〜……死にたくないかァ……
でも殺すしかないんだよなァ〜……」
【全知脳発動】
【ユレケオ・ガグバルドについての知識。
二十五歳 男性 狼族 等級・準上級】
って言っても上澄みか……上級クラス。
いや、勝てるぞ。
それに倒すしか道はない。
「メアラさんは俺と観戦、
フリィアちゃんとリルメスお嬢様、
そいつ、ぶっ倒しましょう」
「はい!」
「任せなさい!」




