第三十二話 運命 I
4月7日。
「フリィ! 誕生日おめでとう!!」
フリィアちゃんは十二歳になった。
リルメスがお誕生日パーティーを開いたので、
今日はボルワール家のお城の大広間にいる。
「ありがとうみんな!」
誕生日パーティーは昔から定番だった。
八歳の時から今まで継続して続いてる。
「フリィ、これあたしたちからのプレゼントよ!」
もはやいつもの四人と言っても構わないだろう。
フリィに対し、リルメスとルダクルにメアラ、
三人で選んだプレゼントがリルメスからフリィアちゃんへと手渡された。
「開けていい?」
「いいわよ!」
「きっと驚きますなの」
「なにせ悩みましたから!」
フリィアちゃんは包み紙を綺麗に剥がし、
姿を見せた箱をそっと開けた。
箱の中には綺麗な魔結晶花があった。
魔結晶花とはこの世界ではお守りに位置する代物だ。
色んな種類があって今回選ばれたのは、
栄華というこの世界特有の花だ。
この世界中々面白くできていて、
植物は元の世界とは全部違うし、
花言葉だって存在してる。
「綺麗……」
フリィアちゃんがそれを凝視してうっとりするほど、
その魔結晶花は綺麗で美しかった。
赤いその花はまるで宝石のように輝き、
フリィアちゃんの青々(あおあお)とした瞳に赤が灯る。
「これ大事にするよ……ずっと」
魔結晶花は魔力によって結晶化した物質。
この現象自体、なぜそうなるのかは解明されている。
氷の魔力に長い間晒され続け、
凍結状態になってからさらに年月を重ね、
内部の魔力が限りなく制止した時に……
結晶化っていう現象が起きるらしい。
とりあえず手間がすごいのだ。
だから値段だってかなりする。
「グラバさん。リルメスお嬢様のお小遣いって月どれくらいなんです?」
「そうですね……月によって変わりますけど、
先月は白金貨7枚だったかと……」
……えぇ? 日本円で35万?
「それにリルメスお嬢様が欲しいと思えば、
リクラト様が限りなく与えてくれますから……」
リルメスのお父さんは甘すぎる……
なんちゅー大金を子供にあげてるんだまったく。
少しくれないかな。
「……プレゼントの品も納得ですね」
「えぇ、何枚使ったんでしょうね……」
「あら♡お金の話? あたいお金だーいすき♡」
「うわぁ急に後ろから話しかけないでくださいよ」
アルトレさんが後ろから話しかけてきた。
いつ聞いてもインパクトのある喋り方だ。
「そう言えば……アルトレ様の誕生日はいつです?」
「グラバ様はお優しいのねぇ♡
でもあたい、誕生日知らないの」
誕生日を知らない……?
「両親がどんな人かも知らないし、
あたいずっと一人で生きてきたのよねん……
ま、こんな暗い話はやめにしましょ」
なんだか……この人がこうなったのにも、
おそらくかなり深い理由がありそうだ。
だが、まあ俺が気にする必要はない。
「……それにしても、あの子たちは楽しそうですね」
「そうねん……いつもあたいのとこに来るけど、
すっごく仲良いし毎日楽しそうなのよねん♡」
「なんだが見てて安心しますよ」
グラバさんは四人を見ると気楽そうな顔になって、
アルトレさんはニコニコとしてる。
俺は一体どんな顔をしてるんだろう。
人だったらちゃんと顔があったんだけどなぁ……
「おぉいたいた。探したんじゃぞお主ら」
三人でフリィアちゃんたちを見ていたら、
またもや後ろから話しかけられた。
「おひさ〜ケルエタとみんな」
テグトトさんとシルフさん。
横にエルメットさんもいた。
「テグトトさんたちに会うのは2週間ぶりですね」
「ホッホッホッ、なにせ忙しくてなぁ。
最近はエルメットと一緒に仕事中じゃ」
テグトトさんは英級の魔法使いで、
エルメットさんは上級の地剣流剣士。
どっちもかなり強いし仕事を与えられるのもわかる。
「グラバさんと俺って会うの2ヶ月ぶり……?」
「エルメットさん実は、3ヶ月です」
「……時の流れって早いですね〜」
なんだか……こう見ると……
意外に関わりがある人が多いな。
俺は異世界転生してきてから、
この世界の人とかなり関わった。
お城でもメイドさんや護衛の人たちに覚えられてるし、俺もその人たちを覚えてるから挨拶する。
なんならたまに会話だってするさ。
それに町の人たちとかにもな。
日本でもご近所文化だとか地域交流というのはあるが、今の時代それは田舎のみの話だ。
俺はバリバリ都会で働いてたし、
そう言った関わりなんてすることはなかった。
でも……こうしていざしてみると……
「エルメットチャんは相変わらず頑張り屋ねん♡
どう? あたいのハグとかで癒してあげるわよ♡」
「多分死んじゃうんで大丈夫っす!!」
楽しい。
俺は満喫してる。
やることはやってるし、やらなきゃいけないことは山積みだが、その状況ですらなんだか楽しいんだ。
ただ、この光景も今だけだ。
戦争はこの年に発生する。
「ケルエタ様、私思うのですよ」
「……? なんです?」
「貴方様がいなければこの光景は見れなかったと……
ケルエタ様には感謝してもしきれないです」
俺がいなきゃ……まあそうだよな。
だって……元々死ぬ運命だったんだ。
「我もケルエタ殿がいなければ死んでいた。
あの迷宮からは抜け出せんかったじゃろうな」
「ウチもそれは同じ、感謝しなきゃね」
「俺も感謝してるっすけどね。
フリィアちゃんに稽古をつけてから、
俺も以前よりずっと強くなりましたし」
「あたいはまだ特にないけど、
正直、あの四人を見てるとケルエタチャんが、
どれだけ良い妖精族様か分かるわ♡」
……なんだよめっちゃ褒めてくれるじゃん!
「へ、へへへ……褒めすぎですよ」
「妥当な評価ですよケルエタ様」
* * *
6月19日。
毎年この時期は大豪雨で町が水没する。
だから基本家は高床式だし、この時期に出歩くなら、
道路は小舟で移動することになる。
ま、もうこの光景は慣れた。
異世界転生してなんせもう5年経とうとしてる。
7月17日。
メアラが十二歳になった。
いつも通りパーティー開催だった。
メアラの変態行為は相変わらずなので、
誕生日プレゼントにフリィアちゃんとリルメスを要求されたが、もちろんそれは断られてる。
ので、メアラには少し前から趣味になっている、
釣り道具などがプレゼントされた。
8月1日。
俺はグラバさんにある話をした。
秘策……のようななにか。
グラバさんが現状一番頼れる大人だ。
いざとなれば全てを託すのも手だ。
9月12日。
転生して5年。
相変わらず生活は問題なく続いてる。
ピックアップするなら──
リルメスはいつもロングスカートを履いているが、
その日はメアラの接触と風が強いのもあって、
ラッキースケベが発生した。
スカートが捲れ絶対領域に視線をやってしまったルダクルが、丸一日意識を失った。
ルダクルはリルメスの熱狂的な信者だが、
普通にリルメスのことは恋愛的に大好きだ。
ただまあ、リルメスはルダクルにそんな感情は持っていないので、かなり叶うことのない夢である。
10月10日。
アルトレさんに彼氏ができた。
マジか、と思ったがかなり幸せそうだ。
どっちもゴツいマッチョ男で、
絵面は中々にエグい……
11月13日。
アルトレさんは失恋した。
彼氏の男はやっぱり恋愛対象は女性だった。
かなり落ち込んでて普通に可哀想だ。
リルメスが慰めるくらいの落ち込み様だったな。
12……あれ?
戦争が起きないぞ。
もう戦争が起きた時様に計画は練ってある。
でも起きない……なんで起きない?
いや起きてほしくないから起きるな。
でもなんで……?
「ケルエタさん。今日のご飯どうしましょう?」
「メアラはなんでもいいですなの」
「うーん……悩ましいですね」
今日の夜ご飯……うわ眩し。
夕日がすごいな……真っ赤じゃないか。
「サェーヤなんてどうです?」
「そう言えば長い間食べてませんでした……
いいですねサェーヤにしましょう!」
「メアラもサェーヤ好きですの!」
夕日……ん?
この世界の太陽は西に沈む、
星空もあるから宇宙があるんだと思う。
ただよく考えるとおかしいぞ。
だって俺たちが今向いてる方向は、″東″だ。
「……フリィアちゃんとメアラさん。
なんだか……嫌な予感がしま──」
その時、何か声が聞こえた。
俺の知らない声だった。
「赫日迎えし今の世。
陽が交わるその刻にて、万星は口を開く。
円状陽炎世界、我が手の中に……焉火終日」
空が赤く染まった。
地平線が赤く染まった。
俺はこの現象を知ってる。
空間魔法の派生……結界魔法だ。
そうかなるほどわかったぞ……
やっと理解できたし、なぜ今まで考えなかった。
「二人とも……お城に行きますよ」
「ケルエタさん……?」
「……来たんです。この時が」
奇襲戦争。
いきなり仕掛けてきやがった。
【*死のリストより通知
黒文字に時が到達致しました】
第一部 第四章 首都レクセト編 -完-
次章
第一部 第五章 戦争編
* * *
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回からついに序盤最後の峠、戦争編です。




