第三十一話 モバディーテ家に叱られるから
9月27日。
この日はメアラが珍しく、
フリィアちゃんたちとの遊びを断った。
普通あり得ない話だ。
あそこまで付き纏うような存在が、
自ら断るなんて異常以外の何ものでもない。
そんな経緯で一人欠けた状態の三人と俺は、
ボルワール家のお城の図書室にて暇を潰していた。
「ルダクルはメアラの家のことって知ってるかしら」
「申し訳ございません……存じ上げませんね。
なにせ、僕はただの一般家庭出身ですから」
一般家庭出身のフリィアちゃんとルダクルが、
こうしてお城に入れるのはリルメスのおかげだ。
どうやらリルメスのわがままはこの家じゃ最強らしく、特に両親は余裕で言うことに従う。
「……メアラの家ってあまり良い家じゃないの。
モバディーテ家はとんでもない差別一家だから」
リルメスなどの少女でも理解できるほど、
この世界の差別問題は大きい。
いや、むしろ差別がそれほど問題になってないか。
「メアラちゃんちょっと心配だね……」
「えぇ、純血の人知族じゃないもの。
ほんとくだらないこだわりよ」
メアラちゃんの生まれは複雑だ。
……知識としてはすごく整理したくない。
だって、エピソードがドロっとしすぎてるんだ。
……でも、いや、いつまでも目を背けるのは、
なんだかこうすごく良くない気がする。
……はぁ、整理するか。
「種族などで差別とはくだらないです!」
「ルダクルもたまには良いこと言うじゃない!」
「光栄です!!」
二人が大きな声を出したら、図書室を管理するメイドさんが遠くからこっちを見ていた。
それに気がついてるのは俺とフリィアちゃんだけ……
ちょっと気まずいし、ごめんなさいって感じだ。
「モバディーテ家ってそんな感じなの……?」
「あたし、あそこの家の人嫌いだわ!」
モバディーテ家はかなり貴族らしい家で、
むしろ領主一家のボルワール家がかなり特殊だ。
それに加えて伝統だとかを重んじる家で、
貴族以外は普通に見下すし人知族以外は差別する。
メアラの生まれはその地雷を全て踏み抜いてる。
人知族でモバディーテ家の男と、
石蛇族で貧困家庭出身の女。
この二人がメアラの親だ。
「なんか気味悪いのよ。
あたしには優しくするくせに、
他の人には全然優しくないもの」
リルメスに優しいのは魔法のセンスがあるのと、
ボルワール家の可愛がられてるお嬢様だからだ。
モバディーテ家はボルワール家より立場は低い、
あとは言わんでもわかるだろう。
「明日は来てくれるかな……」
「少しばかり心配になってしまいますね……」
……家のことに俺が変に関わる必要はないし、
残酷だが、メアラを俺が救う役目はない。
そう、べつに俺はフリィアちゃんとリルメスを死なせずに、幸せな状態で寿命を迎えさせれば良いんだ。
……。
* * *
気がついたら俺はフリィアちゃんたちにグラバさんに預けて、俺はメアラのいるモバディーテ家へ来ていた。
俺は光る球だから潜入は容易だ。
だから家の中には簡単に入れて、
すぐにメアラのことを見つけることもできた。
いや……ちょっと待て、俺は何をしてる?
……変なところで人助けの精神が出た。
一切メリットなんてないのに……!
「……はぁ」
天井付近から俺はメアラを見てるが、
どうやらこの家具の少ない部屋が自室らしく、
今、メアラは椅子に座って勉強している。
それにしても、なんでいきなり外出出来なくなった?
「メアラ、あなた今朝も言ったけど、
不用意に外出することなんて許してませんから」
俺が天井からメアラを眺めてたら、
扉を開けてモバディーテ家の人がやってきた。
「ごめんなさいなの……」
「謝って済むことだと思わないことよ。
貴族は品が大事なの、あなたは品以前の問題。
モバディーテ家の品を下げる行為なのよ」
嫌味な女の人はそう言ってメアラの机に、
どっさりと本を置いて部屋から出て行った。
貴族は色んなことを紙に記して残す、
だからメアラの両親のことは知識として得てるが、
まあ、かなりのダメダメ男女だ。
だからって、メアラにはなんの罪もない。
なにも悪いことなんてしてないのだ。
「……終わりそうだったのに」
父親は家を追放され、母親は行方不明に……
メアラも家から追い出されかけたが、
そこはボルワール家が睨みを効かせた。
言ってしまえば邪魔者だろう。
しかし、そうだとしてもまだ子供の女の子だぞ。
良心だとかはこの家にはないのか?
「こんにちは、メアラさん」
「うへぁ!? ケ、ケルエタさん?
どうしてメアラの場所がわかったんですの?」
俺は天井から離れてメアラの後ろから話しかけた。
結構驚いてたが怖がってるようじゃなくて安心だ。
「毎日フリィアちゃんとリルメスお嬢様に付き纏うメアラさんが、なぜ今日は来ないのかと気になりまして。
お節介でしたかね……?」
「い、いや全然ですの!
むしろ、ちょっと嬉しい……」
あの二人の前だとおかしくなるだけで、
やっぱりメアラは意外にマトモな子だ。
「少しだけ覗かせてもらいましたが、
どうやらかなり冷遇されているようで」
そう言ったらメアラの表情は暗くなった。
「……みんな言ってますの、メアラのお父様とお母様は最低最悪の面汚しコンビだって……でも、それでもメアラにとってはバカにしてほしくないんですの……!」
本音が出た。
これがメアラの思っていること。
「……メアラさん。一つ私から提案があります」
「提案……なんですの?」
「一緒に暮らしませんか?
フリィアちゃんもいますよ」
「え?」
メアラは椅子から思わず立ち上がった。
そりゃ衝撃だろう。だが、どうするの? って顔だ。
「自分から家を出ていけばいいのです。
モバディーテ家はメアラさんのことを心底、
嫌っていて邪魔だと思っていますからね。
出ていくと言えば出ていかせてくれますよ」
もちろん。そんなことをすれば、
メアラから苗字が消える。
レクセト・モバディーテが名から消えるのだ。
「……いいんですの? そんな幸せでいいんですの?」
だが、名がどうとかどうでもいいらしい。
それほど彼女はこの家では愛されていなかったのだ。
「いいんです」
メアラが今なにを考えてるかはわからない。
だが、かなり幸せな未来を妄想していた。
「フリィア様と……フリィア様……うへ。
うへへ……いいんですの?」
「……いいんです」
ちょっと危ない笑いだったが、
まあ、いいか。危害はないだろうし……
「そ、それじゃあ今すぐ! 今すぐなの!
今すぐにメアラは家を出ていくの!!」
勢いがすごいがまあ、あの扱いならそうなる。
よし、家を出て行こう。もうおさらばしよう。
「こんな家、いるだけ無駄ですよ」
メアラは俺の言葉ですぐさま部屋から飛び出して、
数分したら家を飛び出していた。
俺はメアラが家を出る前に外にいて、
清々しい笑顔の彼女を迎え入れる。
「やめてきたなの!」
「それじゃあ、行きましょうか。
メアラさんが住む次の家に」
あっさりというか上手くいくというか……
全部必然か……あまりにもWin-Winな出来事だ。
「あ、言っておきますけど、
フリィアちゃんに変なことしないでくださいよ」
「うへ、し、しませんなの」
言っても多分無駄だが、言った事実は必要だ。
さて、メアラの問題は一瞬で解決した。
無駄なことではあるが、俺は無駄なことも全力でやってみたい。中途半端にだけはなりたくないんだ。
それに──
「それより……ケルエタさん。
メアラ、本当嬉しいなの! ありがとうですの!」
こうして笑顔で感謝されることは、
気分的にも悪いわけもなくむしろ良い方だ。
「えぇどういたしまして」
……しかし、フリィアちゃんはどう思うかな?
* * *
「ケルエタさん……お布団ないから一緒に寝るのはいいんだけど……わたしメアラに食べられないよね……」
「食べられないですよ……だって、そんな、ねぇ?」
家に帰ってフリィアちゃんが帰ってきた時、
メアラを見てすごい驚いてたが、嬉しそうだった。
事情を話しても嫌がることなく、
ニコニコと快く一緒に住むことを認めてくれた。
しかし、寝床が足りていない。
そのせいでしばらく二人には一緒に寝てもらうが、
その……なんだ……目が怖いんだ。
メアラの目がすごい、怖いんだ。
「うへへ」
「……ケルエタさん。
できるだけ早く買ってくださいよ」
「は、はい。もちろん……」
それから数日、フリィアちゃんは朝起きた時、
大体髪の毛が跳ねてて何をされたか想像できる。
それからは特に何事もなく日々が過ぎ、
いつの間にか年も越して真冬を迎えていた。
星断暦843年2月7日。
この年だ。
いつ始まったっておかしくない。
なのになんでだ?
戦争だとかの噂は全くない。
どこにも戦争の雰囲気がない。
未来が変わった? いやでも……
死のリストは依然黒文字を浮かべている……
すごく嫌な予感がする。
……油断しないようにしよう。
ここを乗り越えてからがスタートラインだ。




