第三十話 変態少女と崇拝少年にオカマ降臨
9月23日。
今は夕方前、フリィアちゃんとメアラと俺は、
魔法塾の廊下でリルメスが出てくるのを待っていた。
フリィアちゃんとリルメスには、
およそ1ヶ月前に新しく友達ができた。
その友達はメアラ・レクセト・モバディーテ。
意外に三人は気が合うのか常に一緒にいて、
メアラも本来の性格を見せるようになってきた。
だが、一つ問題がある。
「フリィア様……大剣お持ちしましょうかぁ〜」
「だ、大丈夫だよメアラ……あとどさくさに紛れて、
身体すごい触ってくるのはなんで……?」
「え〜ただ大剣持とうとしてるだけですの」
そうこの子──
「そ、そう?」
根っからの変態だった。
「うへへぇ〜へへ」
同性だからこそ許されているが、
それでもかなりシビアなラインだ。
ベッタベタ触るので若干引かれてる。
「フリィア様の匂いはあれですの……
良い匂いというか……お日様のような匂い」
お日様の匂いって異世界でも通じるんだ……
「ちょ、匂いなんて嗅がないでよ……
それにお日様の匂いって……わたしってお布団?」
「うへへ……うへっ」
「でもそれを言ったら……」
フリィアちゃんはそう言ってメアラの首に顔を近づけて、匂いを嗅いでみせた。
自然とメアラの首元の蛇たちが後ろに下がり、
見る見るうちに顔中真っ赤になっていく。
「メアラも良い匂いするけどね」
「〜〜っ!!!!?!?!?」
フリィアちゃんは天然に相手を狂わせるタイプだ。
メアラが変態になりすぎてしまうのは、
フリィアちゃんのせいでもある。
メアラは声にならない声を発して、
その頭から湯気が出てるような様子で倒れた。
「えぇ? 大丈夫……!?」
なんというか、ただスケベな子じゃなくて、
愛情表現の過多が生み出した変態って感じだ。
現にメアラは二人のおかげで差別が減った。
差別されても二人が守ってくれる。
生まれてから最近に至るまで。
メアラは愛をその身に受けたことがない。
だからこそ、二人の何気ない行いは、
彼女にとっての大きすぎる幸せなんだろう。
とにかく身体を触りたがるのも、
生身の温もりを感じたいからだろうな。
俺もそれはわかる。
寂しい時はハグされたい。
大人になってしてくれる人はいなかったけどな!!
「も〜しつこいわね……
べつに手伝ってほしいことなんてないわよ」
「いえ、自分はリルメス様の馬車馬になると、
この身に、この世界に誓ったのです!」
さて、もう一人騒がしいのがいる。
「……まぁ、変に邪魔しないでよ」
「はァい!!!」
リルメスに熱狂的な信者ができた。
その男の子は同い年のルダクル・ドラバック。
瞳は紫で焦げ茶の髪は天然パーマだ。
1ヶ月前に魔法塾へと入塾した生徒で、
リルメスの圧倒的な魔法のセンスに一目惚れ。
それに加えてシンプルにリルメスの容姿、
性格など諸々(もろもろ)込みで惚れている。
「リルメスちゃん……メアラがまた倒れちゃった」
「また〜? あたしに任せなさい!」
リルメスはメアラの耳に顔を近づけて──
「っふー!」
「ぎゃぁああああ!?」
優しく息を吹きかけるわけでもなく、
普通に勢いつけて息を吹きかけた。
そう、これがリルメスの人の起こし方だ。
「リルメス様ぁそれやめてくださいなのぉ……」
「ならすぐ気絶する癖を直すことね!」
リルメスとメアラを横目に、
フリィアちゃんとルダクルは会話していた。
「フリィア様、今日もやはりあそこに?」
「うん。ルダクルも来るよね。
この時間だしちょうど良いかなって」
二人が話す″あそこ″とはある人の所だ。
その人が何者なのかは会えばわかる。
* * *
「″アルトレ″〜! 今日も来たわよ!」
塾から離れ町を歩いて30分程度、
俺たちは少し大きい一軒家の前で足を止めた。
アルトレとリルメスが名を呼ぶ相手、
俺は驚いたさ。異世界にもいるんだな──
「はぁ〜いん♡塾は終わり?
あたいにッ、ッチュ♡学びにきたのねェん?」
そう″オカマ″だ。
「今日はあたしが教わる日よね!」
「そうそう、今日はリルメスチャんが教わる日♡
他のみんなは見学ってことになるわねん」
アルトレ・ゼラレット。
瞳が銀色で髪の毛は桃色だ。
ちなみにめちゃくちゃ顔はイカつい。
それに高身長でムキムキな男の人だ。
魔法使いでありながら体術を扱うタイプの人で、
拳戦者とはまた違う戦い方をする。
等級は上級で元一流の冒険者だったらしい。
その冒険の理由は男探しだったが……
「ケルエタチャん。今日もお疲れなのん?」
「え、あぁいえ、喋る隙がなかっただけですよ。
べつに疲れてるわけでもないのでご安心を」
疲れてるか……まあここ1ヶ月は疲れるよ。
あんたらが急に関わり始めてきたからな……
だけど、まだ関わり始めて1ヶ月、
その割にはみんな結構仲が良いと思う。
最初の頃はメアラとルダクルが衝突してたが、
今は普通に仲が良いし、二人について話してる。
メアラは町中で出会ったのが最初で、
ルダクルは魔法塾でリルメスが惚れさせた。
アルトレさんは魔法塾の特別講師、
そこでリルメスが仲良くなった。
ちょっと待て……リルメス強くないか?
三人全員にリルメスが関わってるのすごいな……
さすが貴族……カリスマ性でもあるのか?
「そ、疲れてなくてよかったわん♡」
アルトレさんは俺が疲れてないか確認すると、
歩いてリルメスの方へと寄って行った。
そしたらフリィアちゃんが一人、俺に近づいてくる。
「ケルエタさん……やっぱり疲れてますよね」
「えぇ? フリィアちゃんまでどうしたんです?」
「いつもより元気ないですよ」
「……ははは、お見通しですね。
少しだけ疲れてますよ。ただ、これで良いんです」
そう、これで良いんだ。
「でも……」
「フリィアちゃんは今、幸せですか?」
今この会話を聞けるのは俺とフリィアちゃんだけ、
他四人は授業みたいなのを受けてる。
「もちろん幸せですよ」
「そうですか……なら良いんです。
私の願いはそれだけですから」
そう言うとフリィアちゃんはモジモジして、
俺に向かって言ってきた。
「……でも、その、欲張りだけど……
ケルエタさんも幸せになってほしいって、
思っちゃダメですか?」
……。
まいったな……そんなこと言われるとは。
「……1ヶ月前からこうして深く関わる人が増えて、
二人の笑顔も増えて、良いことばかりです。
わたしの幸せは二人の幸せですから。
……それより、大切にしてくださいよ?
新しく出来た友達も、リルメスお嬢様も、です」
そんな俺の言葉を聞いてフリィアちゃんは、
ちゃんと頷いてくれた。
「ケルエタさん……もう1年後だよね?」
「……覚えてたんですね。そうですよ」
戦争のことか……そうだな言ってたな。
フリィアちゃんも気にしてるよな……
「わたし、誰も死んでほしくないです」
「私もそう思いますよ」
「ケルエタさんがいれば大丈夫……?」
「今回ばかりは……」
「……ケルエタさん」
「はい」
「わたしって強い?」
「強いですよ……想像以上に」
「……守れるかな。みんなを」
「……守りましょう。私たちで」
俺とフリィアちゃんはそう会話を交わして、
しばらくしたらフリィアちゃんもアルトレさんの授業に途中参加した。
……まさかフリィアちゃんがそこまで考えてるなんて、俺は正直思ってもなかった。
本当に賢い子というか優しい子だ。
守りたいか……守らなきゃな。
生かすも殺すも俺の動き方次第、
大丈夫だ最善を選び続けたはずだ。
大丈夫……大丈夫だ。
「ケルエタ〜! ここ誰もわかんないから教えて!」
考え事をしてるとリルメスに俺の名が呼ばれた。
「……はいはい。今行きますよ」
気は前に向けてやっていこう。
兎にも角にも、俺は今を生きてるんだ。
今を全力で生きてればどうにかなるさ。
根拠なんてないけどな、前世はアレだったから。
でもまあ、根拠なんて探す暇はない。
あと1年。死のリストもあの黒文字が近づいてきた。
本当ならここら辺から戦争に関して集中したいが、
ここで放置していた問題が動き始める。
どうやら、熟考させてくれる暇はないそうだ。




