第二十九話 瞳に輝く蒼赫の少女
11月26日。
首都レクセトでのフリィアちゃんの住まいは、
集合住宅、言わばアパート住みだ。
それにしても九歳でほぼ一人暮らしか……すごいな。
「フリィアちゃんって料理は出来るんです?」
「出来ないです!」
「……じゃあ教えるので、
一緒にできるようになりましょうか……」
「はい!」
これからの生活は決まっている。
まず3年後に備えて毎日稽古はもちろんだが、
リルメスは魔法塾に通い、フリィアちゃんはエルメットさんとの剣術の稽古。
ま……ご覧の通り屋敷にいた頃とあまり変わらない。
死のリストもめちゃくちゃを落ち着いてて、
緑文字が今はほぼ全てを占めている。
最初見た時はここら辺の時期、
黄色文字だとか赤文字が多かったんだが、
この文字自体コロコロ変わるんだよな。
進んだ道によって未来が幾つにも枝分かれする。
いま緑文字が多いのは最善を選び続けたからだ。
正直、ずっとこのままであってほしいな……
* * *
2年が経った。
そんなあっさりと2年が経って良いものかと思うが、
本当に平凡な日常だった。
ピックアップして振り返ってみても、
リルメスが上級魔法の大半を扱えるレベルになったこととか、フリィアちゃんがエルメットさんに本気を出させるレベルの剣士になったことくらいだ。
いや……十分濃いエピソードか。
リルメスは魔法塾に通ってから、
魔法の扱い方がすごく上手くなった。
元々、リルメスは魔力量がかなり多い。
それに加えて七歳の頃から、魔力が底を尽きるまで魔法を放つ特訓のせいで、尚更多いんだと思う。
リルメスに足りなかった技術は、
精密な魔法の操作。
それを補い始めたせいで一気に強くなり始めた。
その関係でリルメスは魔法塾じゃ最強。
年齢関係なくリルメスが一番強い。
強いしあの性格だから若干スター的存在になってる。
まあ、リルメス自身もノリノリでスター気分だった。
リルメスはそんな感じで次はフリィアちゃん。
フリィアちゃんは十一歳になってついに、
大剣の長さを身長が超えたんだ。
そのおかげで背中に担いで歩くこともできる。
フリィアちゃんは剣士としても優秀だ。
大剣を振るうこと自体、もうあまり難はない。
動きも早くなってきたし、戦闘への知識も多い。
それとこれはあまり関係ない話なんだが、
フリィアちゃんは女子からとてもモテる。
顔が良いというよりは……性格?
どっちもか、とにかくイケメン女子だ。
でも、中身は意外に弱気だから、
そのギャップが大人気なんだろう。
そんな噂が広がるのも、
リルメスの隣に常にいるからだろう。
フリィアちゃんとリルメスは首都で有名なコンビ。
なんというか……まあ人気なのはいいことだ。
だが驚いたのは、ちゃんと二人はこの世界でも、
かなりの美人だったってことだ。
顔面偏差値の平均はもちろん高い、
でも、この二人はその中でも上澄み扱い。
とりあえず、二人はこの2年で確実に、
準上級レベルかそれ以上の強さにはなった。
全知脳で得た情報の中でも、
十一歳でここまで強い存在はほぼ居ない。
いるにはいるが、かなり珍しい。
あと1年……今は8月12日。
戦争が発生する日付はわからないから、
年を越してすぐに起きるかもしれない。
だからもう1年もないかもだ……
「ケルエタさん? どうしたんですか?」
「いきなり止まっちゃってどうしたのよ!」
「……あ、いえ、なんでもないですよ」
「ケルエタの変なの〜」
今日はリルメスとフリィアちゃんと俺で出かけてる。
最近は常に戦争のことが頭にチラつく……
知っているのに伝えられないこのもどかしさ、
すごく嫌な感じだ……どうにかできないものか。
「フリィ、今日はなに買うか覚えてる?」
「うん。魔法の本だよね」
「そうそう! 上級魔法も半分以上使えるし、
あたし的には難しいところに挑戦したいのよね」
「英級魔法とか?」
「さすがにちょっと早いわよ……」
……なんだか、この二人を見てると、
すごくやりがいを感じる……嬉しいんだ。
この二人が仲良く話せる関係ってのが、
俺はどうしようもなく心底嬉しい。
「えー? リルメスちゃんならできるよ」
「……ならできるわね! ついでにやっちゃうわよ!」
……あと1年、絶対に生かしてみせる。
戦争がなんだ。俺が絶対に生かせる。
「……ねぇリルメスちゃん」
「どうしたのフリィ?」
リルメスが嬉しそうにしていた時、
フリィアちゃんはふと一方を見て立ち止まった。
「あの子……」
「?」
俺は二人が目をやる方を見てみた。
そこにいるのは誰に話しかけても無視される、
貴族の紋章を服につける女の子だった。
でも、少し特異な点がある。
「髪の毛が蛇だね……」
「面白いセンスね!」
【全知脳発動】
【石蛇族についての知識。
(後書きにて詳細記載)】
なるほどな……でもちょっと見た目違くないか?
【全知脳発動】
【メアラ・レクセト・モバディーテについての知識。
人知族と石蛇族のハーフ。女性。十一歳。
モバディーテ家の汚点と呼ばれる存在。
父親が──】
俺はその先について考えるのをやめた。
最悪だった……グロすぎた。
人間関係のドロドロとしたあの感じ、
あれを濃くしたエピソードだった。
……あ、ちょちょっと。
二人は俺を置いてメアラに話しかけにいった。
「ねぇ、あなたどうしたの?
困ってるならあたしが助けてあげるわよ!」
リルメスはスター的存在だ。
そんな者から話しかけられたら、
びっくりするというより怖くなる。
その石蛇族のメアラは、
案の定酷く怯えた状態で二人を見ていた。
でも、すぐに目を逸らして俯く。
「リルメス様! そいつは見ない方が良いですよ!
なんせ石蛇族……石になっちまいますよ」
石蛇族は相手を石化させることは不可能。
そう、多分日本で言うメデューサだ。
だけど、実際は石化させる力はない。
悪意のある迷信が広がり続け、
今に至るまでそれは差別として定着したんだ。
「……リルメスちゃんこの子」
「わかってるわよフリィ」
ただ二人は差別などに関しては興味がない。
むしろ、差別などはくだらないと思うタイプだ。
「ねぇ、その目は逸らさなくて大丈夫だよ。
石になんてなんない。そうでしょ……?」
フリィアちゃんがそう言うと、
メアラの肩はピクって動いた。
「早く顔上げなさいよ。せっかく話しかけてるの、
あたしたちの顔くらい見るべきよ!」
リルメスのその言葉にゆっくりとメアラは顔を上げ、
その緑色の瞳で二人を見つめた。
髪の毛として存在する蛇たちも皆が二人を見て、
瞳に一気に輝きが宿る。
「なによ石になんてならないじゃない。
嘘つきはあたし嫌いよ!」
「……げぇ……マジかよ……いぃあす、すみません!」
店の者は二人を見て謝り、
その場にいるのが嫌になったのか、
店内の奥の方へと逃げるように入っていった。
「その……ありがとう」
「えへへ、どういたしまして」
「あなた名前を教えなさい!」
そうリルメスに言われてメアラは名乗った。
「メアラ・レクセト・モバディーテ……」
リアバダ領には三個の貴族がある。
ボルワール家・モバディーテ家・ラクレスト家だ。
ボルワール家は領主一家だから最上位の貴族。
ちなみにメアラにレクセトって名が入ってるが、
これは貴族の証みたいなもので血の繋がりはない。
「モバディーテ家の子だったのね!
ま、いいわ。あたしたち″ともだち″になりましょ!」
リルメスは常にこの感じだ。
隙あらばともだちを作りたがる。
「なってもいいの……?」
「わたしたちで良ければ……ね?」
「そうよ。あたしたちはいいわよ!」
フリィアちゃんがリルメスの方を向くと、
リルメスは横目でそれを確認して繋げるように話す。
「なら……ならなりたい!」
「ふふ、じゃあ決まりね! 今日からともだちよ!」
俺はメアラの過去についても知識を得てしまった。
どんな過去を持っているのか、どんな境遇なのか。
この子は想像を絶するレベルの不遇度。
だから今日のここでの出会いは、
まさにメアラにとってのターニングポイントだ。
ただ、俺は知ることになる。
このメアラという女の子が、
″頭のネジが外れた″タイプだと──
石蛇族についての知識。
石蛇族は魔族に属する種族であり、
主に緑峰大陸やガシリア大陸に生息する。
髪の毛が灰色の蛇になっており、
蛇たちに自我はないが生きている。
また石化能力は全くないがデマが広がっており、
広い地域で酷く差別されている種族でもある。
基本的に瞳は緑色で髪は灰色、
視力が発達しており目が良いのが特徴




