第二十六話 背中を押す存在
……フリィアちゃんとリルメスは救出成功。
二人の今回の行動は大問題だったが……
テグトトさんを見つけたのは大手柄だ。
俺たちは森の外に転移したが、
場所としてはそう屋敷から離れてなかった。
帰り方は徒歩だ。
それと正直、雰囲気はめちゃくちゃ重たい。
フリィアちゃんは下を向いて歩いてて、
リルメスは顔をグラバさんの背中に向けず歩き、
グラバさんは振り返ることもなく先頭を歩いてる。
「テグ……なんか面白いこと言えよ〜」
「シルフ、ちょっと黙っとれ……」
俺は驚いたよ。俺以外の妖精族を見るのは初めてだ。
このシルフさんはテグトトさんに長い間憑いてる。
失礼承知で色々と全知脳で調べたが──
まったくシルフさんについての情報はなかった。
記録とかにもない……結構謎な存在だ。
まあ、テグトトさんは前の通りだな。
「……あの〜お二人はこの後、どうするんです?」
俺は気になって聞いてみた。
テグトトさんとシルフさんはどう行動するんだ?
この二人はグロワール王領の人らだからな……
「我らは一度王領に帰り、生存報告を行う。
その後はそうじゃな……恩返しも含めて、
リアバダ領の首都レクセトに向かおうかの。
命の恩人がいる領で我はこの力を尽くしたいのじゃ」
かなり立派な言葉が返ってきた。
まあそうか、この人らにとって二人は命の恩人。
そう言う行動になるのもすごく理解できる。
「ウチはテグについてくな〜。
今までがそうだったようにね」
そんな感じで二人のこれからは知れた。
もしかしたらまた会えるかもな……
それからしばらくして俺たちは屋敷に帰ってきた。
もうすっかり日は昇ってて昼頃。
屋敷の前でテグトトさんとシルフさんとはお別れだ。
「お嬢ちゃんたち、また会おう。
この恩は返さねばいけんからのう」
「元気でな〜」
フリィアちゃんとリルメスに元気はなかった。
疲れてるのもあるだろうが、やっぱりさっきのことだろう。あれを聞いて元気でいられるわけがない。
「……ではグラバ殿にケルエタ殿、我はこれで」
テグトトさんはそうお辞儀して、
シルフさんと共に俺たちから離れていった。
「……さて、ご飯でも食べましょうか」
……気まずい。フリィアちゃんは頷くだけで、
リルメスに関しては無視だ。グラバさんも無言。
なんだこれ……ギスギスしすぎだろ……
* * *
二人を救出してから五日。
段々と屋敷も首都に帰るために荷物をまとめ始めてて、俺とフリィアちゃんも荷物をまとめてる。
首都に行くわけじゃない。
フリィアのおばあちゃん家に戻るだけだ。
「……ケルエタさん」
自室にてフリィアちゃんは俺に話しかけてきた。
「どうしました?」
ここ最近の表情は暗いまま、
フリィアちゃんはリルメスと一緒にいたいんだろう。
「ケルエタさんでも……どうにかできませんか」
「……どうにかしてあげたいですよ。
でも……どうしようもできない……」
苦しい……なんでこんなに辛いんだ。
「その……リルメスお嬢様とはちゃんと話してます?
もう当分会えなくなりますし、悔いは残さな──」
「悔いなんて残っちゃいますよ……
ケルエタさんは……残さず別れられるんですか?」
フリィアちゃんの言葉が効いた。
悔いをなくして別れるなんて無理だ。
……俺だって悔いがないわけじゃない。
だってこのままじゃリルメスを助けられないんだ。
フリィアちゃんだけなら問題ないが、
俺はリルメスの運命も救わなきゃいけない。
このままいけば離れ離れになって戦争が起きて、
リルメスを救うことができずにゲームオーバーだ。
「私も悔いがないわけじゃないです。
できるだけのことはしてみますが……
フリィアちゃんもあまり期待しないでくださいよ」
フリィアちゃんは俺がそう言ったら頷いて、
荷物をまとめる作業に戻った。
リルメスが屋敷を離れるまでの九日間、
俺はどうにかして未来を変えなきゃいけない。
できるできないじゃない……やるしかない。
だが……。
……現実ってのはそうポンポン上手くいかない。
俺はチートを持った最強勇者でもない。
金を有り余るほど持つ貴族でもない。
どれだけ俺が意気込もうと未来は変わらない。
金も力もない俺には知識しかない。
ただ時に知識は無力だ。まさに今とかな。
結局八日間ほど説得だとか、
それ以外のことを色々考えてみたが、
全て無駄足、未来が変わることはなかった。
明日、リルメスは屋敷を離れ、
首都レクセトへと帰ってしまう。
フリィアちゃんと俺はすでに住まいを変え、
おばあちゃんと共に暮らしてはいるが……
「フリィア……暗い顔してどうしたんだい?」
「……ううん。おばあちゃん大丈夫」
「そうかい……」
フリィアちゃんは完全に落ち込んでる。
号泣して喚き散らさないのは正直びっくりだ。
この歳での別れなんて耐えられるはずもない。
俺が九歳の時はここまで立派じゃなかった。
「フリィア……ボルワール家のお嬢様とは仲良くなれたのかい?」
「うん……仲良くなれたよ……すごく」
フリィアのおばあちゃんは相変わらずだ。
過干渉もせず程よい距離感でいてくれる。
この人……毎月白金貨を2枚送っていたのに、
家どころか家具すら新調してない。
食事こそ今は豪華だが、
これはフリィアが家に帰ってきたからだろう。
おばあちゃんの生業は服の修復、
正直、白金貨が2枚も無償で手に入るなら、
家具の新調くらい余裕で出来るはずだ。
「フリィア……そのお嬢様とは離れたくないかい?」
「もちろん……! でも……首都には行けないよ。
おばあちゃんも心配だし……お金もない」
たとえ金があったとしても、
フリィアちゃんはこの村を離れない。
フリィアの唯一の身内、
おばあちゃんは何者にも変え難い存在なんだ。
「そうかい……ちょっと待っててねぇ」
「うん……」
フリィアちゃんは椅子に座り直して、
おばあちゃんはゆっくり立ち上がって、
別室の方へと歩いていった。
「……フリィアちゃんは立派ですね」
「え?」
俺の母さんはシングルマザーで、
父親は俺が幼稚園生の頃に出ていった。
「私は……母様のために踏み止まれませんでした」
母さんはいっつも自分を後回しにして、
仕事に呑まれてもいつも笑顔だった。
夜勤の時は俺をばあちゃんに預けて、
それ以外の仕事の日でも帰ってきたら笑顔だった。
「母様は私のために尽力してくれました。
ですが……私は母様を裏切ってしまったのです」
俺の母さんはどう思ったんだろう。
……通り魔に刺されて死んだなんて──
そんなことを聞いてどう思ったんだろう。
「……少し自語りが過ぎましたね。
フリィアちゃんは立派です……私なんかよりも」
俺は母さんの全てを受けて、全てを裏切った。
母さんは俺の背中をいつも押してくれて、
上京することにだって否定しなかった。
大学に入って一人暮らしして、
仕送りは毎回豪華ですごく助かった。
なのに……なのに俺は何にもしてあげられなかった。
ああやって死ぬならば……母さんの側にいて、
俺は着実に恩返しするべきだったんだ。
「……ケルエタさんも立派ですよ」
「……え?」
「ケルエタさんはわたしのことを助けてくれて、
剣士になるために力を貸してくれた……
わたし……嬉しかったんです、大剣を貰った時。
無理して買ってくれて、わたしに期待してくれて。
……わたしは自分以外の人にそこまでできません……
でも、ケルエタさんはいつも全力で──
わたしの″背中を押してくれた″」
……母さん。俺は母さんを裏切った。
死ぬなんてのは最低な親不孝だ。
『母さん。俺売り上げトップだったんだ。
すごくないか? ホームページに載ってるよ!』
『あぁらまぁ〜すごいわね〜。
ケンちゃんさすが〜!』
いつの日かの通話越し、
俺は母さんにこんなことを言われた。
『ケンちゃん前言ってたことだけど……
焦らずゆっくり生きなさいね。
自分が何者かなんて気にしないで、
そもそもケンちゃんは″私の息子″なんだから」
……俺は勝手に自分が何者でもないと思ってた。
でも、俺は母さんの息子だったんだ。
世界でただ一人……母さんの息子。
『ケンちゃん。困ったら頼りなさいね』
……俺は元気でやってるよ母さん。
この姿は見せられないけど、
異世界だけど……頑張ってる。
今、俺は母さんの立場になってる気がする。
こんな気持ちだったんだな母さん……
「私で良ければいくらでも押してあげますよ」
フリィアちゃんにそう言ったら、
暗い表情だったフリィアちゃんは少し笑った。
それと同時におばあちゃんが帰ってくる。
俺はおばあちゃんが何を持ってきたか気になった。
小袋……? 音がジャラジャラ鳴ってる。
なんだ……あれ?




