第二十五話 愛情
さて、異世界ガイドとしてかなりのピンチを迎えた今日だが、今になって死のリストが一括更新。
赤文字だとか黄色文字は全部消えた。
最初はマジで焦ったが……大丈夫だった。
というよりは……予想以上に二人が強かった。
フリィアちゃんとリルメスの二人は、
連携だとかが特に上手い。
だから迷宮の暴野に負けなかったんだ。
やっぱり、このルートは正解だった。
鍛えさせてなかったら多分即死してる。
この階層の主は死族の暴野。
魔族の中に含まれる死族、等級はわからない。
ただ、英級魔法使いのテグトトさんがいて、
かなり苦戦してる様子があったのと、
死のリストが赤文字を示してたってところから──
大体、英級上澄みか準俊級クラス。
こっからの戦いはグラバさんがやってくれる。
俺はこの人が強いことを知ってるが、
本気だとかは見たことがない。
「37体から増えませんね。それが上限ですか」
準俊級の魔法使いは、
俊級魔法を扱うことができる。
もちろん俊級魔法使いほど、
扱い慣れてるわけじゃない。
「炎道灰界、火の神はそう言った。
旭日の下、一本の炎道に達する者、
黎明の暁を身に、一切を灰燼と化せ。
炎天炎……」
俊級炎魔法……実際に見るのは初めてだ。
グラバさんの杖から橙色の火球が、
天井付近に放たれて火球は静止した。
そして……その火球は爆発。
爆発によって大量の火の光線が放たれて、
そこら中に降り注がれてた。あの一本の光線の威力は、おそらく上級炎魔法と大差ない……
そんな威力の魔法が部屋の大半を埋め尽くして、
37体もいた奴らは1体を残して消滅した。
召喚されてた召喚体も、もう残ってない。
「……すご」
赤い光の玉からそんな声が聞こえた。
俺もそう思う。たった一つの魔法でここまで……
「一体の性能はあまりにも弱い、
分身から作り上げられた個体は特に……
ですから今の攻撃で生き残った貴方、
貴方が本体ですね?」
グラバさんが魔法の杖を向けるのは、
あの魔法の中で生き残った個体。
「風山」
グラバさんは単音詠唱で魔法陣を省略した。
魔法発動に必要なのは詠唱と魔法陣、
そのうち完全に省略ができるのは魔法陣のみ。
難易度は高くできたとしても、
ある程度の威力を保つ必要がある。
魔法陣を省略して詠唱も単音……
省略しすぎて威力なんてほとんどないのに、
下級風魔法、風山は主の触手を切断した。
グラバさんは魔法の杖を腰に差して、
両拳に力を込めてゆっくり前に歩き始めた。
魔法じゃなく、徒手による撲殺……
多分、グラバさんなりの八つ当たりだろうな……
基本的に拳戦者は戦士として弱い。
なぜなら完全に身体強化魔法頼りだからだ。
唯一の取り柄は近接戦での優位度。
剣ほどの動作もなく、拳は瞬発力で優れていて、
相手が対処する前に攻撃を入れることができる。
プロボクサーのパンチはめちゃくちゃ速い。
剣道有段者が真剣を持ち、プロボクサーの間合いからタイマンしたら勝つのはプロボクサーだ。
でも、剣道有段者が鎧を着ていたら、
その拳は鎧を貫くことはできない。
低等級は倒せても高等級の存在は、
基本的に身体が硬く魔法で強化されている。
あの主が硬いかはわからない。
ただ、あの触手に関しては少し硬いはずだ。
だから、グラバさんがこうやって突撃するのは、
あまりというか……絶対に得策じゃない。
でも……これはそう言う問題じゃないんだ。
グラバさんは怒っている。
やり場のない怒り。
リルメスとフリィアちゃんを物理的に、
離れ離れにしなくちゃいけないことへの怒り。
あの人だってしたくないはずだ。
だけど、いずれしなきゃいけない。
リルメスの今回の行動が一番の問題じゃない。
もう来年で二人は十歳になる。
リルメスは領主一家の貴族だ。
こんな田舎で何年も滞在するわけにもいかない。
それに、魔法使いとして素質がある以上、
魔法学校に入れて大学に行かせたいはずだ。
「……」
グラバさんはそんなことを言われたのだろうか。
リルメスを首都に連れて帰ってこいと……
「グラバって……すごい強いわね」
「あんなに強かったんだ……」
……きっかけができてしまった。
表面上じゃ今回のことを言及して、
強制的に首都へとリルメスを帰すんだろう。
俺的にもすごく困る……けれども、
どうやったってそれを防ぐことはできない。
俺が何をしたって……フリィアちゃんがリルメスについて行くことは不可能なんだ。
首都で生活する金なんてない。
「あっ」
グラバさんにふと目をやったら、
主の触手を拳で次々と破壊して、
胸ぐらを掴んで片手で顔面にラッシュを決めてた。
片手の殴りだってのに俺の全力両拳パンチより速い。
まあ、そりゃそうか。この世界と元いた世界の身体能力の差なんて大きすぎる。
俺が転生して人だったら、ああなれてたかな?
「……討伐完了」
グラバさんは主を倒した。
呆気なかった。というよりは相性問題だろう。
主は分類じゃ魔法使いとかだ。
グラバさんは魔法使いであって拳戦者、
どうしようもできなかったんだろう。
「グ、グラバ……」
リルメスが怯えた様子でグラバに近づいた。
叱られる。怒鳴られる。そんな不安があるんだろう。
「お嬢様……二週間後、首都レクセトに帰りますよ」
「……ぇ……え?」
「とりあえず、屋敷に帰りましょうか」
グラバさんは困惑して固まったリルメスを置いて、
主が死亡した瞬間に輝き始めた床を調べる。
「リルメスちゃん……首都に帰っちゃうの?」
「え……い、いやよ帰らないわよ!」
フリィアちゃんがリルメスに近づいてそう言ったら、
リルメスはグラバさんの方に走って言い返した。
「絶対にいやよ!! フリィアと離れたくないわ!」
「お嬢様……今回の件で私は確信しました」
グラバさんはリルメスに振り返った。
そんなグラバさんにリルメスは怯えない。
「リルメスお嬢様のわがままは問題ないですが、
好奇心による危険行為などがあるのであれば、
首都という安全な場所で過ごしてもらいます」
「な、なんで!! 今回はあたしがやったけど……
もうしない!! しないから!!」
リルメスは駄々をこねてる。
俺は思わず目を逸らしたくなった。
でも、みんな逸らせないんだ。
みんなが二人を見ていた。
「ねぇグラバ! もうしないから!!
だから帰るのなんていやよ!!」
グラバさんはリルメスに腕を掴まれてる。
「リルメスお嬢様……貴女は何者ですか?
答えて差し上げましょう。貴族なのです。
領主様の血を継ぐ貴族なのですよ。
そろそろ自覚なさってください」
グラバさんはいつもと違って冷たい。
あれでも優しい方だがわざと冷たく接してる。
「……なによ……グラバのバカ!!
絶対帰らないわ!! なにが貴族よ……
あたしは貴族になんて生まれたくなかった!!」
「お嬢様ッ!!」
「っひ……」
グラバさんが怒鳴った。
「……生まれた場所を拒絶することを、
私は否定などはしません。
ですが……周りが注いでくれている愛情に、
そうやって反抗するのはお許しできません」
リルメスはわけがわからない様子だった。
不思議と目からは涙がこぼれ落ち始めてる。
「リルメスお嬢様、お父様やお祖父様は……
貴女を魔法使いにしたいという願いだけじゃない。
大きな怪我なく、大きな病気に罹ることもなく、
健やかに生きてほしいのが願いなのです。
しかし、リルメスお嬢様はそれを裏切ってしまう。
好奇心ゆえの行動は命に関わるものが多い。
リルメスお嬢様、貴女は愛されているのです。
まだ九歳なのですから自身の力に見合った行動、
それを意識してください……」
正論だ。リルメスは愛されてる。
だから、グラバさんは怒ったんだ。
貴族になんて生まれたくなかった。
これは愛情に対する冒涜発言……
……ただ、リルメスはまだ九歳。
こんなことを理解しろと言われても、
それは難しい話だろう……いや、そうか。
これが教育ってやつなんだ。
グラバさんはリルメスに実感させたのか……
「でも……フリィは……フリィはどうするのよ。
あたしはフリィを置いていきたくなんてない!!」
グラバさんはリルメスから顔を逸らした。
涙を流しながらそう言うリルメスを、
グラバさんは直視できなかったんだ。
フリィアちゃんのことは、
グラバさんだって痛いほどわかってるだろう。
……。
とりあえずだ……とりあえず迷宮から脱出しよう。
輝いてる床は転移魔法陣だろう。
横にある階段は下の階層への道……
俺たちはもちろん転移魔法陣の上に乗った。
転移した場所は森の外だった。
第一部 第三章 不帰の大森林編 -完-
次章
第一部 第四章 首都レクセト編
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第一部も次章から後半へと突入。
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