第二十三話 賭け事
* *【シルフ視点】* *
テグにはウチが長年付き添ってきた。
こいつがまだ子供の頃からウチはそばにいる。
生涯で3回、テグは英級の敵と戦ってる。
英級はさすがに強いさ。
毎回テグだって死にかけてた。
でも……今回の敵は少し違った。
等級は結局のところどこまでいっても強さの指標。
直接的に強さを断定できるわけじゃない。
ウチらが等級を予想する中で重要な情報、
それは魔力量と攻撃の規模感。
高い等級ほどここら辺はわかりやすいんだよな〜。
ただまあ、わかりやすいってだけで、
普通に見誤る時だってあるさ。
そう、それが今回だったんだ。
「テグ……あれ召喚魔法?」
「じゃよな……じゃが規模感が」
同じ等級でも格差はある。
英級でも準俊級に近いやつとかね。
「お嬢ちゃんたち、自分の身は一人で守れるか!
どうやら……あの主想定外の強さじゃ……」
「召喚体はフリィとあたしが蹴散らしてやるわ!」
リルメス嬢とフリィア嬢、
二人は九歳にしては強い。
召喚魔法で召喚された雑魚敵たち。
等級は大体中級レベル、頑張って準上級くらい。
だけどなにせ数が多いんだよね〜……
この規模感の召喚魔法は英級以上。
準俊級がやるようなレベル。
でも魔力量自体は英級……中途半端な奴。
「召喚魔法しか扱えぬ敵だったら楽じゃなぁ」
「絶対ないって、属性魔法とかで戦うでしょ〜」
召喚魔法を使う奴は地力の有無関わらず、
大体っていうか絶対属性魔法持ってるし、
まあこいつも例外とかじゃないでしょ。
「茈雷上々、染め上げの天空、
見えし幻郷、呼応せし迅雷、
熱の抱擁、雷日讃歌……世雷盤上!」
英級雷魔法の中で集団戦向きなら、
多分この魔法がトップクラス。テグも本気だね。
テグの放った雷魔法は、
紫色の電撃を大量に上からを落とす魔法。
シンプルだけどこの大きな部屋全体に範囲はあるし、
なにせ威力もめちゃくちゃに高いから強い。
今の魔法で大体の召喚体が灰になった。
でも、肝心の主は空間魔法で防御。
召喚体も灰になった瞬間、新しく召喚された。
「……あやつ、我より魔法発動早くないかのう?」
「うわ〜早、召喚体復活早すぎでしょ」
うん。早い。確かに早い。
主はおそらく死族。
全身黒い布で隠れてるけど、
召喚する奴らが全部骸骨の魔族。
ってなると召喚魔法じゃない可能性もあるな〜……
「テグ、あいつ召喚魔法じゃないだろ。
多分だけどさぁ〜あれ、″固有魔法″じゃない?」
「なるほどのう、確かにそうなれば説明がつく」
固有魔法、魔族のみが持つ魔法。
魔族は種族ごとに固有魔法を持ってて、
結構なんでもありだから、納得するには十分。
死族は魔族に分類されるし〜?
「……のうシルフ。我に策がある」
「策? テグの策とかちょっと不安だわ〜」
「失礼じゃな……」
策……なんだろう。
ウチはなんも思いつかないけど。
「お嬢ちゃんたち! 頼みがあるんじゃが良いか!」
なんで二人を……?
「いいですよ……!」
「あの主二人で倒しとくれ〜!」
「ふぇ?」
「え?」
「は?」
全員がテグを見たさ。
何言ってんの? 相手は英級レベルの暴野!
この二人なんかが勝てるわけないじゃん!
「む、むりですよ!! わたしたちじゃむりです!」
「そうよ!! いくらあたしたちが天才だって、
ちょっとめちゃくちゃ言い過ぎ!!」
お二人は焦ったように怒ってた。
まあそりゃそうでしょ。ウチもキレると思う。
死んでくださいって言ってるようなものだし……
「まぁてまぁて……そりゃ正面から戦わせるわけないじゃろうが、″トドメ″をお願いしたいだけじゃ」
「トドメ……?」
「あたしたちに?」
……ははーん? わかったぞテグ。
お前、召喚体とかの処理を自分がして、
主の隙をついてもらうわけだな?
だけど、あいつが属性魔法を使う可能性だって──
「お嬢ちゃんたち、これは賭けじゃ。
あやつは属性魔法を使えた場合、お主らは死ぬ。
じゃが、ここで動かねば我の魔力切れで死ぬ。
賭けるなら可能性のある方に賭けてみんか?」
ははっウチの相方イカれてる。
戦場とはいえ、リルメス嬢は貴族だよ〜?
生きて帰っても死なせたら極刑でしょ。
でもまぁ……ウチは賛成かな。
二人がどう思うかは知らないけど。
「……隙は作ってくれるんですよね」
「もちろんじゃ、我ならできる」
「フリィ、やってみましょ」
「で、でもぉ……」
「やらなきゃ死ぬだけらしいわよ!!
いいからやりましょ! 大丈夫あたしたちなら!」
この二人、性格が真逆だなぁ……
剣士なのにちょっと弱気なフリィア嬢。
魔法使いなのに強気なリルメス嬢。
面白いコンビだね。あんま見ないよ。
「テグ、属性魔法を使わない根拠はあるの?」
「ある。見てみろあやつの手、
魔法の杖以前にそもそも手がないんじゃ。
固有魔法は普通の魔法体系から逸脱しておる」
テグはそんなことを言いながら、
こっちに歩いてくる召喚体を倒してた。
「おそらくじゃが、固有魔法による召喚の規模感、
それにこの段階で属性魔法を使わない時点で、
あやつは固有魔法特化の死族というわけじゃ」
さすが魔法大学エリート。
そういうことね。二人はちんぷんかんぷんな感じだけど、ウチは理解できた。
「でもさ〜あいつ形態変化したらどうすんの?」
「そこが我の賭けポイントじゃよ。
するか否か、もう運じゃ」
なるほどね〜。だから賭けってことか。
「お嬢ちゃんたち、準備は良いか?」
「いつでもいいわよ!」
「は、はい!」
戦況が変わった。
こっち側はついに攻めに入る。
「リルメスちゃん。テグトトさんが倒しきれなかった召喚体、頼むね……!」
「任せなさい余裕よ!!」
フリィア嬢大剣使いなのに……
身体強化なしであそこまで早く動けるの?
ウッソすご……!
「リルメスちゃん!」
「火華の開花一閃……華上炎!」
それにリルメス嬢もいいサポート。
事前に詠唱をしておいてすぐにカバーしてる。
テグの援護もあってどんどんフリィア嬢が主に接近していって、もうすぐ間合いに入りそうだよ!
「うそっ……!」
主の黒い布の中から大量の触手が出てきて、
それが一直線にフリィア嬢に向かってる。
先端は鋭利なやつもあるし……殺す気だよあれ。
「雷十刺!!」
でもそこはテグがカバーした。
単音詠唱の雷十刺、威力は終わってるけど触手を焼き貫くことくらいはできる。
「止まるなフリィア嬢ちゃん!!
お主は剣士なんじゃ恐れず進めェい!!」
テグのそんな声にフリィア嬢は感化されたのか、
もう一度前へと一歩踏み出して、主に近づいた。
完全にフリィア嬢の間合い、
あとは大剣で斬りつけるだけだよ……!
「っくぁ!」
いきなり、フリィア嬢がこっちに吹き飛んできた。
なに……なにされたの?
「隠しの触手があったのじゃな……!」
「フリィっ!!」
「っひゅっ……だいじょ、うぶ」
マジ……? 立てんの?
あの速度で吹き飛んだんだから骨とか──
「絶対に……あいつを倒すんだ。
じゃないとっ……帰れないからっ!」
「フリ……ん……ううん。わかった。
フリィ、倒すわよあいつ。それで帰るの!」
フリィア嬢は弱気なんじゃない……
ただ表に出ないだけで内心は剣士だ。
九歳で女の子なのにお腹を殴られて吹き飛んでも、
立ち上がって前に進む。この娘生粋の剣士だね……
「次は失敗しない……リルメスちゃん。
またお願い」
「何度でも頼りなさい。
フリィには特別よ!」
二人の精神性は鍛え上げられてる。
こんな強靭な精神を持った子たちを、
ウチはこの人生で見たことがない。
相手は推定英級の暴野。
でも手数は少ない……勝ち筋はある。
なんて思っていたけど、
ウチらは知ることになるんだ。
こいつの固有魔法は″一つ″じゃなかった。ってね……




