第二十二話 英級魔法使いの力
* *【リルメス視点】* *
「二人はすごいね〜その歳で中級?
さっきさ、下級とか準中級の暴野が死んでて、
暴野同士の争いかと思ってたけど……
切創があったから、もしかしてってなったんだ」
切創……? 知らない言葉だわ!
フリィなら知ってるかしら?
「フリィ、切創ってなにかしら?」
「ごめん……わたしもわかんないや」
珍しいわね……フリィは物知りなのに。
「シルフ、難しい言葉は伝わらんぞ?」
「あぁ〜ごめごめ、まあ簡単に言えば斬った跡だよ」
切り傷みたいなそんな感じかしら……?
「なんかこんな時に聞くのもなんだけど、
二人はなんで戦士を目指してるの?
ウチは戦士なる人の動機が気になんだよね」
動機……? また知らない言葉だわ……!
「フリィ、動機ってどんな意味?」
「例えば……戦士になりたい理由とかだよ」
戦士……そうね。聞かれると出てこないわね……
フリィはちゃんとなりたい理由もあるけど、
あたしってなんで戦士になりたいのかしら。
魔法は綺麗だから好きだけど……
戦士になる理由は確かにないわね。
……
「……」
「リルメスちゃん……?
ずっと黙ってるけど、どうしたの?」
気がついたらあたしは黙ったまま歩いてて、
目的地の扉の前まで来てたわ。
「ん、あ、いや! なんもないわよ!!」
「動機聞いたら固まっちゃったからさ〜。
ちょっと心配したわ〜」
……動機。
「さて……この扉が開くか開かんかで未来が変わる。
お嬢ちゃんたち、魔力を扉に流してくれんか?」
テグトトがそう言ったらフリィが先に前に出て、
扉に向かって手を当てたけど──
「魔力の放出だけならわたしもできる……
けど、ビクともしません……」
「……じゃあ次はリルメス嬢だね」
シルフがそう言ったからあたしも扉に手を当てた。
でも、魔力を放出しても動かない。
「……困ったなぁ。こりゃどうするシルフ」
「テグ、そんなウチは全能じゃないっての」
動かせなかった。
これじゃ出られないじゃない……!
「リルメスちゃん。こっち来て」
「え? う、うん」
フリィがそう言ったから、あたしは近づいた。
「手、扉に当てて魔力出しておいて」
「う、うん?」
な、なに? なにするの?
「できるかわからないけど……」
フリィがあたしの手の上に手を置いてきた。
結構温かいのよね……フリィの手って。
そう思ってたら、ガチャンって音が扉からしたの。
「いけたかな……?」
「どういうこと!? なにしたのフリィ!」
扉がギィギィ言いながら開いたの。
なにが起きたの? 開いちゃったわよ!
「開いたぁ!? な、なんで開けたぁ!?」
「ホォ〜なるほど! ″混合″か!」
混合……? もう難しい言葉ばっかで嫌よ!!
「魔力は混ざるってケルエタさんが言ってた。
リルメスちゃん……忘れてたの?」
「いぅ……もちろん覚えてたわ!!
そう、混合よね!! 混合!!」
なんか言ってた気がするけど……
全然覚えてなかったわ。
フリィの言い方からして多分、
魔力が混ざり合うことを言ってるのよね?
「特殊な魔力……なるほどねぇ〜、
混合にて生じた魔力を指してたのか」
「その記載はあれか? 壁に書かれたりしておる、
″古字語″からのものだったのじゃ?」
「そう、大昔は混合なんて用語ないから納得」
なんだか難しいこと言ってるけど、
とりあえず扉は開いたから問題ないわよね!!
「それにしてもお手柄〜!
フリィア嬢は天才だね〜」
「そうじゃのう……我は気づかんかったわい。
まさに天才じゃな!」
二人はフリィをよくわかってるじゃない!
「そうよフリィは天才よ!」
「えへへ……天才、かぁ」
* * *
「お嬢ちゃんたち、先に言っておくが、
この先の主の等級は英級クラスじゃ。
無理に戦わんでよい、自分の身だけを守るんじゃ」
扉の奥に進めば長い廊下があって、
そこでテグトトからそう言われたわ。
さっきの黒い騎士が上級……
ならあたしとフリィじゃ敵うわけもないわ。
悔しいけど……英級なんて無理よ。
「リルメスちゃんはわたしの後ろにいてね」
「フリィが危なくなったら魔法で助けてあげるわ」
でも、死ぬ気なんてしないわ。
だって、勝つのは無理でも負ける気はしないの。
「……シルフ」
「あぁいるな〜。三体いてその内一体が主だ」
耳が塞がっちゃいそう……
魔力の差がすごいんだわ。
うぅ……耳がちょっと痛いわね!
「繋空」
「あれ?」
「耳が痛くないわ……」
「空間魔法でお嬢ちゃんたちを覆った。
魔法の鎧見たいなものじゃ、耳の痛みは消えたか?」
すごい……単音詠唱で空間魔法を発動したわよ。
「さぁ来るぞお嬢ちゃんたち。
下級や中級の比じゃない奴らがのう!」
テグトトが前に一歩出た瞬間、
部屋中が明るくなって三体の暴野が見えたわ!
二体はさっきの大きな黒い騎士がいて、
残りの一体は奥で椅子に座ってたわ……
「シルフ、強化魔法を頼むんじゃ」
「はいはい。魔力強化入れとくね」
えぇ!? シルフって魔法使えるの!?
ケルエタは使ってないから使えないと思ってたわ。
他人に対して身体強化魔法使ってるしすごいわね……
「震天せし空卓の斑模様。割乱の隙から伸びる、
裁き具現の雷帝の槍たちよ。我に従い今こそ、
その震えたる轟音を響かせ……帝裁睨天!」
英級雷魔法。
あたしは初めて見た。すごかった。
テグトトさんが持つ魔法の杖の先端から、
電撃が放たれて三体の暴野の上に集まったの、
そのあと、一気にそれが爆発して下にいる暴野たちに降り注いだのよ!
雷が落ちるみたいな衝撃が連続で何個も……
でも……暴野たちはそれを喰らっても、
倒れることもなくて、意外に大丈夫そうだったの。
しかも、魔法が終わったあと、
黒い騎士たちはこっちに向かって走ってきたわ!
「ほほう耐えるか。所詮集団戦特化、
雑魚狩りと言ったところじゃな。
ならば……雷日、一千の時 雷十刺」
雷十刺は下級魔法でしょ……?
そんなのであの黒い騎士を──
「まず上級程度じゃ釣り合わんな」
「テグ、いつ準俊級になんだ?」
「ホォホォッ、敵がおらんのじゃよ」
嘘……黒い騎士を一体倒しちゃった。
下級魔法ってそんなに強かった……?
だって、連打の魔法だし威力もないのに……
あんな硬そうな鎧を……こんなに差があるの?
「テグ、もう一体の奴はどうする?」
「もちろん″アレ″でやるじゃろ」
「あ〜はいはい。わかった」
な、なに、次はなにをするの?
「雷狂の悪魔。その身に刻まれし、
怒り狂う雷撃を顕現せよ。我の熱にて、
その閉ざされし欲を放て。魔雷!」
魔法の杖から次は一直線に一本の電撃が放たれたわ。
それはすっごく早くて全然目で追えなかった……
だから気がついた時には、
もう一体の黒い騎士を倒してたの……
「……弱いのう。シルフどう思う?」
「黒い騎士モチーフの″召喚魔法″じゃない?」
「ほぉ〜あり得るな」
召喚魔法……? 名前しか知らないわよそれ。
ダメだわ……全然ついてけない。
会話にも、魔法にも……これが英級?
「リルメスちゃん……テグトトさんすごいね」
「えぇ……すごすぎるわ」
すごいなんてレベルじゃないわよ……
こんなのなれるのかしら……この強さにあたしは。
「ついにやる気か、主」
「テグ、油断すんなよ。多分、英級だぞ〜」
「油断したことなんてないわい」
あんなあっさり黒い騎士を倒して……
もう主との戦いになっちゃった。
どうなるんだろう……どんな戦いなんだろう。
ちょっとこわいけど、見るのがやめられないわ。
気になる……魔法の戦いが気になる……
「シルフ、魔力強化を頼んだんじゃ」
「こき使うよな〜。はいはい」
あたしは生まれて初めて目にすることになるわ。
異常な強さを持つ人同士の戦いを──




