第二十話 井の中の少女二人
* *【リルメス視点】* *
『迷宮攻略は一流のギルドのみが行うお仕事。
どんなに危険度の低い迷宮でも、その迷宮を支配する主と呼ばれる存在は上級以上の等級なのですよ』
あたしやフリィはまだ中級で準上級にはなれてない。
『お嬢様が迷宮に関わることはないでしょうが、
迷宮の知識は覚えておいて損はないでしょう。
実際、迷宮の出現は珍しくなく、そして多種多様。
転移魔法によっての迷宮入りは多いですからね』
あの時のグラバが言ってたことはよく覚えてるわ。
正直、あんまり理解はできなかったけど……
でも、今ならわかるわ。
迷宮が一流のギルドとかの仕事になる理由もね。
だけど! あたしとフリィなら余裕よ!
だって、一流ギルドと同じくらい強いもの!
「……これで全部かな?」
「四体も一気に襲ってきたけど弱かったわね!」
「えへへ、リルメスちゃんの魔法が強いからだよ」
あたしは魔法の天才。
みんなそう言ってるし、あたしもそう思う!
暴野はこわいけど……あたしにはフリィがいるもの。
「あたしのちょー強い魔法が放てるのは、
フリィが守ってくれるからよ! 誇りなさい!」
フリィは嬉しそうに笑ってくれる。
だからあたしも嬉しいわ。でも今回だけ、
フリィはあたしの手を握って話しかけてきたの。
「リルメスちゃん……ずっと思ってたんだけど──」
フリィが喋ろうとした瞬間、
あたしはフリィに突き飛ばされたわ。
それと同時、音が消えたの……
「なっなに……?」
あたしがびっくりして目を閉じてたら、
また手をフリィに握られて、フリィがあたしの手を無理矢理引いて走り出した。
なに? なにが起きてるの?
気になって目を開けてみて、
あたしは真っ先にフリィを見てみた。
「っ、フリィっ!!」
フリィの肩が、少し深く斬られてた。
あたしは走りながら振り返る。
「!」
そこには……真っ黒な鎧を着た大きな騎士がいたわ。
グラバの2倍くらいの身長の騎士……暴野、なの?
「ケルエタさんが言ってた。
強い暴野は魔力量が多いから、
自分より強すぎると耳が塞がるって……」
″魔力の圧″、確かに習ったけど……
あんな……あんな耳が聞こえなくなるの?
あれが……この迷宮の?
「一瞬すぎて見えなかった。
動かなかったらリルメスちゃんが死んでた……!」
後ろにいたあの騎士を見たくなくて、
あたしは、フリィの方をもう一回見た。
「フリィっ、肩が……肩の怪我がっ」
「大丈夫……痛いけど今は走らなきゃ」
なによ……なによあいつ!!
フリィになにしてるのよ……!
「水の精霊よ……! その煌々(こうこう)なる光の下に、
我が人生に潤い与え、大敵を打破せよ……!
破浄斬!!」
走りながらの魔法の発動なんて、
あたしだってほとんどしたことないわ。
でも、やり返さなきゃあたしは許せない!!
「嘘っ……」
あたしの放った破浄斬は中級水魔法。
三日月の大きな水の斬撃をあいつに放ったのに、
あたしの魔法を……黒い剣で打ち消しちゃった……
全力の魔法なのに……走ってても威力自体、
そう変わったりなんてしないのに……
あたしの、あたしの魔法を……
「リルメスちゃん……曲がるよ!」
そう言って道を曲がったら、
そいつの姿は見えなくなっちゃったわ……
* * *
あの黒い騎士に魔法を放っても追って来なかった。
フリィとあたしは走って逃げて、
誰もいない小部屋で休憩することにしたの。
「はぁ……はぁっ、はぁっ、フリィ、怪我がっ!」
「大丈夫、大丈夫だよリルメスちゃん……」
フリィは涙目だった。
肩だって震えててすごく痛そうだった。
「天なる眼聖達よ……緑光降り注ぎ天の切れ目、
癒しを与え苦難を打ち消したまえ! 緑癒!」
あたしが魔法の杖からフリィの肩に、
中級治癒魔法を放ったら傷はとりあえず塞がったわ。
だけど、中級だから……全部は治らなかった。
「ごめん……治りきらなかった」
「ううん。だいぶ楽になったし……
もうほとんど無傷みたいなものだよ。
……ありがとうリルメスちゃん!」
……フリィは泣かない。
あたしの前じゃ一回も泣いてない。
フリィは誰よりも強いってあたしは知ってる。
でも、あんな怪我しても泣かないなんて……
「そ、その、フリ──」
「リルメスちゃん……大丈夫? 震えてるよ」
そう言ってあたしの手をフリィは両手で握ってくれた。そしたら……なんだかすごく安心しちゃったの。
「……フリィ、守ってくれてありがと」
「……うん。どういたしまして」
* * *
迷宮に入ってから大体3時間、
テグトトって人も見つからないし……
さっきの騎士がこわくて動くこともできない。
「ごめんフリィ。あたしが誘ったから……」
「ち、違うよ! リルメスちゃんのせいじゃない!
わ、わたしもついてきたし……わたしも悪いよ」
あの騎士は多分上級……でも主は専用の部屋にいて、
ああやって急に出てくるわけないから……
あれが普通の敵……どうすればいいのよ。
魔法も効かなかった。
フリィの動きもギリギリだった。
あんなの勝てないわ……
グラバとケルエタはあたしを認めてくれたけど、
まだ……まだ全然弱いじゃない……
あたしはもっと強いと思ってたのに……!!
「……リルメスちゃん、なにか飲む?」
「飲み物なんて持ってきてたの?」
「柑鮮を2本だけね……」
フリィはそう言ってあたしに、
鞄から取り出した柑鮮を渡してくれた。
「ありがと……」
「困っちゃったね……」
フリィがあたしの隣でそう言ってくる。
困った……うん。困ってるわ、すごく。
「わたしね……昔から剣士になりたかったんだ」
「そうね……フリィはよく言ってるわよね」
フリィは剣が大好きで剣士に憧れてるわ。
「わたしのお父さんとお母さんは、
一流のギルドに入っててわたしが生まれて、
2年でどっちも死んじゃったの。それも……迷宮でね」
初耳だわ……そんなことがあったの?
「……そう」
「どっちも強い剣士だったんだって。
わたしは二人に憧れたってよりは……
二人の見ていた″景色″を見てみたいんだ」
景色……剣士になった景色?
「それってどういう……?」
「剣士として前に出て戦って、
誰かを守って勇敢に立ち向かって、
その時に見てる景色はなんだろうって……」
フリィは横に置いてる大剣を見て、
少し唇を噛み締めた後、また喋ったわ。
「あの騎士を見た時、心の底から思ったの。
こわくて立ち向かえない……できないって……
わたしはまだ、剣士になれてないって思ったの」
「フリィは立派よ! フリィはちゃんと剣士よ……」
あたしがそう言ってもフリィは笑ってくれない。
「……ダメなの。もっと強くならなきゃ、
守りたい人を守って敵を倒さなきゃいけない。
あの騎士を見た時に立ち向かえなかった……
でもリルメスちゃんは、魔法をあいつに放った」
だ、だけど……
「確かにダメージなんてなかったけど、
わたしは立ち向かえなかった。
自分で……景色を見たくなくなっちゃったんだ」
……フリィ、そんな自分を……
「わたしはリルメスちゃんを守りたい……
絶対に死なせたくない……っリルメスちゃんは、
わたしにできた……初めての″ともだち″だから」
気がついたら……フリィは泣いてた。
涙が目から垂れてて……泣いてたの。
「ごめんっ……ごめんねリルメスちゃん……」
手で目を擦るフリィ……あたしは……
あたしはフリィの手を掴んだ。
「えっ……」
「守りたい守りたいって……
あたしはいつから守られる側になったのよ!
あたしだってフリィは大切よっ!!」
フリィばっか……フリィばっかそう言って!
「あたしとフリィで強くなればいいの!!
二人で戦って二人で勝てばいいの……!
フリィはっ、フリィは″ひとり″じゃないんだから!」
あたしも泣いてた。泣いてる姿なんて見せたくない。
けど、止まらなかったし……拭きたくなかった。
「フリィのそばにずっといてあげる。
だからずっと一緒に戦うわよ……
いつだって″ひとり″になんてさせないんだから」
あたしがそう言い切ったらフリィは頷いてくれた。
「お主ら……迷宮に迷い込んだ子供か?」
「!」
「!?」
びっくりした。誰……敵?
「だ、誰ですか?」
フリィが震えながらそう聞いたら、
ヒゲが伸びてて身長は低いけど髪の毛は長くて、
大きな魔法の杖みたいなのを持ってるその人は──
「我は″テグトト″と申す者だ。
お主らの名を聞いても良いか?」
……え。この人が……?
この人が探してた人じゃないの!!




