第十六話 女の子は誰でも
戦闘が始まった。
中級の兇徒は一般的な剣を右手に持ってる。
基本的にこの世界の人間は身体能力がおかしい。
大体だが、上級の剣士は時速40kmレベルで走るし、
岩を切ったりとか剣から斬撃を放ったり……
まあとにかく、わけわからん芸当をしてくる。
「っ!」
「俺は中級だぞ……? ガキがナメてんじゃねェ!」
フリィアちゃんは三週間前までガリガリ……
なのにもう大剣を持って今、攻撃を防いだんだ。
「幽炎授かりし日暈よ!
降り注げ光! 永遠の焦土を顕現せよ!
炎霊地!!」
リルメスだって天才だ。
七歳で中級魔法を扱える記録はそう多くない。
「ッチ!」
フリィアちゃんの大剣に剣を防がれた後、
その兇徒は横から迫る扇状の炎から距離を取った。
あの兇徒は中級の剣士。
フリィアちゃんは重そうに大剣を持ってるが、
ちゃんと攻撃防ぐこともできてる。
「フリィ! 走って!」
「うん!」
リルメスは中途詠唱をマスターしてる。
一応、省略詠唱は難しい技術ではある。
一般的な魔法使いは当たり前に使うが、
七歳が習得するなら話が変わってくる。
「クソッ……ガキなんかに──」
フリィアちゃんは大剣を引きずりながらも走って、
その兇徒へと思いっきり大剣を振った。
「やられるわけねェだろ!!」
「雷日、一千の時! 雷十刺!」
下級雷魔法の雷十刺。
完全詠唱がめちゃくちゃに短くて、
連打用の魔法なんて呼ばれてる。
「ッア!? テメッ!」
兇徒のこめかみに電撃が当たったが、
見ての通りダメージは静電気程度。
「今よ!」
「っぁああ!」
フリィアちゃんがリルメスの声で大剣を壁にして、
思いっきり兇徒に体当たりした。
『フリィアちゃん。剣士は踏み込みが重要ですよ』
『そ、そうなんですか! わかりました!!』
踏み込み……! 地面が少しヒビ割れてた。
そのせいか体当たりの威力は凄まじくて、兇徒は直撃したら突き飛ばされて牢屋の鉄格子に激突してた。
「いっ……!?」
「リルメスちゃん!」「任せなさい!!」
フリィアと位置が変わるように前に出るリルメス。
すごい。すごいすごい!!
あれが連携ってやつだ!!
「魔法使いがなんで……!!」
「騙されたわね!! あたしはグーよ!!」
えぇーッ!? リルメスは魔法じゃなくて、
シンプルに拳で兇徒の顔を殴りやがった!!
「いってェエッ!!」
兇徒の鼻に直撃したリルメスの拳、痛そうだ。
「フリィ! ″トドメ″!」
「トドメ……こ、殺すの!?」
「当たり前でしょ!! 早く!!」
ボコボコ殴ってるリルメスだが、
所詮七歳の拳、痛み自体は耐えられる。
「ふざけんなクソガキィ!!」
兇徒のカウンター。それは剣による突き刺しだ。
リルメスは避けられない速さ。
「きゃあああっ!?」
その時、フリィアちゃんが大剣を捨てて、
リルメスの腰を両手で掴んで全力で後ろに引いた。
そのおかげで剣は空振り、兇徒は体勢を崩す。
地面に捨てられたフリィアちゃんの大剣。
あれを拾ってから斬るってなったら間に合わない。
だが──
「うぅっ!? は、はやす──」
フリィアちゃんは三週間足を鍛えて、
腕だって鍛え続けていた。
その瞬発力は大人の中級剣士が驚くほど。
フリィアちゃんはリルメスの腰から手を離すと、
体勢を低くしながら大剣の持ち手を両手で掴んだ。
無理矢理持ち上げて勢いのまま刃で斬ることはせず、
大剣の面で兇徒の頭を『ガゴォン!』と殴打。
「カッ……!」
何十キロもする武器、それが頭にクリーンヒットしたら、そりゃ気を失うわな。
「はぁ、はぁ……はぁ」
「フリィ……!! やったわ勝ったわよ!!」
地面に手をついて尻餅状態のリルメス。
めちゃくちゃ嬉しそうなリルメスがそう言ったら、
息が上がってるフリィアちゃんは表情が緩くなった。
「や、やった!!」
なんだこの二人……まだ三週間だぞ?
確かにタイマンじゃ負けてただろうけど、
七歳の女の子が大人の中級剣士を倒したんだ。
「す、すごいです二人とも!!」
「えへへ、えへ……す、すごいですかケルエタさん」
「すごいですよ!! 本当にすごいです!!」
語彙力が消えて俺は二人の前でくるくる宙を舞った。
「ま、あたしたちなら余裕よ!!」
「リルメスお嬢様もしっかり魔法を使えてますね。
二人とも超超超すごかったです!」
褒めちぎろう。てか結構マジで感動してる。
なんか……こう、しんみりくるんだ。
そうか、これが教える側の本来の喜び……
「やったわね!」
「うん!」
アルバイトの奴らに教えても、適当な返しばかり。
俺は教えることの楽しさをとっくに忘れてた。
……はは、はははっ! なんだよマジ楽しいじゃん!
* * *
さて、二人は無事救出できた。色々まとめよう。
中級剣士を気絶させたフリィアちゃんとリルメス。
兇徒を殺してはないが勝利に変わりはない。
あのあとグラバさんがやってきて、
正式に中級と認めてくれた。
これでリルメスを中級にする目標は達成……
まあ、目標達成は単なるノルマ、
俺はボーナスのデカさに喜んでる。
まず、二人がたった三週間でここまで強くなったことに俺は感動している。フリィアちゃんはこの世界の住人らしくない価値観だが、もう戦える剣士だ。
リルメスは相変わらず天才、
年齢に見合わない魔法のレベル。
それともう一つ……
「ケルエタ様、帰りましたら報酬と言いますか、
礼のような物になりますが……白金貨を──」
「え、くれるんですか?」
「非常に助かりましたので……
リルメスお嬢様も中級魔法使いですし、
七歳で中級と聞けば領主様は大喜びです」
帰りの馬車の中、ぐっすり寝てるフリィアちゃんとリルメスを横目に、俺はそんな話をされた。
白金貨……一枚で50000円……
それを一気に50枚くれるらしい。
う、うひょ〜。お金持ちだ〜。
「そ、そんな貰えるなんて嬉しいですね」
「それほどの働きだったと言うことですよ」
グラバさんの表情は楽そうだった。
そもそも中級にする役目はグラバさんのだった。
かなり手こずってた様子から、
一番苦戦してる仕事の一つだったんだろう。
「……そのですねケルエタ様」
「? はい、なんです?」
グラバさんは申し訳なさそうに口を開いた。
「引き続きリルメスお嬢様に魔法を教えてはくれませんか? 私ではどうも上手くいかないので……」
願ってもないことだ。
これでこれからリルメスとも接触できる。
ついにきたぞ……異世界転生して一ヶ月弱!
俺はついに譜面を揃えたんだ!
「もちろんです。でも最強にしちゃいますよ?」
「はははっ、してくださいよ?」
グラバさんはそう言って微笑んでくれた。
一件落着……これは後日談だ。
まずリルメスとフリィアを攫ったのは、
小規模な兇徒集団、いわゆる弱小組織だ。
先日のモグラ野郎もこの一員だ。
メンバーは全員今回の件で死んで、
あの中級兇徒は結局殺されたらしい。
あの件から二日後。
フリィアとリルメスは一層仲良くなった。
「フリィ! 屋敷の中まだ全部見てないでしょ?
あたしが案内してあげる!!」
「いいの!? やったやった!!」
フリィアちゃんはリルメスと関わってから、
すごい元気で楽しそうな様子を見せてくれる。
俺が中庭の入口から二人を眺めるのも、
もはや定番化してきている光景だ。
……フリィアのお婆さんにも見せてやりたいな。
ちなみにグラバさんは今いない。
だけど護衛の人が代わりに三人いるから、
俺が特に心配することはなさそうだ。
肝心のグラバさんはというと──
首都にリルメスが中級になったことを、
手紙として書いてるのだとさ。
そう言えば……リルメスはここが家じゃないんだ。
この屋敷はただの別荘……そうか、帰るんだ。
……となると、どうするべきか。
フリィアちゃんとリルメスが離れるのはマズい。
どうにしかして一緒に居させないといけない。
……この村を離れさせるしかないのか?
「フリィこっちよ!」
「うん!」
どう言うべきか……どう言えば良いんだ?
いや……まだ決まったことじゃない。
今はそう気にしてちゃいられない。
今日も俺はあの二人のそばに居なきゃダメなんだ。
「はぁ……元気いっぱいですね」
第一部 第二章 天才お嬢様編 -完-
次章
第一部 第三章 不帰の大森林編
* * *
ここまで読んでいただきありがとうございます!!
毎日【18:15】に一話投稿されます!
ぜひぜひ、この機にブックマークや評価をお願い致します! 作者としても非常に励みになります!




