第十五話 最強執事の拳
さて、グラバさんが率いる十人以上の屋敷の戦士たちと共に、俺は二人を攫った兇徒の拠点に着いた。
見張りの戦士はまだこっちには気が付いていない。
「では……一気に潰します」
グラバさんの掛け声と共に、
一人の戦士が魔法の杖を構えた。
「蒼鳥よ、その群青極めし一部を、
我へと授けたまえ……! 水蒼刺!」
一人の魔法使いが中途詠唱で魔法を放った。
魔法は杖とかの先端を中心に魔法陣を展開する。
そこに詠唱をしてから杖を突き出すと、
先端の向く方向に向かって魔法が放出されるんだ。
今、放たれた魔法は属性魔法の水に属する中級魔法。
水を槍の先端のように変形させて、
高速で発射して相手を突き刺すシンプルな魔法。
「グォエッ!?」
「お、おいどうしたァ!」
その魔法は、拠点付近にいる見張りの兇徒の頭を……
容赦なく撃ち抜いた。わかっていたが、いざ見ると結構くる。ここは異世界で倫理観はかなり違う。
死ぬこと自体珍しくないし、相手は兇徒。
殺される覚悟で生きてる奴らだ。
でも……俺は日本人、死ぬ瞬間なんて……
慣れてるわけないし普通にビビる。
「そ、そのグラバさん……やっぱり皆殺──」
「言わずともでしょう? 相手は兇徒……
その命を絶たねば示しがつきません」
この前来たモグラ……じゃなくて土獣族。
あいつも捕まえられた後、あっさり殺されてた。
厳しい世界だ……つくづくここは異世界なんだな。
「グラバさん見張り全滅です」
数分もしたら全員魔法で頭を撃ち抜かれて死んだ。
屋敷の戦士たちは中級から準上級、対して相手は大体が寄せ集めの下級から中級レベル。
「では、突入しましょう」
今は真夜中、見張りの奴が洞窟の中に情報を伝えられなかったから、中の兇徒は全員寝てる。
案の定洞窟の中に入ったらめちゃくちゃ静かで、
グラバさんは辺りを見渡しながら道を進む。
「……グラバさん。私は二人を探してきます」
「ケルエタ様、戦士を二名つけますのでお気をつけて。私は親玉であろう者を狩ってきます」
明確な殺意、凄い圧だ。
人物に対しても全知脳は発動するが、
詳しい過去まで何かに書いてる人は少ない。
今度、グラバさんの過去とかも聞いてみたいな。
まあそれより、
今の話通り俺とグラバさんは道を分かれた。
* *【グラバ視点】* *
「″エルメット″さんたちは牢屋の解放をお願いします」
「グラバさんはどうするんです?」
「リーダー、言わば親玉を″殺します″」
エルメットさんは屋敷の護衛の中で私を除けば一番の実力者、上級剣士ですので負けはないでしょう。
私は道を進み、奥に見える扉の前へと立つ。
「……?」
私が扉に手をかけた瞬間、剣が飛び出してきた。
扉を貫いて私の顔を貫こうとする行為、
こちら側の気配を読めるほどの兇徒……
「ッチ、外しちまった」
「多分手練れが来たな」
私は剣を避け少し離れると、
扉を蹴破って二人の男が出てきた。
一人は獣族、巨体だった。
もう一人も獣族で小柄……
見るからにパワータイプとスピードタイプ。
「どうも、何用かはそちらがわかっていますよね」
「あぁ、俺たちを殺しに来たんだろ?」
「でも残念、あんた運が悪すぎるな」
妙に自信が大きいですね。
「俺たちは準上級兇徒……しかも二対一だ」
「おっさん泣いて謝ったら許してやってもいいぞォ!」
私はその言葉を聞いて魔法の杖を取り出した。
「そうですか。ではかかってきてください」
「魔法使い……はっ、じゃあ詰みだよお前」
「死ぬか死ぬ。二択が一択になっちまったなァ〜」
緑色の肌を持つ小柄な獣族が先手を打ってきた。
魔法使いというのは基本剣士との戦闘は不利、
しかもこの状況では一対二……
緑色の肌を持つ獣族は、
短剣にて私を切りつけにきました。
「ッチ……」
「なにやってんだ″エドマ″」
「うるせェ〜″ラクト″、ミスっただけだ」
なるほど、巨体を持つ獣族はラクト。
この小柄な獣族はエドマというのですね。
確かに動きは速い、準上級でも上位でしょう。
「次で仕留めてやるよ。おっさんッ!!」
素早い動きに合わせた連撃……
大抵はこの攻撃で倒せたのでしょうが、
私は生憎、大抵の戦士より強いのです。
「っえ?」
身体強化魔法。
練度によって身体は岩のように硬くなり、
それは生半可な攻撃を弾く。
身体強化魔法は特殊であり魔法陣が存在せず、
詠唱などもない唯一の魔法。
故に予測は全くできなかったのでしょう。
私は杖を持たない手で剣を拳で弾きました。
顔は困惑一色、非常に驚いている様子。
「死にゆく貴方へ告げましょう。
私の等級は準俊級……魔法使い兼、拳戦者です」
私は拳に身体強化魔法を乗せ、
渾身の一撃にて勢いをつけたまま、
こちらへと来るエドマという兇徒の顔面を殴った。
「嘘ッ、ヴォ″ッ″ォ″!!」
上から殴ったせいで地面にめり込んでしまいました。
もう一人のラクトという者は戦意を喪失……
「あっまま、まって! まってくれ!!
ぜんぶやめる! やめるから!!」
「風山」
中級風魔法、単音詠唱にて私は斬撃を放ち、
ラクトという者の首を切断。容赦はなしです。
「さて……ケルエタ様は上手くいきましたかね?」
* *【ケルエタ視点】* *
「……二人とも起きてます?」
俺が牢屋を覗くとフリィアとリルメスがいた。
怪我はなさそうだし服が少し汚れてるだけだ。
……ていうか余裕で見つけられたな。
なんか……洞窟内にほとんど人いなくて、
あいつら全員ここがバレてないと思ってたらしい。
だから全員少し離れた部屋で寝てて、
二人を探すこと自体めっちゃ楽だった。
「んん……」
「ケルエタ……? ケルエタ!!
来てくれたのね!! グラバは!?」
「グラバさんはちゃんといますよ。敵の親玉をコテンパンにしに行きましたので、救出は私に任されました」
育ちの差か……フリィアちゃんは熟睡してるが、
リルメスは全然寝ないで起きっぱだった。
一応護衛として戦士が二人ついてきてるが、
いらなかったかもな……
「リルメスお嬢様……そのお願いなんですけど、
フリィアちゃん起こしてくれません?」
「わかったわ! フリィ!! 起きて!!」
デッケェ声、フリィアちゃんは嫌そうな顔をして目を開けた。
「なぁに……もう朝ですか?」
「もう! 助けが来たのよ!!」
「え、あ、ケルエタさん……!」
フリィアちゃんは嬉しそうに俺の名前を呼んだ。
元気そうで良かった。二人とも無事だ。
「さて……攫われて色々疲れてると思いますが、
貴方たちは実は……戦士なんです」
「そ、そうだったんですか!?」
「あたしって戦士なの!?」
オーバーリアクションだな……
「は、はい。でもまだフリィアちゃんは無級、
リルメスお嬢様は準中級です」
ちなみに死のリストをさっき確認してたが、
赤文字は消えてた。その代わり黄色文字が出てる。
「実力ではすでに中級付近、
ここで一気に二人とも中級になってもらいます」
【戦闘に敗北し斬殺。
フリィア・サタニルド。
リルメス・レクセト・ボルワール】
「中級兇徒……その者を倒せば晴れて中級。
大丈夫です。二人なら絶対勝てます」
しくじれば死ぬ。でも、俺に不安はない。
だって二人はこの一ヶ月以上、一度だって怠けたりした時はなかったんだ。
「ケルエタさん……わたしの大剣……」
「フリィアちゃん、大剣は持ってきましたよ。
リルメスお嬢様はいつもの魔法の杖でいきましょう」
戦士の人がフリィアちゃんの大剣を、
リルメスの小さな魔法の杖を手渡した。
それと同時、さすがにうるさかったのか、
別部屋にいた兇徒が一人出てくる。
「あ、な、なんで脱走してんだよ!」
こいつが中級じゃなきゃ戦士の二人に頑張ってもらう。中級だったらフリィアちゃんとリルメスの出番だ。
「ケルエタ! これは昇級試験ってことね!!」
「えぇそうです」
「まだ大剣は振ったことないけど……がんばります!」
「頑張ってください二人とも」
この二人なら──
「勝つわよ! フリィ!」
「う、うん!!」
負けないさ。




