第十四話 逆境にて反撃準備
* *【フリィア視点】* *
目が覚めたら知らないところだった。
お馬さんの足音がするし、多分馬車かな……
リルメスちゃんが私の前で寝てる。
「……?」
お腹が痛い。なんで私ここにいるんだっけ……
……声が聞こえる。誰だろ。
「あれ……」
手足が縛られてた。動けない……
それに会話も聞こえてきた。
「上出来だ。これでガッポガッポだな」
「ボルワール家のお嬢様だ。
人質にして売りゃァ大金ゲット〜
明日の夜飯は豪勢にいくしかねェな〜」
二人……多分二人の声が聞こえた。
嬉しそうだった。ボルワール家って、
リルメスちゃんのことかな?
「……んん、あぇ、フリィ……?」
「リルメスちゃん……」
リルメスちゃんが目を開けた。
「ね、ねぇここどこ?」
「わかんない……」
リルメスちゃんは目を閉じて、
上を向いて寝転んじゃった。
「はぁ……攫われたわ」
「え、ほんと?」
「でも、あたしたちにはグラバがいるわ!」
「た、たしかに!」
攫われたけど……なんだかあんまり怖くない。
だって、ケルエタさんとグラバさんがいるもん。
「不自由ね〜。ね、フリィ。
なんか暇つぶしで遊びましょ」
「い、いま?」
「あたりまえよ! だって暇なんだから!」
馬車が止まった。
「と、止まった?」
「どっかに着いたの?」
そしたら布が退けられて、
おじさん二人がわたしたちを見てた。
気が付かなかったけど外はもう真っ暗。何時かな……
「あー目覚めてるけど、ま、いいか。
おめェら怪我したくなかったら大人しくついてこい」
多分、獣族かな……怖そうな人だった。
だから、わたしたちは言うことを聞いた。
手足が縛られてて歩きにくいけど、
とりあえずそのおじさんについていった。
そしたら少しして洞窟の中に入って、
わたしたちは牢屋の中に入れられちゃった。
この洞窟、わたしたち以外にもいろんな人がいる。
「リルメスちゃん……」
「ちょっと! あたしたちを攫ってなんのつもり?
すぐにあんたたちなんか倒されちゃうわよ!!」
えぇ、そんな言っちゃダメだよぉ……
「うっせェなァ〜。傷はつけれねェのが嫌だわ。
……いや、おい。お前ら見てろよォ」
そのおじさんはわたしたちと向き合う牢屋の中に入って、中にいるお兄さんを蹴り始めた。
「おらァ! おらァ!!」
「ぇぐっうぅ……ぶぅっぇ……!!」
「や、やめて!!」
「ちょっとやめなさいよ!!」
「お前らが静かにするんだったらやめるぜ?
どうする? お二人さん」
そう言われたからわたしたちは静かにした。
「ははは、良い子じゃねェか」
そのおじさんはわたしたちの前から消えて、
どっかに行っちゃった。
「あいつサイッテーね」
「うん……ひどいよ」
「フリィ……その、怖くないの?」
「え? うん……助けてくれるから」
リルメスちゃんはわたしの方に近づいてきて、
服の端をギュッて掴んできた。
「すごいわねフリィ……あたしは怖いわ。
もしかしたら……見捨てられちゃいそうで……」
リルメスちゃんの言葉を聞いて不安になった。
たしかに見捨てられちゃうかもしれない……
「わ、わたしもやっぱり怖い」
「そ、そうなの? じゃあ、お揃いね……!」
やっぱり怖くなってきた。
だ、大丈夫だよね?
* *【ケルエタ視点】* *
「なんですって……!?」
「グラバさんのいない数分の間でした……」
「な、なにか手がかりとか……マズいマズい」
グラバさんも焦ってる。
本来不可能なのだ。屋敷のセキュリティはかなり高くて、必ずどこに行ってもメイドか戦士がいる。
いくら早くても見つかってるはずなんだ。
「でも安心してくださいグラバさん。
私が誘拐犯の位置は特定できます」
「位置を……特定?」
「と言っても力技なので、もう行きますね」
位置の特定。それはただただ追いかけるだけだ。
こうして話してる間にも馬車は離れていってる。
「私が帰ってきた時、グラバさんはいつでも救出しに行ける準備をしておいてください!」
話は手短に、俺はその場から離れて馬車を追った。
一瞬の犯行……死のリスト的に黒文字じゃないってことは、殺害目的の誘拐じゃないはずだ。
おそらく……″奴隷商人″
奴隷の価値は見た目が大きく関係する。
あの二人は美少女だし傷はつけられないはず……
この赤文字が意味するのは奴隷として買われ、
その後衰弱して死んでいくって意味だろ。
「あれか……」
馬車が見えた。
この村自体人の出入りは少ないし、
時間と距離的にもあの馬車に二人がいる。
馬車は結構複雑な道を通ってた。
所々(ところどころ)林が生えてる平原、わざわざ道を外れてそこを通ってる感じ、隠れて移動してる。
そのせいかめちゃくちゃ速度が遅い。
俺は浮いて移動する速度は速いから、
そんな感じで馬車の尾行は意外にあっさり済んだ。
数時間後──
夜になってやっと馬車は止まった。
洞窟……なるほど? そこが拠点か。
本当ならこのまま助けたいが……
どう考えたってグラバさんを呼んだ方がいい。
俺はこっから全速力で屋敷に戻る。
勝ち筋はできてる……なんなら……″好都合″だ。
【昇級についての知識】
一ヶ月以内にリルメスを中級にする約束。
実はもう期日は近くなってきてる。
【剣士は現在の級よりも一つ上の級を持つ、
兇徒・暴野を討伐することによって認められる
魔法使いは現在の級に見合った魔法を扱い、
自身よりも一つ上の級を持つ兇徒・暴野を討伐】
リルメスは下級魔法をほぼマスターしてる。
それに中級魔法も二つだが覚えて扱えてるんだ。
今の等級は準中級、中級になるには実戦が必須。
【剣士・魔法使いはどちらも必ず、
一つ上の級を持つ者に認められる必要がある】
つまり、ここで一人でも中級のやつをぶっ倒せば、
俺は一気に目標を達成させることができるんだ。
* * *
屋敷に帰ってきたら屋敷の前に馬車が三台。
鎧を着た戦士が十人くらいでグラバさんが見えた。
「グラバさん!!」
「ケルエタ様っ! どこでしたか!?」
俺は気が気じゃない青ざめた様子のグラバさんに、
あの二人がどこに攫われたかを伝えた。
「リアバダ領地外の南部! 天星山脈の麓で、
小さな森の奥に洞窟があってそこが拠点です!」
地理の知識を入れておいて良かった。
グラバさんはそれを聞いて頷き、馬車に乗り込む。
俺もグラバさんの乗った馬車に乗って、
一緒にあの洞窟へと向かった。
あの拠点に着くのは真夜中だろう……
奴隷商人が動き出すのは早朝なはずだ。
ギリギリっちゃギリギリ、でも余裕はある。
「ケルエタ様……その、場違いな発言ではありますが、
この機会にお嬢様を──」
「本当に考えることは同じですね……
もちろんそのつもりですよ」
「……そうですか。おそらく敵の等級は中級ばかり、
親玉であろう者が少し級が高いくらいでしょう」
俺の考えをグラバさんも考えてたみたいだ。
グラバさんの顔は少し不安そうだった。
そりゃ不安だろう。なんせ戦闘はミスが命取り……
リルメスが死んだらグラバさんに全責任が乗っかる。
その上でだ。その上でリルメスを信じている。
俺の教育、そしてリルメスという子の才能、
この人は今、全てに身を委ねたんだ。
こんなの簡単にできることじゃない。
本当に……強い人だと思う。
とりあえず、今は移動することしかできない。
着いてからが本番……緊張感じゃ過去一だな。
リルメスとフリィアちゃんなら大丈夫だ。
これは救出劇じゃない……昇級試験。
グラバさんだっている。
誰に喧嘩売ったか分からせて、泣かせてやるか。




