第十三話 兇徒
異世界転生して一ヶ月以上。
フリィアちゃんとリルメスへの授業は順調だ。
「見てケルエタ!! また一つ魔法を覚えたわよ!」
リルメスは意外というか……結構真面目だ。
とにかく勉強熱心、魔法が好きでしょうがないんだ。
「すごいですね……もう下級魔法何十個目です?」
この世界の魔法は等級が設定されてる。
剣士だとか魔法使いだとかと同じ仕組みだ。
基本魔法使いが等級を上げるには、
自分より一個上の魔法を扱えなきゃいけないんだ。
下級の魔法使いが準中級になるには、
中級魔法を扱えなきゃいけない。
ってなると中級はどうなるんだってなるが、
中級は実戦での功績があればなれる。
例えば中級の兇徒か暴野を倒したりとかだな。
それと、魔法自体の等級に準はない。
下級・中級・上級。
英級・俊級・天級。
この六つだけなんだ。
「癒される者らよ!
この緑光の下、静を極めよ!
治光!」
リルメスは魔法の杖の先端に魔法陣を展開して、
中庭の枯れた花に向かって緑の光を放った。
「おぉ!」
花はじわじわと鮮やかな色を戻し、
生気溢れる状態へと戻った。
下級治癒魔法、擦り傷だとか枯れた花とか、
小さな怪我とかを治癒できる魔法だ。
「すごいですね! 治癒魔法を覚えるとは……」
「ふふん! どうでしょすごいでしょ!!」
あぁマジですごい。
治癒魔法とかの魔法は″高等魔法″と言うんだが、
高等魔法はその級の一個上にある魔法並みに、
習得が難しい魔法のことを言うんだ。
リルメスはグラバさんが言った通り天才だった。
一ヶ月でほとんどの下級魔法を発動することはできてて、なんと言っても成長スピードがイカれてる。
この世界の魔法は詠唱と魔法陣が必須。
しかもこの世界の魔法には詠唱の完全省略がない。
詠唱なら──
完全詠唱・中途詠唱・単音詠唱。
完全詠唱は文字通り全文詠唱。
中途詠唱が文の真ん中のみを言う省略詠唱。
単音詠唱は詠唱の最後に来る言葉を言うだけだ。
基本的にみんな中途詠唱を好む。
詠唱は端折る度に威力が下がるから、
単音詠唱とかを下級魔法使いがしても、
息を吹かれたくらいの威力になるんだ。
完全詠唱は長すぎて隙が大きい、
だから中途詠唱が一般的な発動法なんだ。
ちなみにリルメスがした治癒魔法も中途詠唱。
「えぇ、リルメスお嬢様はすごいですよ」
ドヤ顔のリルメスお嬢様。
クソ生意気のわがままお嬢様だが……
普通に性格も良いし悪い子じゃない。
「ね! ″フリィ″と一緒に走っても良いわよね!」
「今日のノルマは達成してますね?」
「当たり前よ! 倒れるまで魔法を撃ったわ!」
「ちょっと撃ちすぎですけど……
ノルマは達成してるので走ってきていいですよ」
リルメスはフリィアちゃんのことを″フリィ″と呼んでる。この一ヶ月あの二人はめちゃくちゃ仲良くなった。
なんでそうなったか。
それは多分あれだろう。
* * *
大体一週間前。
「……あ」
この屋敷には図書室がある。
学校の図書室ほどの大きさだ。
リルメスお嬢様はかなりの本好きで、
グラバさんに本を読んでもらうのが大好きらしい。
俺とフリィアちゃんは剣術の本がないかと、
図書室へと行った時に、高いところにある本を取ろうとしてるリルメスお嬢様に出会った。
「取れない……〜っ!」
グラバさんがいない。トイレか?
それにしても危ないぞ。落っこちて死ぬことはないだろうけど、怪我は絶対する。
「っあ?」
って思ってたら案の定、体勢を崩して落ちた。
グラバさんだって執事である前に人だ。
こう言う見えないところでの事故は防ぎようがない。
俺は結構焦った。死なないにしても怪我されるのは普通に困る。でも俺に手足はないから救えないんだ。
「っ!」
と、思ってたらフリィアちゃんが飛び出した。
もうその頃のフリィアちゃんはガリガリの身体じゃなくて、年相応の平均的な身体になってた。
筋肉はついてるはずなんだが……ムキムキはしてない。普通の七歳の女の子という体型だ。
「きゃあぁっ!?」
落っこちるリルメスの落下地点に走ったフリィアちゃん。リルメスを身体で受け止めて床に倒れた。
「大丈夫ですかリルメスお嬢様……?」
上から同い年のリルメスが落ちてきて、
それを身体で受けてもほぼ無傷……頑丈だ。
「え……あ、ありがと!」
リルメスはフリィアのおかげで、
大きな怪我もなく無事着地できた。
「何事ですか!?」
グラバさんが冷や汗ダラダラで走ってきた。
まあ見える状況に異変はない。
「グラバ! フリィアがあたしを助けたのよ!
すごいわ!! フリィアはすごいわよ!!」
リルメスは自慢するようにフリィアの手を握った。
「え、えっ……えっ」
フリィアちゃんは手を握られて少し戸惑ってる。
そう、リルメスは完全にコミュ強だ。
「フリィア! 特別にあたしの護衛にしてあげる!」
「え、え? わたし?」
「お嬢様……私は?」
「グラバとフリィア、どっちも護衛よ!」
まあ、そんな感じで護衛認定されたフリィアちゃん。
リルメスと仲が良くなったのはそれからだ。
まず、フリィアちゃんは好き嫌いがない。
だからリルメスのわがままも嫌な顔せず、
「うんうん」と頷いてなんでも聞く。
つまり、相性バッチグーってわけだ。
* * *
「″リルメスちゃん″もう魔法の稽古終わったの?」
「あたしは天才だからもう終わったわ!」
フリィアちゃんはリルメスの要望で”ちゃん”呼びだ。
もう二人はすっかり親友レベル。すごく仲が良い。
問題として二人の接触があったが、
ここまで上手くいくなんて思ってなかった。
フリィアちゃんも大剣はまだ振れないが、
身体能力じゃこの歳で下級剣士並みはある。
どっちも成長速度が速い。
これならもしかしたら戦争の時には、
ある程度どころか、かなり強い敵も倒せるかもだ。
「……?」
なんだ? 何か聞こえる。
あの二人の笑い声に混じって何か……
「二人とも……何か──」
何かが俺の横を高速で通り過ぎた。
「リルメスちゃ……!」
俺は二人の方を見たら、どっちも気絶してた。
早すぎる。何が起きた?
俺は咄嗟に死のリストを確認すると同時、声が出た。
「二人ともぉっ!!」
【兇徒に攫われ衰弱死。
フリィア・サタニルド。
リルメス・レクセト・ボルワール】
赤文字、兇徒による誘拐……!!
緑肌の獣族……そいつは二人を抱えて中庭から逃げようとしてた。マズい、グラバさんがいない。
今、あの人は他の執事へと業務連絡中……
こいつ、数分間の隙に仕掛けてきやがった!
「なにしてるんですか貴方……!」
俺の苦し紛れの引き止める言葉。
「バカみてェなこと言うんだな。
見てわかるだろ? 攫うんだよ」
俺がそう言ってもあいつは止まらない。
一瞬すぎた。そいつはまた高速で移動して屋敷を出てったんだ。
「マズい……マズいマズい!」
なんだよあいつ……!
なんであんな動きが速いんだ!
全知脳が発動しないってことは……
多分素の実力で成せてるスピードだ。
「落ち着け俺……できることはある」
俺は焦った。めちゃくちゃに。
でも、俺は焦ることには前職で慣れてる。
誘拐された時、一番障害なのは場所がわからないこと。だが、俺は猛スピードで浮いて移動できる。
この世界に車だとかはないし、基本馬車だ。
追いかけろ俺、位置を特定して救う。
これしかない……!!




