第十一話 衰えることのない知識への渇望
コンコン。
俺は光る身体でリルメスお嬢様の部屋の扉に、
軽い体当たりでノックしてグラバさんを呼ぶ。
「はい……あぁケルエタ様ですか。
柑鮮非常に美味でございました……その何用で?」
いやぁ……相変わらず──
高身長超イケオジ執事のグラバ・シャクベルトさん。
常に疲労が溜まってそうな顔をしてる執事長さんだ。
「ちょっとグラバ! 誰が来たの!」
「少々お待ちをお嬢様っ! ……手短に」
おぉおぉ、元気なこった。
リルメスお嬢様はなにやら不機嫌そうだ。
「そのですね……リルメスお嬢様は護衛術を持っていますか?」
「護衛術と言われましても……
リルメスお嬢様はまだ七歳ですから、
持っていてもないようなものですよ」
回りくどい言い方だな。
つまりあるけど、弱すぎて意味がないってことか。
「も〜〜っ! 誰なのよっ!」
部屋の奥からグラバさんを待てなくなったリルメスお嬢様が、大股で歩いてグラバさんの横に出てきた。
「ピカピカね……って誰よ!!」
「え? ケルエタです……忘れました?」
嘘ぉん……一日で? じゃあ眼中になかったの?
「どうでもいいけど邪魔しないでよ!
本が読めなくて今困ってるの!!」
デッケェ声量にすんごいわがまま。
俺、こういう子供嫌いなんだよな……
「お、お嬢様失礼ですよ! このお方は柑鮮を売ってくれた妖精族のケルエタ様です」
「ふ〜ん……まぁ美味しい物をくれたのはいいけど!
今は本を読んでもらいたいの! 邪魔しないで!」
はっちゃめちゃなお嬢様だ……
不機嫌だし無理そうだけど、言ってみるかぁ。
「その、リルメスお嬢様は自分の身を自分で守れますか? それだけ聞きたくて……」
リルメスお嬢様は俺がそう聞いたら、
すんごい自信満々の様子で腰に差してある棒を手に取った。あの感じ……見るからに″魔法の杖″だ。
「あたしは天才なの! すごい魔法使いなのよ!」
驚いた。七歳ですでに魔法を使えるのか?
それが本当ならマジですごいことだぞ。
「グラバさん……リルメスお嬢様の言うことは?」
「本当でございます……ですが、いえ──
実際に見てもらえれば分かりましょう。
お嬢様、中庭で魔法の時間でございます」
グラバさんの表情はちょっと不安そうだった。
でも、使えるんだろ? そんな何が不安なんだ?
「魔法! やったやった魔法よ!
その後ちゃんと本も読んでね!」
「はい、もちろんでございます」
しかし元気なお嬢様だ。
* * *
「じゃあ見せてあげるわ。あたしの魔法をね!!」
さて、中庭に移動した俺たちだが、
こんな自信満々のリルメスからはどんな魔法が出てくるのか、俺も気になってしょうがない。
魔法の杖を人のいない方へ向けるリルメス、
そしたら杖の先端を中心に魔法陣が展開された。
「呼応せよ火の悪魔よ!
その赫燿なる力を我が身に宿せ!
火炎片球!」
厨二病……とは言いたいがここは異世界。
二次元の物がマジである世界なんだ。
「……え?」
とまあ、詠唱に気を取られていたが、
リルメスの杖の先端から放たれた火球、それは──
「どう!? すごいでしょ!!」
あまりにも矮小で可愛らしい火球だった。
「グラバさん……」
「……お、お嬢様すごいですぞ!
さすが、魔法の天才とも言われるお方……
そのですね。少々お待ちを……」
グラバさんは中庭出口へと早歩きで向かって、
目の圧だけでこっちに来るように言ってきた。
中庭の出口付近で俺とグラバさんはコソコソ話す。
「……あれが、お嬢様の魔法です」
「護身どころの話じゃないですね……」
グラバさんはため息をついてた。
「お嬢様は確かに魔法使いの才能は多くあります。
ですが、私は物事を教えるのが苦手で……
それに厳しくすることもできませんし……」
愚痴のような説明だった。
かなりうんざりしているのだろう。
「なにか……仕事上で困ることが?」
「……領主リアバダ様はご存知ですよね?
あのお方の″お孫様″は″リルメスお嬢様″なのです。
ボルワール家は名高い戦士もいませんし、
リアバダ様は一人くらい戦士が欲しいのですよ」
はー、なるほどな。全て理解した。
リルメスは領主の息子か娘の子供なんだな。
そして名高い戦士を生み出せていない貴族……
メンツがそれで少し下がっているから、
なんとしてでも戦士が欲しいという感じか。
「今、リルメスお嬢様がここにいらっしゃるのは、
紛れもない″魔法の特訓″のためなのでございます。
特訓を終える目安は最低でも中級以上に──」
「グラバさん」
俺は、はっきり言って生意気な奴が嫌いだ。
職場だってナメてくるやつばっかだった。
でも、慣れてる。むしろマシだ。
お嬢様? わがまま? 生意気?
こっちはなぁ!
二十歳にもなって敬語もまともに使えないような、
どぉぉしようもない奴を相手にしてたんだ!!
「魔法の特訓のことを任せてくださりませんか?」
どうせ強くなってもらわなきゃいけない。
才能はあるんだろ? なら大丈夫だ。
「そ、その、よろしいのでしょうか?
それ以前に魔法など扱えるのですか?」
「全然使えないですよ。ですけど……
私は圧倒的なまでに知識があります」
グラバさんは俺を疑っていた。
そりゃそうだ。魔法も使えない妖精族に、
自分がこなせなかったことが出来るとは思わない。
「知識といっても……限度があるのでは?」
だからここはもうゴリ押しだ。
「グラバさん。ここは信じてはくれないでしょうか。
ただ、期限は必要……そうですね……一ヶ月。
一ヶ月でリルメスお嬢様を″中級″にしてみせますよ」
「一ヶ月……いいでしょう。貴方のことはある程度信頼していますし、一ヶ月期間を設けましょう」
この人はすごく物分かりのいい人だ。
一ヶ月程度なら時間を無駄にされても構わない、
そして、もし本当に中級になったら仕事が減る。
ほぼノーリスク、ハイリターンってわけだ。
本当に貴方はつくづく社畜だよ。
俺と考え方がまったく同じだから提案も通しやすい。
「……ですがケルエタ様、なぜそこまでお嬢様を?」
当然の疑問だ。俺がグラバさんだったら質問する。
……戦争のことは言わない方がいいだろう。
下手に刺激することはまだ浅い関係じゃリスクだ。
俺は死ななくてもフリィアちゃんに危害がいけば詰むし、リルメスお嬢様に接触できなくなっても詰む。
「私には己の使命があるのです。
特殊な魔力を持つ者を幸せにする使命が……」
適当だ。これはマジで適当だ。
「……」
頼む、バレるな。バレないでくれ頼む!
「なるほど……評判通りの善な種族ですね。
それが真意だと言うのであれば、ケルエタ様とはこれから良好な関係を築けそうで安心しています」
表情が緩んで微笑んでくれた。
大成功ってことでいいんだよな?
【*緑文字が黄色文字に変わりました。
[対象]誘拐され惨殺される。
リルメス・レクセト・ボルワール】
「……!? グラバさん!!」
「は、はい? なんでしょうか?」
「リルメスお嬢様が危ない!!」
「……っ!」
何が起こるかはわからない。
だが、この感じすぐにでも襲いかかってくる気がする。黄色文字……もしかしたら死ぬっていうレベル。
グラバさんは優秀だ。理解よりも早くリルメスお嬢様に向かって走り始めた。
「お嬢様ぁっ!!」
「? なぁにグラっ!!」
中庭の地面から人が出てきやがった。
人知族じゃない……多分、人型の獣族だ。
「な、なんでバレっ!」
そいつは完全に魔力を隠してた。
でも俺がグラバさんに警告したせいでバレたんだ。
その人型の獣族は急いで地面に潜ろうとした。
でも、それよりもグラバさんの方が早い。
「グエェッ!」
「お死にくださいませ……獣ッ!」
首を掴まれて上に打ち上げられた後、
グラバさんの拳がその人型の獣族の腹部に直撃した。
「カッァ……」
一発……KO……?
つっっよ……なんだ。知りたいことが多すぎる。
グラバさんってそんなに強いのか……?
なんでそんな強いんだ。
ここで俺は改めて気がついた。
俺はまだ異世界について無知すぎるんだ。
【全知脳発動】
【全知脳発動】
【全知脳発動】
異世界……俺は最低限の知識だけを得てきた。
【全知脳発動】
【全知脳発動】
【全知脳発動】
でも……俺だって日本男児だったんだ。
心はいつだって強い奴に惹かれる。
【全知脳発動】
【全知脳発動】
【全知脳発動】
かっけぇ……もっと知りたい。
なんでそんな強いのか……グラバさんだけじゃなくて、この世界に記されている強い奴らをもっと──
【全知脳発動。
知識を得ました+99】
【18:15】に第十二話が投稿されます!




