第十話 初めての剣
剣。戦いでは最も有名な武器だ。
そんな剣は俺が元いた世界じゃ手に入りにくい。
手続きなしじゃ銃刀法違反でお縄になるからな。
だがここは異世界、法律なんてない。
「いっぱい……武器ありますね」
面白いくらいに当たり前の感想だな。
「白金貨1枚あれば、基本なんでも買えますよ」
まあ、初めてってのはこんなものか。
とりあえず、基本なんでも買える。
逆を言えば買えない剣はめちゃくそに高い。
例えば赤赫竜っていう真っ赤な竜族がいるんだが、
そいつの爪で出来た剣は白金貨30枚とかのイかれた値段がする。日本円で150万円……いや、安いのか?
フリィアちゃんが店の扉を開けて中に入ると、
カランカランと入店音替わりのベルが鳴る。
「いらっしゃい。おっ良いのが憑いてんね。
妖精族なんて何十年ぶりかに見るよ」
カウンター越しに話しかけてくるムッキムキのスキンヘッドおじじ。気さくな人、居酒屋によくいる。
見た目からしてハンマーで鉄をガンガン打つ様子が、
面白いぐらいに容易く想像できる。
「そんなに見かけないんですか?」
「あぁ、妖精族はかなり珍しいぞ」
はーん……なるほど。そう言えば──
おじじが話す前に全知脳が発動しなかったな。
会話の内容を先読みして発動条件が変わるのか?
「そんで、妖精族の……まあ旦那。
そのお嬢ちゃんに武器を買わせるのかい?」
「そうです。この子は剣士志望ですので、
ここで買う剣が初めての剣になりますね」
おじじは俺がそう言ったら立ち上がって、
店の中を歩き回って剣を一本持ってきた。
「これなんてどうだ? 子供にしちゃちょうど良い。
それに剣は大体5年で壊れる。高いやつなら一生物だけどな……ま、こんくらいが良いんじゃないか?」
おじじが持ってきたのは言わば西洋剣。
サイズが小さめで大体50センチの剣だ。
「ケルエタさん……」
フリィアちゃんが決めてほしいと言う目で、
俺の光る球体の身体を見てきた。
「フリィアちゃん。剣は自分で選ぶ方が良い。
私が決めることはないので自分で選んでください」
困った。という感じで辺りをキョロキョロするフリィアちゃん。ちょっと意地悪だがこれは仕方ない。
数十分後──
「いやぁ〜柑鮮? あれ旦那の商品かい。
本当に目ん玉飛び出るくらい美味しかったよ」
「え〜? 言い過ぎですよ。
それにレシピを伝えただけで作ったのは、
フリィアちゃんですから感謝は私ではなく彼女に」
俺と店主のおじじが意外に楽しく雑談してたら、
フリィアちゃんが自分で選んだ剣を持ってきた。
「な、な、なに? それにするのかお嬢ちゃん……」
「星殲竜の……″大剣″?」
大剣。この世界でも大剣と呼ばれる武器だ。
どう考えたって男用の武器、全知脳の知識的にも大剣を使って英級以上になった女性剣士はいない。
「っしょ……これにします!」
……デッカ、140センチはある大剣。
フリィアちゃんの背より全然高い。
「フ、フ、フリィア、フリィアちゃん。
そ、それ、そ、それぇ、白金貨……何、何枚?」
星殲竜は右隣にある大陸、
【ルサナン大陸】の南部に広がる【ダウラ砂漠】の、
【フォルステッド山】に生息する俊級の暴野だ。
とりあえず、超危険生物の超貴重な牙で作られて、
貴族も欲しがる最高級の大剣ってこと。
「400枚です!」
白金貨は毎月6枚ボルワール家から貰える。
5年間きっちり働いても360枚……
「フリィアちゃ……」
「ダメですか……? これがカッコよくて……」
死ぬほど可愛い上目遣い。
カッコいいって……いや……でもデカいって。
店主のおじじと俺は目を合わせた。俺に目はないが。
「おじじ……」
「ありゃウチの店じゃ一番高い大剣だ。
でも、こんな村には似合わない高価な大剣……
ほぼ売れないからのウチの家宝みたいな感じだよ」
おじじぃ……顔が険しいよ。
というか、フリィアちゃんの目をジッと睨んでる。
「白金貨、月に4枚……」
「え?」
「月に4枚で良い。お嬢ちゃん特典で値は引いてやる。
ただ、これ以上は引き下がれねぇ」
ムキムキおじじ……なんでそこまで。
おじじはフリィアちゃんに近づいて頭に手を置いた。
「お嬢ちゃん。これが良いんだろ?
似合うとは言えねぇけど、似合う女の子になれよ」
「……やった!!」
フリィアちゃんの表情は一気に明るくなった。
重たそうに全身で大剣を支えながらだ。
「あの……なぜ」
俺はなんでそこまでしてくれるか聞いた。
「俺の息子は5年前に戦死してる。
十八の顔の良い剣士で俺の自慢の息子だ。
あいつも大剣使いでな……その剣は二十歳の時までに、売れてなかったらくれてやる約束だったんだ」
尚更……そんな大切なもの……なんで。
「昨今の戦士はみんな魔法使いになりたがる。
剣を買う奴は魔法が使えなかったから、
仕方なく剣を選ぶような根性無しばっかり……
でもな、お嬢ちゃんは俺の息子と同じ目をしてた。
ま、気の迷いだ。買うなら月額払いの84回払い。
旦那、柑鮮も優先的に買わせてくれよ?」
……そうか、この世界はゲームじゃない。
ちゃんと生きてるんだ。この人も……みんな。
これは断る方が礼儀知らずだな。
買おう。月額白金貨4枚でこの大剣を買えるなら、
安いとかそう言う話じゃない。
人の好意だ。拒否せず受け取ろう。
「えぇもちろん。代金と柑鮮、
そしてこの子を名のある剣士にしてみせますよ」
「はははっ、ならいつか自慢させてくれよ」
* * *
さて、武具店のおじじの好意で買えた大剣だが、
さすが俊級の素材だ。まだ煌めいてる。
ちなみに初回払いはサービスでなしだ。
来月からはちゃんと4枚払うことになってる。
「フリィアちゃん。もう一度言いますが後戻りは禁止です。あの店主の好意を胸に立派な剣士になりましょう」
「はい! わたし絶対強くなります!」
フリィアちゃんは自分より大きい剣を抱えて歩いてる。正直、まだ不安が大きい……大剣は筋肉が必要だ。
ただ、不安だからと言って辞めさせることは酷だ。
一旦自由にやらせてみよう。怠惰な子じゃない……
心配しすぎるのもあまりよくないことだ。
【死のリストが更新されました】
!? いきなり……!! お嬢様の方かッ!
【*赤文字が緑文字へと変化。
[対象]大剣使いの男に斬殺される】
それいつの……? 赤文字はそう数が多すぎるわけじゃないから、わかりやすいはずだが……もう緑文字になったから探すのは無理だな。
なるほどな……緑から赤もあれば。
赤から緑とかもあるのか……
【死のリストが更新されました】
ま、また? 心臓に悪いんだけど。
【死亡運命に名前が付与されます】
……なんて言うから俺は死のリストを確認してみた。
【フリィア・サタニルド 七歳
雲虫族に捕食され死亡】
【リルメス・レクセト・ボルワール 七歳
兇徒により暗殺され出血死】
どっちも緑文字……は〜わかりやすい。
ってか、やっぱりリルメスがもう片方だったか!
よしよし……となるとこれは朗報だな。
戦争は5年後……その時までに必ず、
二人は戦えるようになってもらわなきゃいけない。
街を歩いて屋敷に戻った俺たち、
フリィアちゃんは満足そうに大剣を抱えてるが、
さすがに疲れたのか部屋に入ったら床に寝転んだ。
「フリィアちゃん。しばらく部屋にいてもらえますか」
「ふぁい……」
いいタイミングだ。
死のリストもフリィアちゃんが死ぬような内容はないし、あのわがままリルメスお嬢様と接触しよう。
いつまでもダラダラと関係を縮めないわけにはいかないし、できるならもう仲良くならないとな。
執事のグラバさんは、リルメスの部屋に自身とリルメスがいると言っていた。会いに行こう。
それで言うんだ──
″護身用に戦う術を学ばないか″ってな。
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