第一話 転職先は『異世界ガイド』
「23番さんお願いしまァアッす!!」
今日も俺は喉が枯れるまで声を張り上げる。
俺は居酒屋で店長代理として働く社会人。
はっきり言って、飲食業は基本ブラックだ。
こう言う居酒屋は特に……な。
「坂田さーん。12番さんのドリンクが届いてなくて、
めちゃくちゃキレてるんすけど〜」
「あー、あー! すぐ作るわ!」
金髪の大学生バイト……職務中にスマホいじんな!
てかホールなんだから対応お前がしろよ……!
なんて言えない。
だって俺の店は意味不明なレベルで人手不足。
油の匂い。酒の匂い。客のうるさい声。
バイトたちからの視線。注文が入る音。
忙しい。ひたすらに忙しい。
大きすぎるストレスから逃れるには、
無理矢理にでもハイになっていないといけない。
……営業中、正直感情はない。
ただ大きく声を上げて料理を作り、
貼り付けた笑顔で接客する。
作って運んで……また作って運んで──
俺はもう、心身共にボロボロだ。
「……」
今日も締め作業を終えて真夜中の街を歩いて帰る。
これの繰り返し。俺は死ぬまでこのままな気がする。
一丁前に夢は持っていないし、
夢にするほどやりたいこともない。
休日はダラダラとスマホを眺めたり、
爆睡してたらなぜか終わってる。
俺はずっと中途半端だった。
『俺! 消防士なる!!』
小学生の頃はそう言って。
『俺、芸術家なるわ』
中学の頃は自信ありげにそう言い。
『いや俺は、一流企業で働くわ!』
高校の頃はバカみたいなこと言って。
『あー……夢、夢ってなんだろな』
大学は結局何もしたいことも見つけられず、
気がついたらバイト先に就職してた。
二十七歳の一人暮らしでブラックな居酒屋社員。
恋愛経験なし、推し事なし、趣味なし。
改めて文字に起こすと酷いな。
スポーツに学業も中途半端。
人付き合いも曖昧で親友はいない。
何かに熱中したこともないし、
その感覚を俺は知らない。
腑抜けた無気力な人生……
挙句の果てに職場ではバイトから邪魔者扱い。
俺は社員だから、バイトを注意する時もある。
でも、どう考えたってあいつらが悪いのに、
あいつらは仲間を作って俺を攻撃するんだ。
俺は知ってる。更衣室の陰口も、バイトだけのグループで毎日愚痴を言い合ってるのも。
ナメやがって……不幸になっちまえ。
……んでも、そいつらは夢を持ってる。
俺は負けてるんだ。夢なしの雑魚人生。
おそらくメスガキがいたら、ハートもつけないほどの真面目すぎる『ザコ』が聞けると思う。
人生詰んだってほどの悲惨さじゃない。
笑えないレベルのドン底じゃない。
稼いでる。ちゃんと稼いでるし、
貯金だって親からの助言でしてる。
なのに、俺は心が満たされたことがない。
正直、人生ナメてた。
どうにかなるって……いやなってはいる。
けど、マジで楽しくない。
金持ちになってブイブイ言わせる人生。
知名度を得てチヤホヤされる人生。
結果を出して周りから認められる人生。
全部と真反対に進んでる。
俺は社会の歯車。娯楽もない社畜。
俺が主役になることはない。
誰かの人生の……使い捨てのエキストラ。
「……え」
そんな俺は今日、仕事帰りに背中を刺された。
「誰……っ」
背中を一発刺されて首を切り裂かれた。
俺はぶっ倒れた。びっくりするぐらい力が抜けた。
冬の夜は冷える。
アスファルトが冷たい。
自分の血が温かく感じる。
痛い、苦しい、辛い。
息が詰まる、死ぬ? 怖い。
ここで死ぬ? なんで。
いやだ。まだなんもしてない。
まだやりたいことが──
……あれ。なんで俺、生きたがってるんだ。
全部が中途半端で生きたってしょうがないのに、
なんで俺はこんな生きたがってるんだ?
いや違う……生きたいんじゃない。
やり直したいんだ。
熱を持ってる奴らを見下して、
馬鹿馬鹿しいだとか言って避けて。
自分の得意なことが誰かに越されたら辞めて。
とにかくプライドまみれの人生。
あぁクソ! 誰だよあいつ!!
思いっきり刺してきやがって……
走馬灯……走馬灯、これ流れる?
視界が暗い。元々夜だから暗いか……
いやでも暗すぎだろ。暗い暗い、明るくして。
いや……その。
あのさ。くっっら……視界が真っ黒になった。
さながらゲームオーバーかよ。
普通さ……普通なんか──
走馬灯ってもっと白くなァい!?
* * *
「はぁ〜〜いん♪ 人生おつかれちゃん!!!」
……え。
「いやぁ人生終了は突如来たれり〜!
まあ、可哀想な坂田君にはチャンスをやろう」
「ちょ……ちょっと待て!!
お前なんだよ! ここどこだ!」
そいつが暗闇の世界で妙に姿がはっきり見えた。
俺に話しかけてるのは眼球だった。
自分でもなにを言ってるかわからん。
でもマジでこいつは眼球だ。
大体、俺の上半身くらいのデカさだった。
「てか俺全裸じゃん……」
フルチン……なんだ? あんま恥ずかしくないぞ。
「あー。困惑するよねん♪
んまあ、現代人の君に合わせて結論から言うと──
君は死にました♪ 通り魔に刺されてね」
……あーやっぱ死んでるのか。
時折、死んだらどうなるって思ってたが……
「まさかあんた神か? めっちゃキショいな」
「たはっ〜大不敬じゃん♪ ま、僕は神じゃない。
正体はヒ・ミ・ツ、ミステリアスだろう?」
「……はぁ」
「ワァオっ!! めっちゃ冷たい目線だね。
まぁまぁ、雑談はここらにして本題に入ろう」
その眼球はひたすらに俺を見つめてる。
雰囲気はラフな奴だが、話したいことってなんだ?
天国行きか地獄行きかを決めたりするのか?
「坂田君。君は、人生に満足していたかい?」
「!」
「君は幼い頃から全てが中途半端だったね。
なにしても上手くいかないし、やり続けても平凡。
だから追い抜かされたらプライドが許さなくて投げ出すし、人付き合いも苦手……職場にも馴染めない」
「俺は刺されて死んだってのに……
ここでまた心を刺されるなんて聞いてね〜」
うんざりした。なんだ嫌味かこの野郎。
いや女か? わからん。どっちでもいい。
「そうさ、俺は中途半端さ。だからなんだよ」
「パンパカパーン♪ 異世界転生!! する?」
異世界転生……聞いたことはある。アニメとかでな。
……え、あれマジでできるの?
「いやあれは想像上のものだろ……!」
「わかってないなぁ。異世界転生ってのは君にわかりやすく言ってるだけで、本当の名前は違う。
それに今、この状況こそ非現実的だろう?」
なんか見下されてる感じがウザいな。
バイトの奴らを思い出すぞ……
「君は一度目の人生をあまりにも不満足で終わった。
僕はね。10年に一度、転生者として異世界に三人送らなきゃいけないっていう″仕事″があるんだ」
はー、10年に一度出勤かよ。
「んで……俺は選ばれたって話か?」
眼球が俺に近づいてきた。
「そうそう。その年に死んだ人リストがあってね。
僕が勝手に決められちゃうんだけど……君さぁ。
どうしようもないくらい可哀想なんだよね♪」
おうおう、なんだこいつ。
ほんと腹立つやつだぜ。
「マジ言いたい放題言いやがって……
だけど、その異世界転生って話、マジだな?」
「おっ、やる気出たかい?」
「当たり前だ。ずっと無気力だったからな。
二度目の人生があるなら俺は頑張るぞ」
「いいね〜!! でも、君は″人″じゃないよ」
は?
「今なんて?」
「君は人として生まれない。
なんせもう転生者の枠で人枠がないんだ。
でも安心して、知力はあるよ。君にはね──
ある女の子たちの″案内役″になってもらう」
ガイド……? 俺の人生は……?
「俺の人生は!? てかガイドってなんだよ!」
「あーあー、説明するからぁ」
異世界転生って……普通なんかちょー強くて、
モテてて煌びやかな人生送るんだろ!?
なんだよ人じゃないし、しかもガイドって……!!
「その女の子たちの運命は悲惨なんだ。
元の運命じゃ、大体十代の時には確実に死ぬ」
そりゃ可哀想だけどよ……
俺からすれば、そんなのどうでもいいんだけど!
「君はその女の子たち、って言っても二人を、
幸せな老衰エンドに導くことさ。
できたらそうだね。ご褒美と人の転生権をあげる」
俺はまた主人公じゃないのかよ……
でも……成功したら転生して人になれるんだな。
……これ断ったら完全に死ぬんだよな?
だったらやるしかないのか……?
「……どうせ俺がやるって思ってんだろ?」
「うん!!」
「はっ、そうですよ。はいはいやりますよ」
てか人じゃないなら俺はなにになるの?
ゴブリン? とかは流石に嫌だな……
「それでは詳細をお話ししましょう!
ガイドをする君は基本無敵さ。
実体はあるけどそれほど魔力の高くないし、
突進で攻撃とかは考えない方がいい。
君はそんな特性を持つ″光の球″として、
これから君は異世界転生するよん。
それと二人の運命を変える中で君には三つのスキルと、固有の加護? ってより体質? が宿る」
いきなり異世界転生っぽくなったな……
光の球……顔なしか……はぁ。
「スキル一つ目♪
一度見て聞いたことは必ず覚える。完全記憶。
スキル二つ目♪
異世界に記されている物の知識全てを得る。全知脳。
スキル三つ目♪
誰であろうと気絶させる魔法。確絶魔法。
ただしこれは一年に一度しか使えないよん。
使ったら二週間は声は出せないし、身体も透明になるから使い所には気をつけるように!」
……地味〜〜。
いや、もっと強くないとキツいじゃん!
一年に一回って……しかも二週間消えるのか。
「なんかしょっぱいスキルだな……」
「なにを〜。全部使い方次第で最強さ」
眼球は俺から離れて白い裂け目を作り出した。
手もないのにすげえことするんだな……
「君の体質に関してはそのうちわかるよ。
さっ、駆け足だけどもう時間がないんだ。
いってらっしゃい坂田君。
二人の女の子を″幸せ″にするんだよ」
……これは俺がただ人として転生するためだけに、
その女の子二人を幸せにするだけ。
ちゃっちゃっとやって転生し直そう。
うん。そうだな。がんばれ俺、営業より楽だ。
俺が白い裂け目に入ると意識がまた消えた。
沈むような感覚……徹夜の営業終わりみたいだ。
ここにきてまで仕事で例える俺だが……
少しして俺の意識はホワイトアウトした。
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