いつか、誰も知らない夜明けが来る

　潮見悠は、海辺の街にある寂れた進学校「星見ヶ丘学園」に通う高校三年生。成績は優秀ながら、将来への情熱や目標がなく、誰もが未来へ向かう中で自分だけが「停滞」し、周囲の「風景の一部」として振る舞うことに強烈な疎外感を抱いている。
　彼の唯一の避難所は、立ち入り禁止となっている旧校舎の屋上。ある放課後、その「秘密の場所」に、学期途中に転校してきた藍沢春風が立っていた。
　春風は、悠が持つ「停滞感」や「焦燥感」を鋭く見抜いてしまう。彼女自身もまた、「誰も知らない夜明け」を待っているかのような、根源的な孤独と「静かな覚悟」を纏っていた。
　春風は、「誰かの特別になりたい」という悠の隠された願望を指摘し、この屋上を二人だけの秘密の場所とし、互いの孤独な時間を共有することを提案する。そして、自身の詩集と「名前のない花」の栞を渡し、「退屈な日常」から自分を救い出す「共犯者」となるよう悠に迫る。
　悠は、初めて誰かの「特別」として必要とされた高揚感と、彼女の言葉の裏にある切実な秘密に惹かれ、その誘いを受け入れてしまう。これは、彼の「退屈な日常」を劇的に変える「最後の夏」の始まりとなる。