第4節:廃棄の森
布告の執行が終わると、二人の聖騎士が俺の両腕を掴んだ。
そして、祭壇から引きずり下ろした。
抵抗する気力など、もはや残っていなかった。
俺は、まるで壊れた人形のように、彼らに引きずられていく。
聖堂に集まった人々が、俺に道を開ける。
その視線には、もはや怒りや憎しみはなかった。
ただ、汚物を見るかのような、冷たい侮蔑だけがあった。
彼らにとって、俺はもう人間ではない。
システムの秩序を乱した、ただのゴミ。
浄化されるべき、異物。
聖堂の巨大な扉が開かれ、外の光が差し込む。
だが、その光は俺を照らさなかった。
俺は、光の世界から、影の世界へと追いやられるのだ。
聖騎士たちは無言のまま、俺を聖都の通りへと引きずっていく。
白亜の美しい街並み。
活気に溢れた商店街。
子供たちの笑い声。
それら全てが、まるで別世界の光景のように感じられた。
俺はもう、この世界の住人ではない。
沿道に集まった民衆が、俺に向かって石や腐った野菜を投げつけてくる。
「異端者め! 」
「出ていけ! 」
「聖都を汚すな! 」
罵声が雨のように降り注ぐ。
額に当たった石が、皮膚を切り裂いた。
生温かい血が頬を伝う。
だが、痛みは感じなかった。
心は、とっくに麻痺していたからだ。
ただ、ぼんやりと考えていた。
前世で全てを失った時、俺は一人、安アパートで死んだ。
誰にも知られず、誰にも看取られず。
それに比べれば、こうして大勢の人々に見送られるだけ、マシなのかもしれない。
そんな、歪んだ思考だけが、かろうじて意識を繋ぎとめていた。
やがて、俺たちは聖都を囲む巨大な城壁の、その最果てにある門へとたどり着いた。
錆びついた鉄格子でできた、最も小さく、最も汚れた門。
罪人や、システムの規格外の者たちを追放するためだけの門だ。
聖騎士の一人が、重い音を立ててその門を開ける。
そして、俺はまるでゴミ袋でも捨てるかのように、門の外へと乱暴に突き飛ばされた。
乾いた土の上に、無様に転がる。
顔を上げると、目の前には不気味なほど静まり返った、暗い森が広がっていた。
木々はねじくれ、空を覆い隠すように枝を伸ばしている。
地面には湿った苔がびっしりと生え、腐敗した落ち葉の匂いが鼻をついた。
魔物が蔓延り、一度入れば二度と生きては戻れないと噂される禁断の森。
異端者やシステムの規格外の者たちのための、最終投棄場所。
――『廃棄の森』。
俺の新たな住処に、ふさわしい名前だった。
背後で、重い城門が閉ざされる、地響きのような音がした。
ギイィィ……という軋む音。
そして、ゴトリという、世界から完全に切り離されたことを告げる、絶望的な音。
最後に聞こえてきたのは、遠く、聖堂の方角から響いてくる、民衆の歓声だった。
俺という「浄化」を成し遂げた勇者アレスと、そのパーティを称える、熱狂的な喝采の声。
彼らは英雄となり、俺はゴミとなった。
それが、この世界の、神聖システムが下した結論だった。
全てを奪われた。
名前も、財産も、尊厳も。
前世と、全く同じだ。
巨大なシステムによって、その存在価値を否定され、社会から追放される。
(ああ……そうか。これが、二度目か……)
皮肉な笑みが、口元に浮かんだ。
(少なくとも今回は……退職届を書かなくて済むだけ、マシか……)
それが、俺の最後の思考だった。
前世と同じ絶望。
そして、数時間にわたって受け続けた精神的・肉体的な疲労。
それが、ついに限界を超えた。
視界がゆっくりと暗転していく。
暗い森の入り口で、俺は崩れるように地面に倒れ、意識を手放した。
第一章、最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
主人公、カイトは全てを失い、どん底の底まで落ちてしまいました。
読者の皆様も、きっとフラストレーションが溜まっていることと思います。
しかし、約束します。
ここからが、彼の、そしてこの物語の本当の始まりです。
彼はゴミとして捨てられました。
ですが、彼らはまだ知りません。自分たちが捨てたゴミが、実はこの世界の根幹を揺るがす、規格外の「システム」そのものであることを。
ここからの壮大な逆転劇、そして成り上がりを、ぜひ見届けてください!
「ここからの反撃に期待! 」「ざまぁはよ! 」と思っていただけましたら、ぜひブックマークと、ページ下の【☆☆☆☆☆】での評価をお願いします!
皆様の応援の一つ一つが、カイトが絶望から立ち上がるための力になります。
次回、ついに彼のスキルが覚醒します。
お楽しみに!




