第5話 私が…ヴェノメッド・ジャッジである
このエピソードは途中で終わることなく、最後までしっかり完結しています。
拙い部分もあるかもしれませんが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
ありがとうございます!
世界はまだ最後の一撃に震えている。
怪物の体は煙のように溶け、黒ずんだ骨は塵となって崩れ落ちる。空気は錆と毒の味を帯びている。
カフカは砕けた梁に軽やかに着地し、尾はかすかに毒を吐きながら唸っている。
霧が濃くなる。
そこにいる――血で濡れた髪、押し潰された薔薇の色をした目。
コレン・オンナ。香りの屠殺者。街区の殺人鬼。
彼女は優雅に、震える手で扇を開く。
空気がガラスのように砕ける。
赤い嵐が炸裂する。
退屈そうな私の顔は微動だにしない。
爆風は建物を引き裂き、鋼を溶かし、色彩を消し去る――しかし私は触れる前に消えていた。
彼女の耳元で囁く:
「遅すぎる」
世界がひるがえる――私は影の中を瞬きより速く移動し、一歩ごとが稲妻よりも早い。
彼女も同様に速く、緋色の霞に溶け込み、霧から霧へ瞬間移動する。
衝突する時、光と影がぶつかり合う――深紅の嵐が漆黒の毒と衝突する。
一撃ごとに、雷が岩を砕くように空気を裂く。
戦闘の最中、私は怠惰に笑った。
「これが楽しいってのか? ついあくびが出そうだぜ」
彼女の返答は唸り声。回転し、霧が香りとなって燃え上がる。
心を歪め、神経をゼリーのように変える濃厚な香水。
一度吸い込む。
何も感じない。
私は静かに笑った。「可愛い手口だ。残念ながら俺はお前みたいに呼吸しない」
尾が信じられない速さで鞭打つ――彼女は消え、再び形を作る――だが間に合わない。
毒の尾が彼女の喉を絡め取り、地面から持ち上げる。足が空気を掻く。
半開きの瞳が月光に微かに光る。
「もう退屈だ」
彼女がもがく――すると背後の空気が沸騰する。霧の中から化物が現れる――肉と煙の巨大な悪魔だ。咆哮し、飛びかかる。
私は冷ややかな目でそれを見やる。
消え――上空に再出現――尾を叩きつけ、胸を切り裂く。
化物は再び霧となり、再形成――
毒液が空を駆け、尾から黒い稲妻が放たれる。化物を貫き、深く毒を注入する。
赤い霧が黒く染まる。
ドカン。
獣は毒と腐敗の嵐に爆発する。地面が揺れる。私は瞬きもしない。
まだ喉を掴まれたままの彼女を見る。
「ほら? お前の玩具を壊した。またな」
初めて――彼女は躊躇する。冷静で優雅な仮面がひび割れる。
私の瞳が細まる。瞳孔が変化し――サソリの輪が内側で光る。
「わかった」私は呟く。「お前は何百人も殺した。血、皮膚、臓器で香水を作った」
彼女の声が震える。「お前は一体何者だ?」
私は首を傾け、目を半ば光らせる。
「俺?」
再び瞳が燃え上がる――冷たく毒々しい黄金色が闇を刃のように切り裂く。視線をコレン・オンナから倉庫の奥へ移す。
そこにあったのはもはや人間ではない。
数秒前まで呼吸していた鎖に繋がれた女性たちは、壊れた人形のように引き裂かれ、散らばったただの塊になっていた。
錆びたフックにぶら下がる者、コンクリートに倒れる者――胴体はくり抜かれ、臓器は失われ、肋骨は略奪された宝箱のように割れていた。
血が下に溜まり、揺れる光で黒く光る。数体は…形すら失い、かつての姿をほとんど留めない肉の塊と歪んだ手足になっていた。
私の輝く瞳が曇り、黄金の光は消える。表情はいつものもの――嘲笑。
傲慢で、冷淡で、退屈すら漂わせる。目の前の惨状は、もはや私を驚かせぬ世界の退屈な一場面のようだ。
一歩踏み出す。足元の影が水のように揺れる。
周囲の世界が凍りつく。風が止まり、音が消える。
「俺が……」
影が天へ爆ぜ上がる。
「…ヴェノムド・ジャッジだ。」
沈黙。そして――
一つの鼓動――全てが爆発する。
空気が砕ける。黒い毒の脈動が、叫ぶ黒い星のように倉庫を貫き、金属もコンクリートも肉も裂きながら外へ広がる。
酸と腐敗の匂いがオゾンと混ざる。毒は濃厚で生きているかのように広がり、道のすべてを貪り尽くす。
かろうじて息をしているギャングのメンバーたちが、毒に触れると鋭く生々しい人間の苦痛の叫びを上げる。
彼らの体は痙攣し、黒い膿が静脈から泡立つ。手足が制御不能に痙攣し、虚無へと崩れ落ちる。
その悲鳴の反響が、廃墟となった地区の壁に跳ね返り、グロテスクな交響曲のように響く。
コレン・オンナの目が見開かれる。息を飲む。
「何が起きている?」と彼女は思う。
屠殺地区全体が爆発する。火も鋼も使わず、光すら飲み込むほど濃密な毒のエネルギーで。
ドカン。ドカン。ドカン。
緑と紫の稲妻が空を喰らう。建物は黒大理石の柱となり、歪んだ「罪人の法廷」を形成する。
視界のすべて――罪人、悲鳴、影――が彼の毒と裁きの法廷に溶け込む…我が『ヴェノムド・コート』が…地面から聳え立つ、巨大でグロテスクな――正義の天秤が毒の光を放つ。
静寂。
そして鎖が濡れた石を引きずる音。
コレン・オンナが投げ飛ばされ、浮かぶ黒曜石の台に激突する。
黒い鎖が彼女の手足を巻きつけ――生きて蠢き――彼女を立たせ、ひざまずかせる。
息が白く曇る。
彼女は見上げる――
目の前に広がるのは不可能な光景:
影の大聖堂、果てしなく威厳があり、緑と紫の毒光に照らされる。
壁が呼吸する。
柱が蛇のようにねじれ、上には黒い霧の天井がゆっくりと動く。
中央には、空中に浮かぶ玉座に俺が座る。
姿勢は退屈そうな王。
尾は椅子の後ろでだらりと巻き、先端から光る毒を滴らせ、運命のメトロノームのように揺れる。
肘を肘掛けに置き、顎を手に乗せる。少し得意げに身を寄せ、この完璧な劇の瞬間を楽しむ。これは演劇。これは裁き。これは芸術。
十三歳に見えるかもしれない――だが部屋は俺の気分に合わせて曲がる。
下には、何百もの亡霊が列をなし、コレン・オンナが殺した人々が裁判員のように座る。
顔は蒼白、無表情、空洞の目が彼女を見据える。
叫びも、泣き声もない。ただの静寂。
世界は新たな正義の支配者を得た。
ヴェノムド・コート。
ささやきが部屋に響く:
「…ヴェノムド・コート、開廷……」
◇◇◇
月光が高いガラス窓から息をするように差し込み、蒼白く冷たい。
カフカのベッドの下で、トマは毛布の巣に丸まっている。首筋の血管には、彼の毒――その微かな光がまだ脈打っている。
胸が静かに上下する……その瞬間、衝撃波*が走った。
遠くで鳴る、低く深いドォンという音が床板を震わせる。
彼女の目が弾けるように開く――琥珀の双眸が光を放つ。
「きゃっ!」
驚いて短く悲鳴を上げ、ベッドの縁に頭を*ゴンッ*とぶつけた。
「いった……」と呟き、頭をさすりながら――ピタリと止まる。
全身の筋肉が本能で研ぎ澄まされる。
空気の味がする……知っている味。毒の、電気の、生きているような味。
尻尾のような髪が、ピクリと揺れる。
トマは這い出る。低く、しなやかに――人とも獣ともつかぬ影。
そのまま一息で窓辺へ跳び乗り、猫のようにしゃがむ。爪がガラスの枠を軽く掻く。
街の外れ、はるか彼方――黒い煙の塔が雲へとねじれ昇っていた。
この距離からでもわかる。あれは彼の毒。彼の力。
「……ご、しゅ……じん……」
掠れる声で、喉の奥に震えを残しながら囁く。
瞳孔がさらに細くなる。彼を感じる――
毒の脈動も、裁きの波も、すべてが彼女の血管の中で共鳴している。
◇◇◇
主の間。
部屋は深紅の影に沈んでいる。
イザナイの瞳が一瞬だけ開く――闇の中で紅く。
ノザルは微動だにせず横たわっている……が、蠍の感覚がわずかに震えた。
言葉もなく、背骨のあたりの皮膚がわずかに割れる――
そこから尾が、背から解き放たれる。
青白い毒光を帯び、生きているように。
尾はゆらりと持ち上がり、空気を嗅ぐ。
そして――シュッと音を立てて窓へと伸び、ガラスを軽く叩き、遠い煙の方角を指す。
同じ方向。同じ気配。
ノザルは目を覚まさない。
口が眠たげに動く。
「……また、あのガキか……」
尾は――まるでため息をつくように――静かに息を吐き、
そのまま蛇のように壁を這い上がっていく。
夜は静かだった。金属の小さなカチカチという音だけが、壁を登る尾の存在を告げている。
◇◇◇
窓辺にしゃがむトマ。
耳がピクンと動く。体が強張る――窓の外から、尾が這
い上がってくるのを感じたのだ。
月光に濡れ、青い毒の光を放ちながら。
トマはびくりと跳ね、背中を丸める。まるで猫が別の猫を見つけたように。
毛を逆立て、四つん這いの姿勢で「シィィッ」と低く唸る。
「ッハ――フルルッ!」
いつでも飛びかかれる構え。
尾は一瞬止まり、左右に傾いてから――まるで「こんにちは」とでも言うように、ひらりと揺れた。
互いを見つめ合う――小さな猫娘と、自我を持つ蠍の尾。
尾は再び、ため息のような動きを見せた。
まるで「子どもが悪さして見つかった」ときの親のような、諦め半分の仕草。
尾が部屋の中を「見回す」。
――カフカがいないことに気づく。
そしてゆっくりと、信じられないとでも言いたげに首を振った。
まるで、「やっぱりあいつか」と言うように。
小さく、疲れたように尾をひと振りして、壁を滑り降りる。
屋敷の中を蛇のように這い戻り、やがてノザルの背骨へと帰っていった。
◇◇◇
トマは窓辺で凍りついたまま。
視線の先――
街の上に、煙がまだ毒々しい光輪のように渦を描いている。
小さく、震える声が静寂を破った。
「……ご、しゅ……じん……」
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
感想をいただけると、今後の執筆の力になります。
物語はまだ始まったばかり――次回もぜひお楽しみに。




