第12話 トーマは彼の全ての問題になる
このエピソードは途中で終わることなく、最後までしっかり完結しています。
拙い部分もあるかもしれませんが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
ありがとうございます!
トマは小さな召使い用ベッドに座り、足をぶらぶら、尻尾で壁をバンッバンッ叩いていた。
「はぁ…はぁ……ヘッドパット? ヘッドパットだけ!? それだけぇ!?」
牙がギラッと光り、彼女はドラマ爆発モードに突入する。
「怖がったふりもしたし! 無垢ぶったし! 完璧な救出イベントまで仕込んだのに──なんで召使いをサクッと殺して終わりなわけぇ!? それだけ!?」
机にダイブして、上の物を全部ぶちまける。
「マスターぁ!! 気づけぇ!!
私は! かわいい! 儚い! 愛らしい! なんかしろぉ!!」
尻尾は暴走ヘリコプターみたいに回転する。
薄気味悪いにやっと笑みが戻り、牙がギラギラ。
尻尾はバネみたいに跳ね上がり、トマは自分の悲喜劇を自分でナレーションし始める。
「ステップ1:無垢ぶる。
ステップ2:かわいくハァーってため息。
ステップ3:さりげなくカオスを仕込む。
ステップ4:マスターに──“この危険な子猫を無視した
罪”を後悔させる〜。」
背もたれに寄りかかり、尻尾をピンと弾き、ひそひそ声で続ける。
口元には悪戯笑み、目はギラッと光る。
「でね! カーテンの裏に隠れて……ちょろっと覗いて……“シューッ”って威嚇して……バタッと倒れて……マスターが入ってきたら……『うらぁ!』って飛び出すの!ふふっ……伝説……爆笑……無敵〜……」
笑みがさらに狂気を帯びる。
瞳孔は縦に裂け、尻尾はS字に曲がり、爆発寸前で震える。
「マスターの──ぜんぶの問題になってやる〜。」
――バンッ!!
扉が勢いよく閉まる。
トマは悲鳴を上げて飛び上がる。
「ニャッ──!?」
一瞬で想像する。
“今の全部、聞かれた”…と。
顔が真っ赤に染まり、耳がぺたんと倒れる。
「ま、まさか……マスター……聞いてた……? もしかして……」
魂が抜ける。
「無理……『ぜんぶの問題』とか聞かれてたら死ぬ…..もうここに埋まる……このボロ床でいい……」
だが窓を揺らしたのは、ただの風。
安心したが、顔はまだ真っ赤。
次の瞬間──毒の絆越しに、冷たく淡々とした声が脳内に響く。
『……聞こえてるぞ。バカ猫。』
トマの顔は完全に真っ赤の極み。
息を呑み、目を限界まで開く。
そうだ──彼の毒で、二人は繋がっている。
思考も、独り言も、ぜんぶ。
「ま、まって……ぜ、全部!? 全部聞こえてたの!!?」
叫んで固まり、牙まで丸見え。
『……お前、うるさい。』
さらに真っ赤になり、思わず怒鳴る。
「ううっ……バカマスター!! ふんっ! バーカ!!
……だ、だいじな……いじわる……マスターぁ……!」
尻尾は恥ずかしさでぐるぐる震える。
◇◇◇
カフカは血の光に染まった地下室に残っていた。
広大で反響する空間。空気そのものが、暗く神聖な共鳴で震えているようだった。
俺の姿勢はいつも通り──退屈したような優雅さ。
古い石壁、揺らめく魔力の微細な流れを、つまらなそうに眺めていた。
退屈な日常の中で、わずかな好奇心の火花が胸をかすめた。
突然、一筋の光が闇を裂き、粗い壁に反射して踊る。
俺はほとんど視線を動かさず、身じろぎもせず、冷静を保った。
階段から駆け下りてきたのは巫女だった。
荒い息、震える小さな肩。
「ひ、ひぃ……ここで……なにしてるの……?」
俺はゆっくりと首を傾け、深く暗い瞳で彼女を見つめる。
「え、えっと……伝えたいことがあって……」
巫女は胸の前で指を組み、ぎゅっと握りしめた。
「……また祭りの知らせだったら、許さないぞ」
俺は低く滑らかな声でつぶやいた。
「う、うぅ……あ、明日は『見捨てられし者の饗宴』で……」
巫女は視線を床に落とした。
俺は無表情のまま彼女を見つめ、淡々とした声で闇を切り裂いた。
「……お前たち、本当に祭りが好きだな」
巫女は小さく頷き、一筋の涙が頬を伝った。
「饗宴でアグニヴォラがまた目覚めます……そ、そして……もしかしたら明日が……私の最後の日になるかもしれません……」
俺は片眉を上げ、半目で彼女を見た。
「……最後? どうしてだ?」
巫女は息を呑み、体を震わせた。
「わ、私……アグニヴォラの器に選ばれたのです……」
彼女は地下室の最も深い闇を指差した。
「そ、そして……あの方も……明日、いっしょに捧げられます……もう戻れません……すべて終わる……そして“あの方”が……私を……連れていくのです……」
カフカの視線は、指し示された闇の奥へ向けられる。
「“あの方”、か……?で、その“あの方”とは──一体誰だ?」
巫女はかすれる声で言った。
「彼女の血を採ろうとしたせいで……あの方は王国をほとんど皆殺しにしかけた存在なんです……」
「でも、どうにか棺に閉じ込めることに成功したのです……」
その言葉を聞き、カフカの口元に、刹那の危険な微笑が浮かぶ。
妖しく、鋭く、興味を孕んだ微笑。
「……面白い」
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。
感想をいただけると、今後の執筆の力になります。
物語はまだ始まったばかり――次回もぜひお楽しみに。




