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第8話 回転すしは食のテーマパーク

回転すし。次の特貸のオーダーなんだけど、女将さんの言っていたちょっと変わった、っていうのは「回転」の部分だったんだよね。


レーンがあってお皿に乗ったお寿司や多種多様なサイドメニューがそのレーンの上を回っている、アレ。


お寿司じゃなくて回転すしが食べたいって言われると、考えることが多すぎて、凄く困っちゃってるんだよね。


そもそもお寿司ってさ。どこからがお寿司で、どこまでがお寿司っていうのが、わかりづらくない?


ネタのこと考えてもさ、いろんな魚やエビカニイカタコなどの海鮮類。肉類、お野菜まで含めるとシャリに乗せればなんでもオッケーなんじゃない?と思えてくるし。


形にしても。握り寿司は基本として。巻きもあるし軍艦もあるし、チラシ寿司なんてのもあるよね。


なれ寿司から始まって棒寿司、握り寿司といろんな形が生まれてきて。今となってはお寿司の一言じゃ表しきれないほどの広がりを見せているんだよ。


海鮮丼はお寿司なのかな?とかまで考えてたら、どうやら基本的には酢飯であることが定義的には大事みたい。


そう考えたらお魚とかなくてもちらし寿司って言うもんね。妙に納得しちゃったよ。鑑定魔法凄い。


「考えているところ申し訳ありませんが、こんな形で宜しいか聞いてもいいですかね?上下2段にしてみたんですよ?凄いでしょ私。

 ほら、下手の考え休むに似たりっていうじゃないですか。考えるのやめてコッチ先に決めましょう。そうしましょう」


「2段の必要あるのかな? 結局は一組だし。他の人に取られちゃったりすることもなくない? 注文だって対面なんだしさ」


「いえいえ、こういうのは形から入るのが大事なんです。高速レーンは必要です。流石に注文用タッチパネルはやりすぎたかもしれませんが。

 それに回転すしは戦争です。いくら仲の良い勇者パーティーとは言っても、目の前を好きなネタが通ったら思わず取ってしまうかもしれんません。他の人が注文したネタであったとしても。そしてそこからパーティー崩壊や追放の流れになったら、あなた責任取れます?」


「いやいや流石にそこまでのことにはならないでしょ?結成すぐとかならまだしも。魔王倒すほどに苦難を共にしたパーティーだよ?」


そう、今回のお客様はお一人ではなくパーティー全員なんだよね。でさ、食べ物の恨みは恐ろしいって言葉があるくらい、日本人は食べ物のことはうるさいけど。流石にパーティー崩壊はないでしょ。


お寿司のネタ先に食べられたくらいでさ。いやでもプリンっていう争いのタネもあるし分からないのかな? まあそれよりも。


和みのカウンターはチャンさんの改造によって回転すしのカウンター席に変わっていた。お店の形態が増えたね。


サイズは別にして妙に本格的なそれは上下2段で厨房側からカウンター席が見えにくいんだよ。それは逆もそうなわけで。


「もしかしたら、それはもう本当に隕石が落ちてくるくらいの確率で争いが起きるかもしれないけれど。それよりも中が見れないのはイヤかも、

 今回のオーダーは楽しさも大事だと思うんだよ。だから、厨房が見れるっていうのは大事な要素だと思ってるんだよ。

 上のレーンの楽しさもあるよ? でもそれって一発ネタじゃん? 色々作ってるところ見れる方が楽しいと覆うんだよね、だからそこは1段で」


「ほう、若女将にしてはまともな意見ですね、下手の考え、バカにできません。確かに私も調子に乗ってやり過ぎたとは思っていました。あ、私のは弘法も筆の誤りですよ。ふむ、では1段に直しましょう。すぐに終わります」


うん。私だって色々考えてるんだよ。回転すしってさ、お寿司を食べるって目的だけじゃなくてなんていうかテーマパーク的な?


楽しさも求められているとは思うんだよね。確かに日本のお店みたいなつくりは楽しい部分もあるとは思うけどさ。


それでも自分の頼んだものが出来上がる光景を見れるっていうのも一つの楽しみだと思うんだよ。今回は特に。


それにタッチパネルは便利だけど、楽しくはないよね?


「あ、もう出来てる。でもコレはイイ感じかも? チャンさん、これでお願い。和み回転すしバージョンはこれでいいかな。それと試運転もしたいかも?ちょっと流してみるから食べてみて?」


「試食も兼ねるわけですねいいでしょう。では大トロとウニとイクラとうなぎと車エビと鯛とアワビでお願いしますか」


ここぞとばかりに高級ネタばっか頼んで来たよこの人。絶対お金困ってないのに。転移の料金が聞こえてきたことあったけど私の年収くらいだったし。


それを何の気なしに払えるような人がウチに来るお客さんなんだよね。転生者凄い。って私も転生者だったよ。私も凄い?


それは考えると悲しくなるからやめといてお寿司を作ろう。いくら回転すしっていっても握り寿司の王道は必要だからね。


いくつかは試作もしてあるんだよ。高級ネタってある意味で王道でもあるわけで、すでにいくつか用意してたけどうなぎは盲点だったなー。


まずは白身とかだっけ?貝?まぁいいや試食だし。と思って鯛のお寿司を2個お皿に乗せてレーンに置く。


1貫とか数えたりするけどこれは色んな説があるからね。1個だったり2個だったり。重さだったり、最近は1個が一番一般的な意味になるのかな?


まぁそれはいいとしてレーンを稼働……


私の前の前にあったお皿は一瞬で私の視界から消えた。速すぎるんだけど?ジト目でチャンさんを見てみると。


「デフォルトは最高速です。マッハに近い速度が出ます。言ってませんでしたけ?そもそもちゃんとマニュアルみてください。まったく、最近の子はマニュアル見ないで取りあえず動かそうとするから。

 それにしても、お皿が私のところに来ませんね。最高速でも吹っ飛ばずに届く魔法設計だったはずですが?はて」


「美味しそうな鯛なのです。いただきますなのです」


チャンさんが言うにはマッハに近い速度で届くはずだったお皿をその手前でソルが確保してた。ツッコミどころが多すぎるよ。あとチャンさんの嫌味は私には聞こえません。気にしてたら切りがないので。


ということで私は何も考えないことにするよ。注文はあとなんだっけ?


「美味しいです! 鯛の淡白でありながら華やかな味が口に広がります。シャリはほろほろとほぐれて酢飯の味と合わさって鯛の味を引き立ててます。

 こっちはまた味が違う? 歯ごたえがさっきのよりしゃっきりと鮮やかです。噛み締めると昆布の風味が鯛の風味に加わって、これも美味しいです!」


「私のところにも来ましたね。ソルさんのと違うものです、松皮作りですか。うん、熱を通した皮の旨さがしっかりと味わえます。

 生臭みもありませんね。醤油皿には脂が浮いてないですが皮目の脂の旨味は味わえますね。天然の鯛を上手く捌けてますね。やるようになりました」


鯛のお寿司色々あるよね。皮も食べられるように熱湯かけて湯霜にしたり炙ったりする松皮作り。今回は普通に湯霜にしたよ。


ソルが食べたのは普通の鯛の握りと昆布締めの鯛。そのものの味もいいし色々と工夫もしやすい鯛が人気ネタなのは納得だよね。


「大トロ! この間ステーキにして食べたやつです。今日のは生ですが、これも美味しい! ステーキの時とは歯触りが違います。

 それにステーキの時よりも寧ろ濃厚?脂の旨味が口いっぱいにこれでもかと押し寄せてくるです。筋は口に当たることなく身とともに溶けていくです。

 やっぱり魚とは思えないパンチ力です。ワサビがさっきの鯛より多くて少し心配でしたがトロの脂と中和されてワサビの良い香りも楽しめます。トロの脂のしつこさも打ち消して、ワサビと大トロの絆を感じてしまうのです」


「ソルさんが大トロを取ってしまいましたが食べるのに夢中で助かりました。アワビが届きましたからね。私好きなんですよ。

 うん、コリコリした食感がたまりませんね。シャリとネタの間に僅かに肝を差し込みましたか。肝醤油もいいですがこれもいいですね。

 そして、こっちは酒蒸しですか。コリコリした食感は柔らかくむっちりとした食感に変わりましたがこれもいいですね。対比が楽しめます。」

 そして酒蒸ししたアワビは旨味が凝縮された感じで濃厚な貝の味を楽しめます。流石に貝類は出汁としても優秀な旨味の塊。そしてその貝の中でもアワビの風格は別物と言えるでしょう」


大トロはソルが食べてステーキとの違いを感じてくれたね。マグロの脂は生でも舌で味を感じることが出来るから、大トロのがっつりとした味を直で感じることが出来るよね。


ワサビは出来るだけきめ細かくしてみて辛味を強調したけど大トロみたいに脂の強い魚にはそっちのが合うと思ったんだ。好評だったから安心だね。


アワビも2種類用意したけど好物だっていうチャンさんにも美味しいと思って貰えたから良かったね。それに、色んな種類の味があった方が楽しいよね。


今回は王道の握り寿司だったけど、本番はサイドメニューもあるよね。回転すしと言えばサイドメニューは外せないと思うんだよ。


王道ネタは王道感を出しつつ工夫も加えて楽しさを演出。藁焼きとかもやっちゃう?私まで楽しくなってきちゃったよ。


味的にも楽しさ的にもこの方向でいいいんじゃないかな。ただ、種類が多いんだよね。工夫の種類もたっくさん。


これは今回も寝不足確定、かな?


二人はまだまだ食べたそうだし、もう少し試作と試食をしていきますか。


お寿司の研究、頑張っちゃうよっ!?

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