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第2話 2日目のカレー

とんかつ。豚のロースやヒレ肉に衣をつけ、油で揚げた料理。


ハッキリ言って異世界では再現しやすい料理の一つなんだよね。


豚肉そのものは日本と同じ品種はないかもだけど、似たようなものは沢山あるし、なんならオーク肉が高級豚肉な世界だってあるし。


パーラでは普通に豚肉は流通してるんだ。悪役令嬢がいる世界観のパーラは、所謂ゲーム世界みたいでさ。中世風の街並みなのに料理関係は割と進んでいたり、食材だって割と日本的なものもあるよ。


それに各異世界ごとに特色があるんだよね。ココまでの2年間で異世界間交易みたいなのも出来てるし。まぁそれは特別な機会にしか使わないけど。


それなりに過ごしやすいライトな異世界なんだよ、パーラは。もっとも転生後しばらくの人生は全然ライトじゃなかったけど。


伯爵家は没落し男爵家となり。領地も仕事もなくて一家全員が途方に暮れていた時。私に仕事を紹介してくれたのが偶然出会った女将さんで。


紹介されたお店は和食処で。転生前は家で普通に料理はしてきたし、何なら人よりちょっと詳しいくらいだったけど。とてもお店で働くレベルじゃなかったわけで。


しかも和みは特別な貸し切り、店内隠語で特貸とっかと言われる、転生者専用のコースなんかもあって。


最初はあまり役に立たなかった私だけど、そこは女将さんの厳しくも厳しい指導によって今に至るわけです。


厳しかったけど、ちゃんと優しさもあったし感謝してるよ?主に厳しい、だっただけで。日本でも、料理の世界はきっと厳しいんだと思うし。


だから食材的にも、技術的にも。とんかつを作ること自体は問題はないと思う。


ただ問題なのは和食的、というかとんかつ屋さん的な、というところ。これは時間との勝負かもしれない。


恐らくだけど賢者さんの世界でもとんかつは作れる、と思う。そりゃ一般市民が気軽に食べられるかどうかは分からないけど。


特貸の利用者は転生者さんで、転生後の姿は大体皆さんお若いし美男美女である。


私と同じように。


そして基本、転生後の世界で大成功していて、能力も高くお金も有り余っている。


私とは違って。


だから多少高級な食材だったりとか、調理が難しいとかはあまり問題にならないはず。それなのに何故「和み」に依頼があったのか?ということが問題なんだよね。


予想と同じなら準備は早い方がいい。そっちはソッチで準備しつつ、便利なあの人の報告も待ちますか。


「クロエさん、とんかつって難しいんです? ウチでも普通にいつも出してるやつじゃないです?」


「うん、とんかつ自体はあまり問題はないんだよ。問題はソースなんだよね。でもカレーが作れたなら、イケるとは思うんだ。あとは時間の問題かなー」


「時間があればそのうち解決するってことです? どういうことです?」


「いや、解決するのに時間が掛かるかもしれないってことかな? 正直、試したことないから分かんないんだけどさ。熟成と言うか、作ってすぐより美味しくなる系だと思うんだよね。ソースって」


「あー、ちょっと分かります。カレーだって二日目が美味しいって言いますもんね!そう言えば昨日のカレー、まだ残ってます?あったら食べたいです。気になってたのです」


ふと時計をみると結構遅い時間だ。流石に今日はもう終わりにしよっか。ソルはもしかして気遣ってくれたのかな?


お礼とご褒美だね。昨日のカレーはちょうどソルが食べるくらいは残ってるはず。冷蔵庫の中に……あった。


昨日の勇者さんに振舞ったカレーを温め直してるとソルが作り方を聞いて来る。いいよ、教えてあげよう。難しいもんじゃないし。


まずは牛骨をメインに出汁を作って。


フライパンに油を引いて玉ねぎをじっくり炒めていく。途中で少しだけバターを落としてあめ色になるまで炒めたら。


一口大に切った人参と牛腿肉を追加して焼き色が付くまで炒めたらスープに投入。アクを取りつつ30分したらジャガイモ追加。


その間にフライパンにバターを落として小麦粉を少しずつ加えてルゥ作り。ここでカレー粉を加えてルゥが出来たらこれもスープに追加して。


そんでもって追加で30分ほど煮込んでスパイスや塩なんかで味を調えれば完成。簡単でしょ?


日本ならルゥ作る工程はいらないし、なんなら出汁だっていらない。


オールインの日本製カレールーは異世界から見ればもはや魔法のアイテムだよね。


因みに勇者さんに渡したルーは特製のオールインバージョン。錬金術をフル活用した正真正銘の魔法のアイテムである。


ポイントは私の場合だけど、ジャガイモ入れる場合煮崩れが嫌だから後から入れることと、炒める工程で下味付けることかな?後はその他諸々。


「はい。出来たよソル。て言っても温め直しただけだけどね。ごはんも残ってたから食べていいよ。今日のまかないだね」


「クロエさんありがとうです。ではでは、気になってたお味は……

 

 ……美味しい。辛すぎず、甘すぎず。香辛料の香りも主張しすぎずにそれぞれの素材を優しく包んでる? 不思議です。辛いことは辛いのに。刺激的であるはずの香辛料なのに。お野菜やお肉の引き立て役となってその旨味を際立たせてる。お野菜の味がくっきりと分かるのは先に少し炒めたからでしょうか?

 

 あ、玉ねぎの食感が違う? 味も。カレー全体の味をバターで炒められたあめ色玉ねぎが支えていて。それでトロトロ食感で甘みの強い玉ねぎがカレーの辛さとマッチして。最後に少し食感を残した玉ねぎが、付け合わせを食べなくても口の中をリフレッシュさせて次の一口をまた新鮮な感覚で味わえる! これは手が止まらないです。

 

 お肉はそこまで主張が強くないですかね? でもそれでいい。 だからこそ、全体の調和が取れて得も言われぬ一体感が生まれてる! ごはんにも合う。程よいトロミは白いご飯に絡みついて。野菜の甘味だけじゃない、ご飯の甘さが最後に合わさることでカレーライスに進化しています。カレーだけではこの境地には至れないのかもしれないのです。ごはんとカレーは、ズッ友なんだと、嫌でも解らせられちゃう!?

 

 そしてこの一体感は2日目ということもあるかもです? 全体がなじんで落ち着いているのです。ホッとさせてくれる味へと。絶妙なバランスで成り立つ、味のファンタジーです!

 

 あぁ。ごはんが少しだけ残ってしまいましたです。おうちカレー、もうないのです。なのでこの福神漬けを、

 これも美味しい! 甘酸っぱさと塩味のバランスもいい。それにカレーの後だからか甘味を強く感じますが決してしつこい甘みではなく、心地よい甘み。不思議とごはんに合います。甘いものも受け止めるごはんの凄さを再確認です。

 あっ、このレンコンの食感。全体に柔らかい食感が多かった一皿の最後に、この食感はありがたいです。カレーが先に無くなった時は一瞬絶望しましたが、この福神漬けで締められたことは、幸せだったかもです。

 もう少し食べられそうですが、ちょうどいい満足感なのかも?今日は最高の気分で寝れそうなのです。ごちそうさまでした。」


長いよソル。食レポが長いよ。クロエちゃん、ちょっとびっくりだよ?


でもそれだけ美味しいと思って貰えたわけだよね。嬉しいよ、私は。ラッキョウも自信作だったんだけどね。そっちは勇者様のおみやになっちゃったからね。でも、福神漬けちゃんと作って良かったよ。


ま、2日目が美味しい説には諸説あるけどね。特に一食分だけじゃあんま変わんないかも?でもま、ソルが喜んでるからいいと思う。料理は冷めてく時に味が染みるってのはそうなんだけど、思い込みもあるとは思うんだよね。


量に関しては、おうちカレーだから。強烈な旨味を込めて一皿で満足!って言う味じゃないからもう少し食べたいな、くらいがちょうどいいんだよ。


それが毎日でも食べれる味の秘訣だと思ってるんだよね。その辺は感覚でしかないけれどさ。


そう、洋食風のカレーならフォンをもっと凝るだろうし各行程も食材も変わる。でも家庭の味ならそこそこっていう適当さも大事なのですよ。


適当とは本来、いい言葉なんだから。良い、加減。


そっか、ソースも難しく考えないで色々試してっちゃえばいいんだ。結構複雑ではあるけど技術的には難しいことじゃないはずだし。味の加減については試行回数重ねるしかない。


やっぱりもう少しだけ、頑張ってみるか!


アタシの夜食は無くなったわけだけど、ソルが喜んでくれたからいいよね?

本日5話投稿の2話目となります。

応援等頂けますと大変励みになりますのでよろしくお願いいたします!!

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