第7話 外世界
ティアと一緒に朝の森へと出かけることにした。
散歩と称して、森の中の山菜狩りや動物の狩りも行うと言っていた。
本当に自給自足生活で、そんな経験ゲームでしかしたことがなかった。
この世界に来てからこんな小さな少年が、と感心する気持ちと関心が止まらない。
少し歩いていると、森の中での山菜があるスポットについた。
「ここら辺が食べれる草花があるんだよ。…このピンク色の花、そして白い小さな花、これは食べれるもの。…そしてここにあるキノコも。キノコは注意が必要で…最悪死んでしまうこともあるんだ。僕は今も図鑑を見返しながら慎重に採ってるよ」
そう言うと腰につけていたポシェットから小さなハンディの図鑑を取り出した。
確かに使い込まれているような、そんな年季の入った図鑑に見えた。
私も…、こう言うので勉強して少しでもティアの役に立ちたい、そう思った。
「採ったものは…こっちのカゴに。じゃあ、…2日分ぐらい取れたら大丈夫かなぁ。ほとんど毎日この生活だし」
カゴをからっていたティアはそのカゴを置いて本腰を入れて山菜を摘みにかがむ。
私も先ほど言われていた色の花を口で摘んで採っていく。
しばらく5分間ほどそれぞれ夢中に採っているとどこからか、数人の人の声がした。
振り返ると奥の方まで来ていたのか、ティアが見当たらない。
あたりを探してみてもどうやら離れているのは私の方で、開けた原っぱが随分と遠くにあった。
何かを察した私は騒ついた胸の中、摘んでいた花を持っていくことを忘れてティアの元へ走って戻った。
そこには数人の大きな身体の…人間、のようなものに囲まれていた。
その光景を見た私はその大きな身体の者たちに恐れ慄くように足が動かなくなった。
「この世界」の住民なのだろうか、ティアはその姿にあまり驚きはないように会話をしていた。
「何の用なんですか、…ここの森は魔法使いの森で…」
『ハハッまーた、会ったな。魔法使いさん。まだあのボロ小屋に住んでんのかよぉ?』
『いい加減、魔法なんて。…辞めちまえばいいのになぁ』
『気持ち悪ィんだよ、昔っから。理解出来ないチカラ使いやがってよぉ』
ティアを囲んでいる大きな姿の彼らは大きな声を出して笑う。
一番大きな身体の者が笑うと、それに釣られて笑う金魚の糞の様なやつら。
私は心の中で怒りが沸々と込み上げてきている様だった。
『キャハハッ、何睨んでんだよ。お前…もう世界中に嫌われてんだからなぁ』
気付けば、私はしゃがみ込んだままのティアの目の前に彼らに向き合うように立っていた。
『何だ、こいつ、ノラ猫…?』
「あーっハハ、守ってるつもりか?』
『そうだ、今晩は猫肉でも良いんじゃねぇのかぁ…?』
私の首を簡単に掴むとひょい、っと持ち上げる。
私の手足を動かす必死の抵抗でも彼らの中の小さな身体の方の男の腕にも届かない。
抵抗する姿を見て嘲笑う様に高らかに笑い、私を食べる、と提案すると周りの男たちも賛成する。
猫を食べる文化のある世界、なのか…?少なくとも私のいた日本、現代にはそんな風習はない。
ゾッとしながらもどうすることもできないと思っていた瞬間だった。
「やめろ!その子をはなせ!」
私の首根っこを掴んでいた指先が、一瞬炎のように熱くなった。
オレンジ色に一瞬だけ見えた炎のような光ののようなものはすぐに消え私を掴んでいた男はその手を痛がりながらのたうち回った。
『痛ッ…、焼けるうぅ…、お前、なんてことすんだよォ…』
『クソッ…!これだから…魔法使いは…。』
『見えねぇ気持ち悪い力だ。猫一匹で…。ひとまず水で冷やすか。…ズラかるぞ!』
『ヒィぃぃ〜痛ェ〜〜…』
彼らは痛がる男を囲んでまた焦った様な顔になっていた。
そしてそのまま逃げるように走り去っていった。
「モネ、大丈夫?痛かったでしょう?」
心配そうに涙目になるティア。私は全然、とくるりと回ってみせると安心したような顔になる。
ティアが一瞬見せたものはおそらく魔法なんだと思う。
その魔法に大きな男たちは恐れていて、見るなり腰がひけていて逃げていった。
「さっきのは、オークっていう種族なんだ。もしかして初めて見た…?」
私が勢いよく2度頷くとびっくりしたよね、と申し訳なさそうに眉を下げて笑った。
「オークは一番近くの街に住んでるいるんだ。…たまにこの森にも狩り目的で入ってくることがある。…さっきの奴らが言ってたことは間違ってなくて…。この世界では「魔法」は怖がられているんだよ」
彼はだんだんと小さくなる声で真実を話すように打ち明けてくれた。
「だから…僕は魔法を使うのが嫌になってたんだ。…いじめられるし、誰からも魔法のせいで軽蔑されて。おばあちゃんと僕は小さな小屋で隠れる様に暮らすしかなかったんだ」
魔法を使えるティアとおばあちゃんは、街から追い出された昔の話を聞かせてくれた。
おばあちゃんが魔法で小屋を作り上げてくれた事。
あんなにも分厚い魔導書が何冊もあり絵本もあるんだ。
昔から魔法使いの種族はたくさんいるはずで、きっと2人だけではないのにどうして2人の周りには2人だけだったのだろう?
そんなことを思いながらも言葉にすることはできずにもどかしく話を聞いていた。
「でも。家にあった絵本…。見たでしょう?昔はあんなにも英雄みたいな扱いだったんだよ。だからモネにキラキラした顔で喜んでもらえた時は昔を思い出したようで少し魔法が誇らしくなった。…だけどまた魔法で人を怖がらす様なことをしてしまったけど…」
意気消沈してしまったのは山菜だけ摘んだ後、小屋へ帰ることにしたらしい。
ティアはそんな話をしながらトボトボと歩きながら自分の行為を深く反省している様だった。
私に出来る事…、
ティアを元気付けるために出来る事は…、
と頭の中を巡らしてみたが、今はそんなこと無いのかもしれない。