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第6話 前向き


ティアは第1幕の魔導書までの初心者向けのような魔法しか使えないと話していた。

その魔導書を開いてみると挿絵は簡単なイラストばかりで火や電気の起こし方、主に生活魔法、といったようなものだった。

この火を起こしている魔法の挿絵の前上にあるこの文字は見たことがないような文字ではある。

だけどもしかすると「火起こし」なんて書いているのかもしれない。

私も自らこの文字を解釈して読めるようになりたい、と必死に読むことにした。


ティアは順序よく第2幕の魔導書を目を通していた。

必要なのに第3幕の本なのにどうしてだ?と思い第3幕の本の上で鳴いて教えてみる。

どうやら私のその行動に何を言いたいのか気付いてくれたのかティアは私を見た。



「魔導書、ってね何故が飛ばして使うことが出来ないようになってるんだ。…だからまずは第2幕を全て覚えて使えるようになってから、なんだよ。もう生活魔法は使えるからこれ以上は必要ない、って思ってたから…」


まさか魔導書を開いて勉強をする、なんて思ってもなかった、と言いながら彼は眉を下げて笑った。

何故開かなくなったのか理由がありそうにも見える。先ほどから魔法の話をすると得意げな顔をしたりもするが9割ほど何か引っかかるような表情で。

言葉があったらもっと上手く伝わるのに、なんてもどかしい気持ちになりながら猫の姿の私はティアに擦り寄ることしかできなかった。



「ありがとう、モネ。…慰めてくれてるのかな。こんなところで懐かしんでいてもどうしようもないよね、君の言葉がわかるようになるまで…、僕は頑張らないといけない。…僕の、友達、になってくれたから」


友達、と言う言葉は久しぶりに聞いたような気がして胸が熱くなるような気持ちになった。

もう就職活動をしていた頃から「友達」なんて付き合いもほとんどなかったものだったから、子供の頃を思い出すようでなんだかそんな繋がりが懐かしかった。


どこのものかよくわからないような拾い猫を招き入れて、名前をつけてくれて、餌も寝床も用意してくれて。

そんなティアには感謝しかなかった。

私もこの少年の為になりたくて出来る事を見つけて全力で彼を支えよう、そう誓った。



「そろそろ、夜も遅いし寝ようか」


彼の提案で私はティアと同じベッドへ向かう。

少年の布団の上で小さく丸まってみるととても気持ちが良いものだった。

猫って丸くなると…眠くなるのかも…しれない、…。


次の日…なのだろうか、この小屋での初めての朝。

もちろん目が覚めると目の前には本の山とキッチンには少年が立っていた。


朝食の準備をしているのだろう。

猫より先に起きて調理しているなんて…少年はやるな…。


どうやらパンのような香ばしい香りがする、少年はそして何かをジュウジュウと音をたてて焼いている。

少年のそばに行くと私に気付くと「おはよう」と柔らかく微笑んでくれた。


自分だけの朝食なんて蔑ろにしていた過去を思い出す。

ギリギリに起きてメイクの時間だけはなんとか確保する。

そして栄養なんて何にも考えずスティックコーヒー飲んで、それだけの朝。

たまに気分がいい時はコンビニの挽き立てコーヒーを飲んだりして。

昼ごはんは社食があるからかろうじて栄養面を考えた食事で、夜はまた接待があればお店で食べるくらいで何も無い日は残業ばかりでヘトヘトになって帰宅するとすぐにベッドに寝転ぶ。

基本的にキッチンで自炊するようなことは無かった。


…だから自分よりも何歳も年下であろう、この少年がテキパキとあっという間にランチプレートのようなものを作ったことに感動していた。


「あっ、はは…、どうかな?美味しそう?簡単に焼いただけだよ」


私のキラキラと輝かしている瞳に気付いたのか申し訳なさそうに猫用のお皿を差し出してくる。


「…モネは猫用フードと…この焼きたて食パンでどうかな?」


そうだよね、見た目は猫だから…。昨日も食べてこれはこれで確かに美味しかったけど。

ティアのお皿には卵に似た白身の中に黄身がプリプリとしているものと、ソーセージのような加工肉。

葉物の野菜やみずみずしいトマトのような赤い実も乗っていて、パンと呼ばれるものは少し固そうな穀物パン。

似ているような食材がたくさんあって元の世界への親近感のような、懐かしいような感覚になった。


パンはふわふわ、とは少しかけ離れていたが手作りのような風味が口に広がり噛み締める度に味が溢れているようだった。

こんなに美味しいパン、…初めて食べたと言ってもいいくらい好きな味だ…!


「ふふ、モネ。…パン気に入ってくれたみたいだね。これは僕が焼いたんだよ」


そう言って指を差す先にはキッチンにある炊飯器のような大きさの機械だった。

生活魔法を使ってこの釜のようなものでパンも簡単に出来る、と得意げに話してくれた。


そして朝食を食べ終わるとティアの提案で近くの森を案内してくれることとなった。

ティア以外の誰かに会えば…帰れる方法やこの謎だらけの世界のヒントになるかも知れない。


なんて好奇心が勝っていて、その時はティアがあまり乗る気でないことに気付いては無かった。



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