第4話 目覚め
あれから数時間私はベッドの上ですっかりと眠ってしまったいたらしい。
少年はキッチンに立ち何かを作っているような良い匂いが部屋中に漂っていた。
窓の外はすっかり暗くなっていて…時計はないのだが今は20時ぐらいなのか、と思った。
目が覚めても夢は終わらない。
もしかして、これは夢じゃないかもしれない。
だとしたらここから早く帰らないと明日の仕事に…、と思ったけどどう帰れば良いのかもわからない。
そばに落ちていた本の文字は見たことのないような文字だった。
これは夢じゃないのかもしれない。
起き上がった私が動くとチリン、と鈴の音がした。
青いベルトのようなものと鈴が首元についていた。
「あ、…猫さん起きたんだね。おはよう、…ってもう夜だけどね。…その首輪、可愛いでしょう?部屋にあったベルトで作ってみたんだ。鈴は縫い付けたんだ、僕のお手製だよ」
首輪に気付いた私に向かってそう説明してくれた。
少年はこの数時間の間にご飯も作りベルトで首輪も作り、…なかなかの手際の良さだった。
一人暮らしの私なんてボタンをつけたりするだけで3時間ぐらいかかりそうなものなのに。
改めて少年に感心していると「ご飯にしようか、猫さんはお魚焼いたんだけど食べれる?」とまるで実家のお母さん、のような言葉をかけてくれた。
少年は楽しそうに話しながら食事をした。
久しぶりに話し相手のような心許せる存在ができたんだとか。
この美味しい魚は湖で釣ったんだとか。
私は色々質問したかったが猫語しか話せない状態だけど少年の楽しそうに話す姿を見ていると心があったかくなって居心地がよかった。
私は、…仕事ばかりでこんなに楽しく話ながら友人と食事をしたのは何年前なんだろう。
残業、食事かと思えば上司の接待、実家から離れ上京して友達も居ないまま息苦しい生活だったと思う。
今の自分からすると過去の自分が夢のような存在になっているようだった。
「そうだ、…ねえ猫さん。ずっと’猫さん’って呼ぶのは変だから名前決めないとね」
私が頷くと「何にしようか」とペラペラとそばにあった本を捲り何かアイデアを得ようとしていた。
少年は可愛らしい絵本のような表紙の本を捲り途中で手が止まる。
「これ、おばあちゃんがよく読んでくれていた本なんだ…懐かしい」
過去を思い出したのか懐かしそうにページの隅をなぞりながら目を細める。
少年はおばあちゃんっ子だったんだなぁ、…なんて思いながら同じように絵本を覗く。
綺麗な星空に棒を掲げているような絵だった。
空を飛んでいる少年のイラストで、それはよく見る’魔法使い’のようだった。
私がその本にこの世界の何かヒントがあるかもしれない、と覗き込んでいると少年は本を見せてくれる。
「これは魔法の絵本なんだ。この主人公はモネって言うんだ。…そうだ、猫さんの名前はモネでどう?」
魔法使いの絵本の主人公の少年の名前を貰ったが、悪くない。
私はうんうん、と頷くと嬉しそうに顔を明るくなる少年。
「気に入ってくれたみたいだね。本当に人間みたいな反応で面白いなぁ。…ふふ、よろしくね、モネ」
少年は改めて挨拶をしながら優しい顔で頭を撫でてくれた。
そして忘れていた、とまた私の方へ少年を向いて畏まったように座り直す。
「僕の名前はティア・ターナー。…絵本みたいではないけど、ちょっとした魔法を使えます。…あはは、威張っていうものでもないんだけど…」
聞きなれない言葉を自己紹介で耳にして驚いてしまう。
ま、魔法…?
「信じられないって顔だね。…こうやってステッキで…、ほら!どう?」
少年は驚いた私を他所目に目の前にあった木の棒のようなものを振るうと少年の人差し指の先に小さな炎が出てきた。
まるでマッチ棒のような…小さな、火種。
火の中心は紫色でぱちぱちと煌めいているようで見入ってしまうほどに不思議で綺麗だった。
そして熱そうにみえるけど少年は特に表情を歪めなかった。
その指先の火は反対の掌で握るようにすると簡単に消えてしまった。
驚いて座り込んでしまった私を見ると「驚かせちゃったかな?」と眉を下げ困った顔で駆け寄ってくる。
夢ではないこの世界、もしかして本当に’異世界’に来てしまったようだ。