第2話 出会い
私が近付くとそれは「少年」に見えるが体は私よりも数倍大きかった。
何もかも大きく見えるのはもしかすると巨人族の森にでも迷い込んだ夢なのかもしれない。
その少年は私に気付き目が合う。
青い目をした少年は目を赤く濡らしていて、涙を拭いて微笑みかけてきた。
「どうしたの?迷い猫さん?かな。首輪も無いみたいだし。…この森でこんなに綺麗なまっしろの猫さん見たの初めてだよ。嬉しいな…、ほら、おいで」
少年は物珍しそうに驚いて立ち上がると少しこちらに寄ってきてしゃがみ込み、手を差し伸べてくる。
その手はやはり大きく、私は少年の言葉から自分が人間ではないことに気付かされた。
だけどこの少年、まつげも長くて大きな二重のクリッとした瞳、その瞳の色は空のような青さのビー玉のようだった。
その輝くような瞳はいつまでも眺めていたい、そんな風に思えるようだった。
声を出して挨拶をしようとするもその喉から発された言葉は人間のものではなかった。
「にゃ、ニャァ〜…」
「あれ、寄ってこないの?怖いかな、ごめんね」
自分でパニックになっている中、少年に私が猫にしか見えないそうで少し距離をとるように遠ざかる。
「ニャ、にゃぁ…」
「あっ、ふふ…、かわいい…、嫌じゃなかったのかな…?…よしよし…」
怖い訳じゃない、と伝える為に少年にまた近付くと曇った顔はすぐに明るくなり私の頭を撫でてくれた。
少年の温かい手、夢なのにそんな感覚もあった。
…もう何十年も人に撫でられる、なんてことなかったなぁ…。
今の世界とは違いすぎる、そんな自分の現実世界は色の無い、モノクロの世界のように思い出した。
残業残業、接待、行きたくもない飲み会に参加したりして。
同級生の結婚式を何度断ったことか。
残業終わりの駅のホームで白い猫を見かけて、…助けようとして。
…あれ、ここから先は記憶がない。
その日は酒でも呑んで酔い潰れて寝て、猫の夢を見ているのかもしれない。
あらかた自分のいつもの行動なんて想像できるものだから。
夢が醒めたらもう楽しい夢は終わり、こんな夢がもっと続けば楽しいんだろうなぁ…
少年の隣に座って綺麗な空を眺めていた。
「…ねえ、猫さん。…行く当てがないなら、僕の家に来ない?」
「にゃ…?」
「僕のうちは僕一人。森の中の小さな小屋みたいな狭さだけど、子供と猫一匹なら十分生活できると思うし…。君、行く当てがなさそうで迷ってるみたいだから…。どう、かな…?」
少年の誘いに断る理由がなかった。
もう少しだけ醒めない夢を見れるなら、見たい私は少年の言葉に頷いた。
「僕みたいな、…誘いに乗ってくれてありがとう。…ずっと一人だったから、…嬉しいな」
「これからよろしく。…猫さん!」
少年のはにかむように笑って、改まったように手を差し伸べてくる。
自分のことを否定気味な少年の発言に気になりながらも私はその手にふわふわとしている自分の手を重ねた。
「じゃあ、僕の家に…帰るからついてきてね」
私は返事をするように鳴くと、前を歩く少年について歩いた。