95話 俺……俺はこれで良かったのか?
「オマエなんてキエテシマえー!」
空から強襲するギース。ジェイクはすんでのところで回避する。
「オマエオマエ……うおー!」
狂乱状態のギースは不気味の一言だ。魔力切れになってもおかしくないのに、その気配すら感じられない。
(奴は手近の魔獣で魔力を補給してるとでも言うのか?)
寄生型の召喚獣はギースを乗っ取りつつある。また、召喚獣は魔獣から何かを吸収していた。
(それに……)
それにジェイクの魔力はいよいよ残りわずかだ。少しの無駄撃ちもできない。それがこの土壇場で飛行能力を獲得したギース。厄介な事この上ない。
(降りて来い! 叩き落としてやる!)
剣を構え、カウンターの姿勢を見せるジェイク。
「ア…?」
(どうした? 降りてこないのか?)
ギースはと言うと上空に浮かんだままジェイクを見下ろしている。
「どうした!? 俺はここだ!」
「オマエ……コウゲキをサソッテるつもリカ?」
「……」
「カアー!」
ギースは飛行したまま火炎弾を撃ち出す。
「!!」
「オガー!」
火炎弾は火の雨となって地表に降り注ぐ。
(まずい!)
ジェイクは火の雨を掻い潜り、反撃の機会を伺う。だが憎らしいまでに攻撃は止む事はなかった。
「ドウダ! ニゲマワルコトしかできなイのか?」
「何とでと言え! その程度の炎では俺は倒れん!」
「……マダヘラずグチを……」
(かかって来い! このままでは…!)
「ナマイキだー! オマエなンてー!!)
「なっ!?」
ジェイクはその光景に全身の血が凍る思いがした。過去、自分の大切な人を奪った炎。それが今、ギースの手によって再び発動されようとしている。
ジェイクは迎撃のために【ファイアバースト】の構えを取るも、それを発動する事はなかった。
(ダメだ! これでは奴に競り勝てない。仮に競り勝てても、とどめを刺せるだけの魔力があるか……)
ジェイクのその判断は正しい。元々ジェイクは近接タイプの戦闘スタイルで、撃ち合いはそこまでの精度は無い。それに魔力の補給手段があると思われる相手に対し、真正面から撃ち合うのは得策ではない。
(だが……)
ギースの炎はさらに大きさを増している。仮に直撃を避けても、広範囲に被害が及ぶ事が想定される。
ジェイクは腹を括った。
「キエサレー!!」
「!!」
ギースから火炎弾が撃ち出される。ジェイクは走った。少しでも遠く。反撃の機会を作るために。
火炎弾はジェイクを追尾する様な軌道を見せる。
(あの岩陰の裏であれば!)
ジェイクは火炎弾から逃げるために走り続けた。
(あと、少し!)
ギースが新たに火炎弾を放った。上空からジェイクの行動を観察していたギースは、ジェイクの行動に予測がついていた。
「ノガサなイ」
追撃の火炎弾が、ギースが当初撃ち出した火炎弾に衝突する。それにより、火炎弾が接地するより早く、凄まじい爆発が巻き起こる。ジェイクの背後から爆熱が襲い、その衝撃で岩壁に叩きつけられる。
「がはっ!」
流血し、その手からも剣が滑り落ちる。
「アハー♪」
ギースはそれを醜悪な表情で見下ろす。
「ヒャーッハハハハ! ザンネンだっタナ。」
剣に炎を纏わせるギース。直接その手にかける腹づもりの様だ。
一方のジェイクは地面に横たわったままだ。
「オワリダ。シネエー!!」
急降下するギースはジェイクの首を狙っていた。ギースが何故剣でとどめを刺そうとしたのかは分からない。だが、この事が戦いに大きな影響を及ぼす結果となる。
「ヘレナー!」
ジェイクの目に闘志が宿る。
「力を貸してくれー!」
そう叫んだかと思うと、ジェイクの背中に魔力の羽が浮かび上がった。
「!?」
剣を拾い上げ、猛スピードでギースの背面を取る。
「これで終わりにする!」
ジェイクは【フレイムプライド】を発動した。正真正銘、最後の切り札。渦巻く炎を纏い、ギースに斬りかかる。
「はあぁー!」
ギースの翼を切り裂く。
「ナンダそれは!?」
ジェイクそれに答えず、切り落としたギースの翼を滅却した。
「ナンダッてンダー!?」
上空に逃げるギース。
「逃がさん!」
ジェイクは羽で空気を捉え、高々とジャンプする。
「ナ!? オマ…」
「はっ!」
ジェイクの一閃がギースを両断する。
「オマエ、ユルサン!」
ギースはジェイクに触手を伸ばす。
「その手はくわん! はっ!」
触手に対し、自らの炎を鎧として対抗するジェイク。背中に生えた羽から風属性の助力を受け、ますます炎は昂る。ジェイクの炎の高まりはとどまることを知らない様だ。
「ナ! ナニ!?」
「……」
ジェイクは業火を纏う剣でギースをさらに斬りつけ、地面に叩き落とす。
(な! 右手が…!)
見ればジェイクの右手は赤熱化していた。あまりにも高めた炎の代償に、ジェイクの体も限界が近づいていた。
「うおおおー!」
「ヤメロー!」
ジェイクは斬り落としたギースの半身を次々と滅却する。すでに勝敗は決していた。
「ワルカッタ! ナア? オマエトオレノナカダロ? タスケテクレ!」
ギースは虫の息だ。ジェイクの業火の前に、触手を伸ばして他の魔獣から魔力補給や回復することもできない。
「……」
「コノトオリダ! オマエダッテ…」
ジェイクはギースに剣を真っ直ぐ突き立てた。
「貴様は他の者の命乞いを聞いてはいなかった。」
ギースからの反応は無い。
「何故なんだー!」
ジェイクの業火が嵐となり、周囲をも焼き尽くす。ギースは断末魔を上げる事もなく滅した。
「何故……なんだ」
ジェイクの頬に涙が伝う。
「ヘレナ……みんな……終わったよ」
その身に纏う炎は消えていた。背中の羽も消えていた。
「俺……俺はこれで良かったのか?」
空の景色が滲む。
「俺は……」
「ジェイクさーん」
遠くからジェイクを呼ぶ声が聞こえる。
(ヒッカか?)
ヒッカとライクの姿、ラッフェルとその背にはフィリーもいる。皆、手を振りながらこちらに走ってくる。
(どうして?)
「終わったんですよね? さっき大きな爆発が聞こえて、それでこっちに向かって来ましたー!」
(なるほど、そう言う事か。そうか)
ジェイクの頬が緩む。
(これで終わったんだな……)
ジェイクの左手から盾が落ちる。
「ああ! 終わったさ!」
剣を掲げ、ヒッカたちに答えるジェイク。だが、掲げたはずの剣は手から滑り落ち、地面に突き刺さった。
「ジェイクさん?」
違和感に気づいたのはヒッカだった。
ジェイクの目からは生気が消え掛かっている。
「!!」
ヒッカは咄嗟に【エアライド】で飛び出し、倒れるジェイクを受け止めた。
「ジェイクさん! ジェイクさん!」
「師匠早いっスよ〜。」
ラッフェルたちが追いついてきた。ヒッカは沈痛な面持ちだ。
「ジェイクさん、疲れてたんスかね?」
先についていたライクは静かに首を振った。
「そんな……酷い……」
フィリーは気づいたようだ。
「どした? 師匠、何かあったん……うわぁ!」
ジェイクの容体は重篤なものだった。おびただしい傷に火傷、目につくところでは右手も一部炭化している箇所がある。そして先ほどまで盾を装備していたはずの左腕も無かった。
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