92話 俺には力こそ全てなんだ!!
「ぐっ! クソが!」
爆炎を纏うジェイクの猛攻は激しさを増し、ジェイクの一閃がギースの剣を弾き飛ばす。
「!?」
壁際に追い込まれ、逃げることもままならないギース。ジェイクの胸中にこれまでの思いがよぎる。
(…終わらせる!)
「させるか!」
「何!?」
いつの間にかギースがその手に槍を携えている。そしてその先端はジェイクの腹部の鎧を貫いていた。
「ぐっ!」
思わず後退するジェイク。
(なっ、バカな!?)
「お生憎様♪」
「き、貴様。それは?」
ギースの姿を見てジェイクは全てを理解した。
「これか? いいだろ? 俺も気に入っているんだ」
その手に握られた槍が形を変え、ギースの鎧へと戻っていく。嫌な予感を拭えなかった原因はこれだったのだ。ギースに寄生していた召喚獣が見えなかったのではない。鎧と剣の形になっていただけなのだ。見れば、ジェイクとの戦闘で傷付いた箇所も、いつの間にか修復されている。
「俺、分かったんだ」
ギースが剣を拾い上げる。
「自分の力だけで手に入れられないものを簡単に手に入れる奴がいる。俺が努力した結果を軽く超える奴がいる。そんなのおかしいだろ?」
「……」
「そしてそんな奴は周りからどんどん力を与えられ、益々力をつける。」
「何が言いたい?」
「答えはシンプルだ。理解されないのであれば、分からせてやる。俺が手に入れてやる」
ギースの剣が一回り大きくなる。
「おうおう。さすが元聖騎士団団長様だ。この反応、いいじゃねぇか」
(まさか? あの召喚獣は人の血で成長を遂げると言うのか!?)
「あの時は本当に幸運だった。俺は初めて神の存在を信じたよ。あんなに欲しかった力が、今の俺にはある」
「…力だけを求めることなど、虚しい事だ。それに何故気づかん?」
「何とでも言え。俺はもうあの頃の俺ではない。もっと力を得て俺の力を認めさせてやる! そのためなら俺は何だってやる!」
「貴様…! そんな事でどれだけの罪の無い人を殺めたと言うんだ!」
「そんな事…だと?」
「ああ。」
「俺には!」
ギースの大剣がジェイクを襲う。ジェイクは両手で剣を構え、受け止める。
(重い…!)
「俺には力こそ全てなんだ!!」
「がぁ!」
吹き荒れる炎。弾き飛ばされるジェイク。
「お前にだけは、お前にだけは……!」
「……」
ギースの炎は燃え盛っている。
「お前には分からねーよ!!」
「ああ! 分からないさ!」
二人の剣が交差する。
「分かってたまるかー!」
「俺は貴様ではない! 人が他人の気持ちを完全に理解することは不可能だ! それを貴様は!」
「うる…せー!」
両者が繰り出す炎は周囲を焼き尽くす勢いだ。先に魔力が尽きた方が敗者となる。それは果たして……
「はぁはぁ」
ジェイクが肩で呼吸をし始めている。
(さすがにキツイ。何とか切り崩さないと)
他方、それはギースも同様だった。
(どこまでもしぶとい奴だ。このままじゃ埒があかない。くそっ!)
この硬直した打ち合いを打破したのは、以外にもギースの方だった。手に待つ剣を一回り小さなサイズにする。
(何をしている?)
「うらぁああああ!」
剣が小振りになった分軽くなり、剣を振るう勢いが増した。無論、一撃の重さは軽くはなる。が、それを魔力の上乗せでカバーしている。
(馬鹿な!?)
ジェイクの剣は大型に改修されているが故に重く、スピード面で遅れをとってしまう。
(一撃だ! 一撃だけでも入れられれば…!)
「どうした? どうした?」
(ま、ずい…!)
今度はジェイクが壁際へ追い込まれつつある。それは、ギースが剣を大仰に構えた時だった。ジェイクは咄嗟に剣で受ける構えを取る。
「そこだ!!」
ギースの右手にあるガントレットが変形し、まるで細長い槍のような形になった。かと思うと、それはジェイクの左腕を貫通し、壁面までめり込んだ。
「ぐっ!!」
「ひゃははは! ざまぁねえな!」
壁に磔にされるジェイク。
「……」
「怖いねえ。ええ?」
「言いたい事はそれだけか!?」
「おうおう。随分余裕ぶっちゃって。その減らず口がいつまで続くかな?」
圧倒的優位にたつギースがジェイクを挑発する。それとは対照的に、ジェイクはどこまでも冷静だった。
「……」
「楽しかったお前との遊びもそろそろ終わりとするか。あばよ!」
「…!」
刹那、ジェイクの剣が激しく燃え盛る。
「!!??」
今度はギースが混乱する番だった。ジェイクは両手にしっかりと剣を携えている。
「何!?」
爆炎を激らせるその一撃。ギースは剣で防ごうとしたものの、受け止める事はできなかった。剣は折れ、髪の毛が焦げる。
「おおおおー!!」
ジェイクの剣はギースの肩鎧を破壊した。が、立ち昇る炎が消える。
「魔力切れか? なら俺の……」
目を伏せていたジェイク。
(ヘレナ……みんな……)
ジェイクの奥底から再び魔力が湧き上がる。
「おおお!!」
「うぎゃー!」
その魔力は剣にさらなる力を与え、ギースを斬り伏せた。世界がスローモーションになるかのように、ゆっくりと地面に倒れ込む。
「はっはっ」
時折、苦しそうな呼吸をするギース。
「はぁはぁ」
ジェイクは体を使って呼吸している。自己強化魔法も解除されている事から、まさに限界を超えての一撃だったのだろう。
「くそぅ……」
弱々しい声のギース。
「何故? 俺が?」
「はぁはぁ」
「俺はこんなところで終わりたくない。死にたくない」
「貴様、この期に及んで何を言う」
「な…に?」
「報いを…受ける…時が来たのだ」
辺りはおびただしい血の池となっていた。ギースの命が尽きるのは、もはや時間の問題だろう。
「ふは…はは…は。笑え…ねぇ」
「あの世で罪を償うんだな」
「……」
やがてギースは静かになった。
(これで終わった。ここまで、長かった……)
その場に倒れ込むジェイク。空はどこまでも穏やかだった。
「ジェイクさーん!」
(ん?)
見上げればヒッカたちがジェイクに手を振っている。
(無事だったんだな。さすがだな。)
「ジェイクさーん!!」
(聞こえてるさ。俺も疲れてるんだ。少しは休ませてくれ)
そう思いながらも手を振った。
「ん?」
ジェイクはヒッカたちの表情に違和感を覚えた。皆、一様に驚きとも不安とも取れる表情をしている。
(何だ?)
ライク、ラッフェル、フィリーが地面に飛び降りる。ヒッカはと言うと、魔力を集中させ、【ガストバースト】の発射態勢をとっている。
「ジェイクさーん! 逃げて欲しいっスー!」
パーティー内で随一の声の大きさを誇るラッフェルが叫ぶ。そして、ジェイクはその言葉の意味を知ることになる。
何と、倒れたはずのギースが立ち上がっていた。
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