68話 何かいるんですか?
「明日は何しよっか?」
寝室でライクはフィリーに尋ねた。
「どうしましょう?悩んじゃいますね。」
「だよね。ここ最近忙しかったからゆっくり羽を伸ばしたいな。町をじっくり見て回る?」
「いいですね。」
「じゃあ決まりね。どこ行こっか。」
どうやら二人は明日の外出先の相談をしているようだ。
「お兄ちゃんたちは明日はギルドに行くみたいですよ。本当に戦いのことばっかでもう!怪我の面倒を見るこっちの身にもなってほしいです。」
「あはは。言えてる。」
「きっと明日も魔獣討伐か何かに行って、『フィリー回復を頼む!ちょっとドジった!』なんて言うのが目に見えてます。」
プリプリとした表情のフィリー。だが、本心から怒っているわけではなさそうだ。
ライクが一つ、あくびをした。
「そろそろ寝よっか。ちょっと疲れちゃった。」
「私もです。」
そう言ってフィリーは毛布にくるまった。柔らかい暖かさに包み込まれる。
頑張った一日の終わりに訪れる夢見心地の時間だ。
翌日、ライクは少し早めに目が覚めた。少し朝寝坊しようとしていたものの、何故か目はパッチリ冴えている。
隣のフィリーの様子を見る。フィリーはまだ夢の中のようだ。
ベッドの上で転がる。
(眠れない。)
今日は何をしようかな?と考えてはみるものの、夢見心地のフィリーを起こすのは気が引ける。
ライクはふう、ため息をつき魔導書に手を伸ばす。結局、フィリーを起こすことをやめたのはいいものの、手持ち無沙汰であるためだ。
(えっと…、基礎のページは…?)
ライクはパラパラとページをめくった。
「…ライクさん起きてるんですか?」
フィリーが寝ぼけ眼をこすり、ライクに声をかけた。
「ごめんね。起こしちゃった?」
コクリと頷くフィリーに対して、ライクは申し訳なさそうに続けた。
「何だか目が覚めちゃって。それでね。私も回復魔法を使えるようになったからさ。レベルアップしようかなって思って。」
「なるほどぉ。」
返事はするものの、やっぱりフィリーは眠そうだ。
「もう少し寝ます…。」
フィリーはそう呟くやいなや、毛布にくるまった。
(寝ちゃった。)
ライクは再び魔導書に目を落とし始めた。
それからしばらくして、朝食すませた二人は町に出た。特にこれと言って目的はない。
「ん〜。今日もいい天気だね。」
「はい。心まで晴れやかになりますね。」
二人の足取りはどこまでも軽やかだった。
「あ…。」
「あ!ヒッカくんとラッフェルくんだね。やっぱり思ったとおり、二人は魔獣討伐なんだね。」
「そうみたいですね。それにジェイクさんもギルドに入って行ったみたいですよ。」
「あはは。あの三人は思ったとおりだね。またボロボロになって来るかもしれないからしっかり回復してあげよっか。」
「ボロボロになるのはお兄ちゃんだけで十分ですよ。」
フィリーはやや棘のある言い方をした。
「言えてる。」
二人は笑い合いながら町の散策を続けた。
「こうしてゆっくり見てると本当に色んなものがあるのねぇ。」
「見てて飽きないですよね♪」
二人は町の中心を縫うように店巡りをした。
スイーツを頬張るライクは、とあることを思った。
「思ったんだけどさ。」
「はい。」
「おっきいサイと戦った時さ、私たちジェイクさんやラッフェルくんに近づけなかったじゃない?だから、回復薬を買っておくのはどうかな?前衛の二人分くらいはあってもいいと思うんだ。」
「なるほど。非常用に、ってことですね。確かに私たちの魔法は遠距離回復はできないのでいいかもしれませんね。」
「でしょ?なら決まり!さっそく探そ!」
「分かりました!」
口の周りが砂糖だらけのフィリーも賛成した。
「ポーションかい?それなら売り切れだねぇ。」
「そうですか…。残念だね、フィリーちゃん。他のところを探そっか。」
店を出ようとしたところ、店の老婆が声をかける。
「あんたらポーションが欲しいのかい?」
「?」
「そうですけど?」
「それなら他の店も売り切れだよ。ここ最近急にポーションを買うお客が増えてね。」
「そうなんですか…。」
(それって炎の魔獣退治で怪我してる人が多いってことかな?)
「それに材料の水を仕入れてくる商人も怪我しちまってさ。作りたくても作れないのさ。」
「水なら町の外にある川からじゃダメなんですか?」
はぁ、と店の老婆はため息をついた。
「ポーションを作るにはマナの加護を受けた水が必要なんだ。この町の川は周りに人工物が多くて駄目だ。森の奥地で自然の恵みを受けた水じゃないと粗悪品になっちまう。」
「そう、なんですか。」
「そうだよ。こっちは商売あがったりさ。」
「その水、私たちが汲んできたらポーション作ってくれますか?」
「何を。さっきも言ったろう。森の奥地にある水源からでないと駄目なのさ。最近は物騒な魔獣も出てきてるから遊び半分では無理じゃよ。」
「私たちなら大丈夫です!これでも二人とも冒険者なんですよ。ほら。」
二人は冒険者ライセンスを見せた。老婆を目を丸くしている。
「こりゃ驚いた。それじゃあ、頼まれてくれるかい?」
「もちろん!」
森の中を二頭の馬が走り抜ける。
「あ!あった!これじゃない?」
「これみたいですね。思ったより簡単に見つかりましたね。」
ここは森の奥地にある泉だ。老婆の言うとおり、周りは豊富なマナに溢れている。水源はどことなく輝いて見えた。
「ん!美味しい!」
水を口に含んだライクが感嘆の声をあげた。それはフィリーも同様の感想だった。
「昨日のうちにあの魔獣をやっつけてて良かったですね。安心して水が汲めます。」
「そうね。これで…。」
ライクは不意に水を汲む手を止めた。
「ライクさん?どうしました?」
「え!?ああ。ごめんね。ちょっと気になる感じがして。」
その言葉に不安を覚えたフィリーは周囲を注意深く観察した。
…あたりには魔獣の気配はない。
「何かいるんですか?」
おっかなびっくりでフィリーはライクに聞いてみた。
「…。」
「ライクさん!?」
「ごめん。気のせいかも。でも気になるからやっぱり早く帰ろう。」
「はい!」
二人は急いで水を汲み、町へ馬を走らせた。
その泉の周辺には魔獣や怪しい気配はなかった。どこまでも静かな泉だった。
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