66話 お互い、もっと強くなろうぜ
「いてて…。」
まだそんなに痛むのか?
「そうなんスよ。ちょっとドジりました。」
「ちょっと見せて。」
ラッフェルが装備を外す。相変わらず痣だらけだ。
「これはちょっとひどいな。一体何をしたんだよ?」
「っへへ。フィリーにキングライノスが向かっててそれを止めるために突撃したんスよ。そしたら逆に体当たりぶちかまされたんス。」
「ラッフェル、なんて無茶を…。」
ヒッカはラッフェルの無謀な行動を窘めようとしたが、その言葉を飲みこんだ。確かに今回のラッフェルの行動は無茶である。たまたまヒッカが間に合ったから良かったものの、一歩間違えればラッフェルはただでは済まなかったはずだ。
ただ…。
「本来はライノス種一体を討伐する依頼だけを受けていたんだ。二体目が出てきたのは想定外だ。お前がきてくれてなかったら危なかった。」
ヒュージアル都市への帰路、ジェイクはそう語っていた。
(あのジェイクさんが言うくらいだから、それなりに危ない状況だったんだろう。)
確かに無茶な行動ではあるが、何が何でもフィリーたちを守るための行動だったのだ。つまり、『フィリーを守る』と言う自らの信念に従ったが故の行動で時間を稼ぎ、結果としてフィリーたちを守ったのだ。僅かな時間ではあったかもしれないが、その時間稼ぎが無ければヒッカが間に合ったかどうかは分からない。
「ラッフェル。」
「っス。」
「無茶な行動だったけど、ちゃんとフィリー守れたな。」
「ん?んん?」
「ラッフェルの時間稼ぎが無ければ、俺が間に合ってたかは分からない。よくやったな。」
「ああ!そうっスね。もう体が勝手に動いてたんス!師匠が来てくれて本当に良かったっス。」
「お互い、もっと強くなろうぜ。」
「っス!」
「まずはその怪我だな。ちょっと見せて。」
ヒッカはラッフェルの痣に手を当てた。
「少し痛いかもしれないけど…我慢して欲しい。」
「了解っス!」
「じゃあ、行くよ。」
ヒッカは静かに魔力を高め、その手に魔力を集中させた。
「…。」
「【キュアブリーズ】」
「…!」
ヒッカの放つ風魔法が優しい風を運んでくる。ラッフェルは不思議と力が湧いてくる気がした。
「…どう?何か変化はあった?」
「ちょっと楽になったっス!あ!アザがちょっと薄くなってるっス!」
「良かった。じゃあ続けていくよ。」
「お願いしまっス!」
そしてヒッカは二度、同じ魔法を発動した。ラッフェルの体の痣はかなり回復した状態だ。
「師匠!ありじゃす!その魔法は一体何なんスか!?」
「これは自己治癒魔法だ。」
「治癒魔法…っスか?」
「ああ。自己治癒能力を活性化して、病気を早く治したりする魔法だ。副次的な効果として自己治癒能力を強化させる関係で、傷なんかも治す回復魔法の効果もある。」
「すごい魔法っスね!さすが師匠!」
「まあね。ただこれは『自己治癒魔法』と言うだけあって、基本は俺自身にしか使えないんだ。」
「え?でも今、俺も回復したっスよ?」
「そうだ。それはこうして直接手を触れていたからだ。」
ヒッカはラッフェルの肩に手を置いた。
「こうすることで自己治癒強化の魔法をラッフェル側にも効くようにしたんだ。」
「なるほど〜。そんなこともできるんスね。」
「ものは試しだけどね。昔、弟の怪我をこうやって治したことが記憶があってね。それで試したのさ。」
「すごいっス!これでパーティー内に回復魔法を使える人が三人もいるってことになるんスね!」
「それはどうかな。」
「何でなんスか?」
「二つ理由がある。一つはさっきのとおり、有効距離が極めて短いことだ。ほら、直接手に触れないといけないだろ?戦闘中にここまで接近するのは中々タイミングが難しい。」
「ふむふむ。」
「それにこれはさっきので分かったんだけど、他者に対しては思ったほど効果が高くないことかな。三回もかけてようやく回復しただろ?俺の自己治癒強化を半分渡してるようなものだから魔力消費量と効果が釣り合ってない。ただこれは俺がまだその使い方に慣れてないだけなのかもしれない。」
「なるほどっスね。」
ヒッカの答えに、ラッフェルは納得した様子だった。
次の日、ヒッカはいつもどおりの時間に目を覚ました。
(…まあ、寝てるよな。)
ラッフェルはいつもの様に寝入っている。激しい戦いの後だ。無理もない。少し休ませてやりたいところではあるが、ヒッカは心を鬼にした。
「朝だぞ、ラッフェル。起きるんだ。」
毛布を剥がし、ラッフェルの体を揺さぶる。
「ん、んん…。もう少し…。」
「今日は一日俺と特訓するんじゃなかったのか?」
「…。そうっスね。起きるっス。」
半目状態のラッフェル。まだ眠そうだ。
「起きたか?じゃ、まずは軽くウォーミングアップだ。」
ヒッカは部屋の中で魔力圧縮比を高める特訓を開始した。
「思ったより人が多いなぁ。」
ラッフェルと共にギルドに着いたヒッカの感想だ。
「っスね。それで今日は何をするんスか?」
「今日は特訓だな。」
「特訓?」
「そう。ラッフェルメインでハントしてもらうぞ。依頼を探しに行こう。」
「了解っス!」
二人で依頼書を確認する。
ヒッカの目に止まったのは、Dランクのゴブリン討伐のものだった。
「ゴブリン相手っスか?」
「ああ、一人ではあまり戦った相手ではないだろ?」
「そうっスね。でも師匠がいるから負ける気はしないっス。」
「先に言っておくけど、今回は基本俺は手を出さないぜ。危なくなったら俺が手を貸すけど、一人で切り抜ける様に意識して欲しい。」
「それが特訓なんスよね?了解っス!」
「よし、では早速行こうか。ん?ジェイクさん、おはようございます。」
ギルドから出ようとしたところ、ジェイクとすれ違った。
「ああ、おはよう。もう行くのか?気をつけてな。」
それだけ言うとジェイクはギルドの奥に消えていった。
「ジェイクさんもギルドに来たんスね。何をするんスかね?」
「情報収集じゃないかな?多分?」
「情報収集っスか。何についてなんスかね?」
「気になるなら明日にでも聞けばいいさ。それよりも、俺たちは俺たちの目的を果たすぞ。」
「そうっした!」
「おいおい、忘れるなよ。」
そう言いながらヒッカはラッフェルの手を引き、空に舞い上がった。
「うりゃー!」
ゴブリンの群れと会敵したラッフェルは、ヒッカの言いつけどおり孤軍奮闘していた。
(…。)
「キィ!」
「キャシャシャシャ。」
ゴブリンが威嚇しながらラッフェルを取り囲む。
(…焦らず落ち着け。確か、まずは数を減らすんスよね?)
チラリとヒッカを方向を見る。ヒッカはまるで「そうだ。」とでも言いたげに頷いた。
先ほどの一撃でゴブリンを一体仕留めた。残りは五体だ。
「【ファイアボール】!」
ラッフェルは攻撃の手を緩めなかった。【ファイアボール】を連発する。死角からの攻撃を減らすためにゴブリンを散らすと言う考え方だ。
「全力で行くっスー!」
手早く回り込み二体目のゴブリンもラッフェルの一撃の元に切り伏せる。
「お次はどこっスか!?」
ラッフェルの目の前のゴブリンが威嚇した。
「そこっスねー!」
全力で突撃し、三体目も容易く打ち倒した。
「次は…!?」
ラッフェルが後ろを振り返ろうとしたしたところ、四体目のゴブリンが襲ってきた!
「うわっ!」
咄嗟にフレイムソードで攻撃を受けるも、大きく態勢を崩した。『待ってました』と言わんばかりに五体目と六体目のゴブリンが現れ、攻勢を仕掛ける。
「くっ!くそ!」
三体の攻撃を一本の剣だけで受け切ることは難しく、棍棒の連打を受けてしまう。
「…。」
「痛いじゃないかー!」
攻撃の隙をつき、ラッフェルは的確に一体ずつ仕留めた。多少の怪我はしているものの、昨日に比べれば軽傷だった。
「すごいなラッフェル。纏う魔力量も前に比べてかなり安定してきたし、要所でのコントロールも上手くなってる。」
「へへっ。俺なりにも頑張ってるんスよ。」
そう胸を張るラッフェルにヒッカは頼もしさを覚えた。
ここまでお目通しいただきありがとうございます!
ちょっとでもいいなと思ったら、ブックマーク登録や評価ポチっといただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします!




