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54話 お前の魔法を見せてもらいたい

風が運んできた森の匂いでヒッカは我に返った。

「しまった。こんなことをしてる場合じゃない。」

思いの外、長時間の探索だった。ヒッカはディムシースの町へ急いで戻った。



「はいよ。大事に使っておくれよ。」

「ありがとう。大事に使います。」

ヒッカは当初目的のディムデルの木材を入手した。

(無事に買えて良かった。言われていた分はこれで足りるよな。)

木材で膨らんだ袋を抱え、ヒッカはそのままジェイクたちに向かって合流することにした。

町を走り抜け、全力疾走のままに空に飛翔する。

「いやっほー!」

大きく弧を描くように曲芸飛行する。気分が絶好調な時のヒッカの癖だ。




その頃、ジェイクたちはサイドリャルに向けて移動中だった。

「…。」

変わらず難しい顔をしているジェイク。一方のラッフェルは自己強化魔法の連続発動を特訓している。

「…!」

不意に何かに気づいたラッフェル。ジェイクは身動き一つとっていないが、視線だけ動かしている。

「…。」

「ジェイクさん、行ってくるっス。」

「ああ。」

馬車から降り立ち、現れたウルフ種たちの眼前に立ちはだかる。抜剣したフレイムソードは静かに炎を灯した。

「どりゃあー!」

一撃の元に、一体を切り伏せた。続くもう一体は【ファイアボール】を連続で発動し、牽制する。

「ギャウ!」

一発命中するものの致命傷には至らなかった。が、ラッフェルはその隙を見逃さなかった。

「うりゃー!」

フレイムソードの纏う炎が一回り大きくなったかと思うと、二体目のウルフ種も難なく両断されていた。

「よっしゃー!!」

ラッフェルの雄叫びは中々うるさい。



「へへ。本日追加で二体、いっちょあがり!っス!」

「よくやった。そのまま自己強化魔法だけは続けておけ。」

「っス!」

「ラッフェルくん、自己強化魔法の維持も伸びてきた気がするね。」

「っス!ですよね。自分でもそうじゃないかなって思ってたんス!」

「前衛はまずタフでなくては務まらないからな。お前は元々スタミナもあるタイプだ。もっと強くなるだろう。」

「ありじゃす!ジェイクさんにもそう言われると照れるっス。」

「俺は事実を言っただけだ。それに強くなると言ってもお前は駆け出しの冒険者だ。まだまだ強くなってもらわなくては困る。」

それを聞いていたフィリーが手を止め、ラッフェルに声をかける。

「お兄ちゃん、一緒にがんばろ!魔力が尽きたら【ヒーリングミスト】で回復してあげるね。」

フィリーは魔力圧縮比を高める練習をしていたようだ。

人が魔法を発動する時、魔力をマナに変換して自然現象に干渉する。この時の変換効率が高ければ高いほど、魔力の消耗を抑えることができる。特にフィリーは範囲や効果が大きい魔法を扱うため、魔力消費を軽減するための練習は急務だ。無論、ライクも同様の練習をしている。

(ヒッカくん、無事に辿り着けたのかな?無事に帰ってきてね。)

ライクはヒッカの無事を祈りつつ、魔力を集中させた。




一方のヒッカはと言うと、全力で空を飛び続けていた。

(遠いな。さすがに今日中にサイドリャルに着くのは厳しいかな…。)

イベルンテの町からディムサリーの町に来た時は、明け方に出発して夜前に着いたくらいの距離だ。ディムサリーの町を発つ時は、開店直後の店でディムデルの木材を調達してすぐだった。それでも行きに比べて、数時間のロスとなっている。

(この辺りは確か、町は無かったはずだ。今日は大人しく野宿するかな。)

ヒッカは休憩ポイントを探していた。地図や正確な位置を確認したいし、何よりお腹が空いてきた。

(あの辺りが良いかな。)

川が流れる場所に降り立ったヒッカは、軽装になり川に入った。川の流れは冷たいが気持ちが良い。身が締まる思いだ。

川の水で口を潤したヒッカは、得意の【サイクロン】で川の魚を打ち上げた。

「よし!大量だ。」

魚をテキパキと処理する。この手の技は父グランから叩き込まれていた。もっとも、魚を獲るためには釣り道具を使っていたのだが。風魔法を使って、強引に魚を川の水と一緒に打ち上げてさらに魚だけ回収するのはヒッカオリジナルの方法だ。

「おいし!やっぱり獲れたては違うな。」

お腹が膨れると少し眠気が襲ってきた。

(ちょっと…張り切りすぎたかな。少し休もう。えっと…。)

ヒッカは近くの大木に登り、目を瞑った。風が頬を撫でる。サラサラと葉っぱが揺れる音を奏でる。

(少しだけ…寝よう。)

ヒッカの意識はそのまま薄れていった。



不意に水しぶきの音がする。

(ん?)

ヒッカは薄く目を開けて周りを見る。起き掛けのまま、水しぶきの方向に目を向けた。


ヒッカと同じ黒髪の人影が見える。その腰まで伸びる艶やかな髪は水に濡れ、昼過ぎの太陽の光に照らされている。そして髪から覗く白い肩、ヒッカは思わず言葉を失っていた。

「綺麗な人だ…。」

その黒髪の人物がゆっくりとヒッカの方に目を向けた。

「うわぁ!!」

思わず目が合った瞬間、ヒッカは大木の枝から落ちてしまった。

「誰かそこに居るのか!?」

男性の低い声がする。




「なるほど。話は分かった。こちらにも落ち度はあったが…本当に何も見ていないんだな?」

「はい。後ろ姿だけです!キラキラ光ってて綺麗だなって思ってました。ただそれだけです!」

「ふー。」

深いため息をつく相手にヒッカは少し身構えた。短髪の男はヒッカより少し年上だろうか。

「お前が嘘をついているようには見えないが、次からは気をつけろよ。」

「は、はい。」

「…。」

「ん?そうか。分かった。おい。もう良いってよ。」

「え?それってどう言うことですか?」

「どうもこうもあるか。これで話は終わりだってことだ。」

「そうですか。では俺はこれで…。」

「…。」

「ちょっと待ってくれ。道を尋ねたいんだが良いか?」

「道、ですか?」



「なるほど。あの山の方に向かえば良いんだな。」

「はい。距離があるのでお気をつけて。」

「ああ!ありがとな。言い忘れてたが、俺はイオリってんだ。で、こっちはチヨ、俺の許嫁だ。よろしくな。」

「…。」

「チヨもよろしくって言ってるぜ。」

チヨと呼ばれる小柄の女性の声はほとんど聞こえない。隣に座っているイオリが代わりにチヨの意思を伝えている。

「俺はヒッカ=ロイルです。フレアランドからここにはお使いの途中で来ました。」

「なるほど。まだ若いのに難儀なことだな。フレアランドもここから遠いだろ?もしかしてお仲間とはぐれたのか?」

「いえ、今は俺一人です。仲間はここから南東にあるサイドリャルに向かってるので、この後合流するんですよ。」

「それはまた大変だなぁ。ところでさっきから気になってるんだが、何で軽装なんだ?まだ数日かかるだろ。最近物騒だぞ。不用心じゃないか?」

イオリは矢継ぎ早に質問をしてくる。だがヒッカもイオリに聞きたいことがあった。

「俺、移動用の魔法が使えるので距離はそんなに苦じゃないんですよね。」

ヒッカは何となく、自分が風属性使いだと言うことをぼかして答えた。

「…。」

「…分かった。お前を男と見込んで頼みがある!」

イオリは地面を頭突きで割るんじゃないかと言う勢いで頭を下げた。

「え?急にどうしてんですか?それに頼みって…。」

「お前の魔法を見せてもらいたい。」

イオリはヒッカを真っ直ぐに見つめて、ポツリポツリと話し始めた。


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