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35. 交代要員

 兵士たちが来て二週間が経過した。ほぼ宿舎も完成間近というところ。

 また馬車と馬がやってきて、兵士が降りてきた。


「なんだろう、増員かな。もっと増えるの、マジで」

「さあ」

「どうだろうにゃあ」

「兵士さんたくさん、です」


 俺たちの感想はそこそこにして、兵士がやってきた。


「兵士さん何用ですか?」


 一応、村長の息子として、第一報ぐらいは俺が知らせてやろう。野次馬根性ともいう。


「俺たちは交代要員だよ」

「ああ、交代するんですね」

「そうだよ。それに食料の量もそこまでないしな」

「確かにそうですね」


 ご飯が別々だったから気がつかなかったけど、確かに食料をそんなずっと足りるほど持ってきていないだろう。


 しばらく引き継ぎの作業をした後、その日のうちに来た馬車でそのまま帰るようだ。

 アンダーソンも交代らしい。


「君たち、寂しくなるな。俺は戻らなければならないんだ」

「そうですね」

「ばいばい、アンダーソンにゃ」

「さようなら、です」


 みんな握手をしてお別れした。


 アンダーソン騎士の手にはヨーヨーが握られている。

 それを三回、びゅーんってやって、にっこり笑うと、手を振って馬車に乗り込んだ。


 アンダーソン騎士はいいやつだったよ。

 交代で来たやつはどんなかな。


 実はもうすでに見てしまったので、今からげんなりしている。

 一応、騎士らしいんだけど、なんか中年デブなのだ。


「アンダーソン君も行ってしまったし。ワシは暇だな」


 とか言っていた。名前はヘルベルグ・ブルレリア騎士。彼も騎士爵だ。

 なんか憂愁漂っていて、左遷されてきた感じ満々なのだ。


「ほら、子供はあっち行って遊んでなさい。兵士の仕事の邪魔はするなよ」


 どうやら俺たち村の子供と遊ぶような心の広さはないようだ。

 やれやれ、先が思いやられるな。


「なんでワシがテント暮らしなんか」


 そう、まだ宿舎は未完成なのだ。

 そして交代要員の士気は低い。当分、テント暮らしかもね。あはは。


「そうだそこの君」


 君とは俺だ。


「なんでしょう。騎士様」

「そうだそうだ。ワシだけ家に泊めなさい」

「はあ、前の騎士様はちゃんと兵士と一緒にテント暮らしでも、嫌な顔一つしないイケメンでしたよ」

「なにがイケメンだ。上司の顔色(うかが)いしかできない小僧だろう、あれは」


 どうやら俺とは意見が合いそうにないな。まあこういう嫌なこともたまにはあるんだろう。しょうがないなあ。


 ということで、ヘルベルグ騎士様もうちで泊めることになった。はやく宿舎完成してほしい。


 俺がコーヒーを独り楽しんでいると、ヘルベルグ騎士も興味を示してきた。


「おい、坊主」

「なんでしょう、騎士様」

「それ、コーヒーではないかね」

「そうですけど、なんですか」

「こんな田舎のガキが、コーヒー、それにそっちは砂糖ではないか」

「そうですけど、なにか?」

「ワシにも、飲ませなさい」

「いいですよ。ただし、料金は適正価格、いただきますよ。安くはないので」

「むむ。まあ、確かに。しかたがない、代金は払う」


 正直なところ、お金より俺のコーヒーが減るほうが問題だけど、騎士様に文句も言えるはずもない。


「前払いです」

「ぐぬぬ。ワシを信用していないと」

「そりゃあ、今日会ったばかりの新任を信用なんてしませんよ。信用してても、いや、信用しているからこそ、先払いでお願いしたいですね」

「なるほど。一理ある。親しき仲にも礼儀ありというしな」

「そうですね」


 こうして代金を先にもらって、コーヒーを飲ませてやる。


「ふむ、これがコーヒーか、いい匂いだ。それにうまい」

「あれ、飲んだことないんですか?」

「むむ。いや、飲んだことはあるぞ?」

「でもこれがコーヒーかって」

「まあ、いいではないか」


 なるほど、飲んだことない貧乏騎士だけど、恥ずかしいから自分からは言えないってやつですね。

 気を遣うのもけっこう面倒くさいな。でも、顔は幸せそうだ。


「コーヒーというものは、何というか。素晴らしいな」


 このおじさん。実は悪い人ではないのかもしれない。どっちかというと平和ボケというか、能天気で、それで出世できないタイプなんだと思うわ。

 緊張感が圧倒的に足りていない。

 コーヒー好きに悪い人なんていないに違いない。



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