31. コマ
ドングリを見てみて、思い出したものがある。
ドングリを失敬して、最初のものを作る。
ドングリの上を工具で穴を開ける。これは錐という道具だ。
木を削って爪楊枝のようなものを作った。それをドングリの上から刺す。
オマケで墨でちょっと円の模様とかも付けちゃおう。
女の子たちは興味深そうに観察していた。
「はい、完成。ドングリコマ」
「「「わーい」」」
無駄に喜んでるけど、何かわかっていない様子。
「これはね、こうやって上の棒を摘まんで回すと、ほら」
コマが勢いよく回っていく。
「わわ、すごい、です」
メアリアも感激だ。
できたコマの数はちょうど四つある。
「はい、一人一個あるからどうぞ」
「「「ありがとう(にゃ)」」」
みんな、夢中でドングリコマを回した。
「これはね、複数人で、競争もできるんだよ」
「へえ」
「ほら、やってみ、せいの」
「「おおお」」
コマが一緒に回り、ぶつかったりして、そしてどちらかが先に止まる。
「長く回ったほうが勝ちだね」
「ふーん」
こうしてしばらくみんなでコマ回しをした。
「あとは、ほら、指の先に乗せて回したり」
「おお、すごいわ」
みんな目を丸くして見てくる。
「ブランはどこでそういうの覚えてくるの? おじさんから教わるの?」
「いや、父ちゃんはあんまり教えてくれないな」
「そうなの? じゃあなに? 一回町に行っただけで、覚えてくるの?」
「まあ、色々だよ色々」
「ふうん、色々ねえ。まあいっか」
「そそ、まあいいんだよ」
よし。うまく撒いたぞ。前世の記憶がとか言ったら頭おかしい人になってしまう。
さすがに俺もそれくらいの一般常識はある。もしかしたらこの子たちは世間をよく知らないから、前世の記憶があるんだよ、って言っても大丈夫かもしれないけど、まあ知らせないほうがいいだろうな。
ドングリコマがうまくいったので、今度は普通のコマを用意しよう。
木を削っていく。
「ねえブラン、これ何になるの?」
「これがコマ。ドングリのよりもずっとよく回るんだ」
「私もやるわ!」
ドロシーが食い気味で興味津々だ。
他の子も、じゃあ私もという感じで、結局みんな一個ずつ作ることになった。
なんとかコマの形にした。
木の加工はあんまりやっていなかったので、けっこう難しい。
ナイフとかヤスリとかで形を整える。
「はい、完成、これが本当のコマだよ」
「「「おーぉ」」」
まだ一個しかないので、とりあえず見せる。
紐をつけて、ぐるぐる巻きにして、びゅーんと紐を引くとくるくる回るのだ。
「わーすごい、回る回るわ」
ドロシーが興奮気味に言った。
他の子も回っているのを、じっと見ている。
思ったよりも長時間安定して回っていた。なかなかいい仕事をした。
そのうちコマの頭が円を描くようにブレだして、そして大きくぐるぐる回って、停止した。
「まあ、こんな感じ」
みんなはまだ調整中だ。もうちょっと修正しないとガタガタしてしまうと思う。
とにもかくにも、こうしてみんなのコマができた。
そしてコマ回し大会になった。みんなでコマをぶつけ合う。
みんななかなか出来がいい。意外だったのが、メアリアだ。思ったよりもずっと器用らしい。
メアリアのコマは他の人より長時間回ることが多かった。
ただ回す能力のほうが普通みたいだったので、そのコマの長所と相殺して、飛び抜けて上手という風には見られていない。
けどこの子は才能あるっぽい感じがする。
みんな作ったコマを、自分用に絵を描いたりしてカスタマイズもした。
色絵の具なんて高価なものあるわけもなく、黒い墨だけだけど、それでも個性は出る。
俺はシンプル系の輪っか模様だけのやつ。
リズは猫の顔が描いてある。
ドロシーはお花柄。
メアリアは幾何学模様。
それぞれ味があっていい。
「ねえ、ブラン?」
「なにドロシー?」
「このコマっていうのは町にあるの?」
「わかんないけど、たぶんないんじゃないかな」
「じゃあさ、これもたくさん作れば売れるかな?」
「かもね。ただ俺的にはあんまり高くないし、すぐ真似されるし、作るコストが高いから面倒でやりたくないんだよね」
「なるほど」
なるほどって言ってるけど、これはわかってない顔だわ。
「要するに面倒くさいんだね」
「まあそうだね」
あはは。正確な理由はわかってないけど、俺のことはわかってるらしい。




