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酔っ払いたち

土曜日の午後10時。ここは居酒屋『恥と未練』。只今、満席。大繁盛の素敵な人情型の居酒屋です。


「もうにょめないけどね、おやっさん、最後にビール大瓶2本を頼むよん!」と見知らぬオッサンが言って居酒屋のテーブルに突っ伏した。既にテーブルの上にはビール瓶8本が空けて置いてあった。一目で酒豪だと分かる飲みっぷりだ。

 

「サトシさん、酔い潰れて大丈夫なの?」と焼き鳥を焼いているおやっさんは心配そうに言うと首に巻いたタオルで顔の汗を拭いた。

 

「大五郎ちゃんよ、僕ちんは酔い潰れてません!」と酔い潰れているサトシはテーブルに突っ伏したまま怒鳴った。

 

「サトシさん、もうやめた方が良いと思うよ~」と居酒屋の店主、川内大五郎さんは優しく言って再び焼き鳥を焼き出した。

 

「ここで止めたら男が廃る。僕ちんは酒に呑まれた事が1度も無いのが自慢です!」と酔い潰れているサトシはテーブルに突っ伏したまま言った。

 

「お前! 酔い潰れてるってよ!」と突然、トイレからタンクトップと半ズボンの酔っ払った男が現れてサトシに言った。

 

「何を失敬な! 酔い潰れてません!」とサトシはテーブルに突っ伏したまま反論した。サトシは何とか必死に頭を上げようとするが何度もテーブルに突っ伏した。

 

「酔ってるって。おっさん、あんた酔ってるって」とタンクトップに半ズボンの酔っ払った男が言うとサトシ真後ろに立って敬礼していた。

 

「失敬な失敬な! オッサンはあんただ! 僕はまだ54歳だ! オッサンはあんただ!」とサトシはテーブルに突っ伏したまま怒った。


「54歳はまだまだガキなんだよ。なめんなハゲ!」と、おまけにサトシは言ったがテーブルに突っ伏したままだった。

 

「お前な、俺はな、まだ80歳なんだぞ! 求職中なんだぞ!」とタンクトップに半ズボンの男は敬礼をしたまま言い返した。

 

「定年後に求職中って……。あんた不憫だな。楽しい老後はどうなったのよ?」とサトシはテーブルに突っ伏したまま悲しんだ。


「定年制を反対したいね。死ぬまで働きたい。ビンビンに働きたい」とタンクトップに半ズボンの酔っ払った男は敬礼したままスクワットを開始した。

 

「200回はスクワットしたい。今はそんな気分」とタンクトップに半ズボンの男は言って速いスクワットを披露した。


「男は黙ってスクワット」とタンクトップに半ズボンの男は言って必死な形相で歯をむき出しにしてスクワットを繰り返した。

 

「オッサン、足腰が強いね。なかなかスクワットなんかしないよ普通はさ」サトシはテーブルに突っ伏したままスクワットを見ていた。

 

「古傷で半月板は損傷してる。皿のズレが酷いからさ、こうやってスクワットして騙し騙しで慰めている。あっ! 膝が!!」とタンクトップに半ズボンの男は床を激しく転げ回りながら右膝を押さえた。

 

「無理するからだよ。おやっさん、居酒屋にグルコサミンとか、ギプスとかないの?」とサトシはテーブルに突っ伏したまま店主の川内大五郎さんに言った。

 

「ないね」と川内大五郎さんは焼き鳥を焼きながら言った。

 

「膝よ、治れ! 昔、走り回って女のケツを追いかけていた頃を思い出せよ! 膝、思い出せ! 俺の膝、右膝、思い出せよ! 頼むから思い出せ! なあ、いっぱい女のケツを追いかけて不審者扱いされたろ? なあ、思い出せよ、俺の右膝!」とタンクトップに半ズボンの男は泣きながら床を転げ回っていた。

 

「泣くなや。みっともない。あんたは80歳なんだぞ。求職中の80歳なんだぞ。泣くなって! みっともないから泣くな!」とサトシはテーブルに突っ伏したまま励ましてあげた。

 

「そうだぞ、泣くなよな」と店内にいた他のお客、2、3人が拍手してタンクトップに半ズボンの男を応援していた。

 

「ありがとうございます、ありがとうございます。熱い、温かい拍手をありがとうございます。田辺です。田辺です。田辺良太郎を宜しくお願い致します。ありがとうございます、ありがとうございます。田辺です。田辺良太郎です。温かい拍手をありがとうございます。田辺に田辺良太郎に清き一杯を頂けたら幸いです」とタンクトップに半ズボンの田辺良太郎は床を転げ回りながら右膝を押さえて涙に濡れまくって言った。

 




つづく

読んでくれてありがとうございます。

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