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③浄化は魔族のお仕事です?

「ねぇ、魔族は瘴気を引き受ける、ってどういうこと?」

「それは、魔族は瘴気をその身に受け入れ、膨大な魔力で浄化してくれているのです。王は特に大量の瘴気を浄化しています」

「えっ?じゃあ魔族ってめっちゃ良い人?」


空気清浄機的な。


「そうだ。神はまず人を作ったが瘴気が出て魔獣が発生し、人が襲われる。そこで瘴気を浄化する種族、すなわち魔族を作った、と言われている」

「けれど王ですら100年もすると浄化しきれなくなり、闇落ちしてしまいます。人間にできる事は癒しの神子を召喚し、王を癒して差し上げる事」


そうか。100年も頑張ってくれたのならお礼しないとね!


あれ?

その後はどうなるの?


「闇落ちすると能力が不安定になるので次世代の王が誕生します。その子が成人するまで神子様に癒されながら浄化を続け、代替わりをします」


働きっぱなしで引退したら寿命、なんて事ないよね?


「魔族の寿命は150~180年。代替わり後は神子様と仲良くお過ごしになる方がほとんどだと言われています」


おぉ……茶飲み友達か。

縁側でお茶飲みながら一緒に日向ぼっこするおじいちゃん達か。ほのぼのするよね。あ、縁側はないか。じゃあテラスに敷物敷いてもらおう。座椅子も欲しいな。



───────────────────




翌朝、朝食が終わると魔族の案内人が迎えに来てくれていた。尖った耳と優れた容姿、緑の髪、ってまるでエルフだ。


子供達に囲まれて困惑しているみたいだけど、子供達は直接お礼が言えて嬉しそうだ。


「案内役のテテだ」

「護衛のリッター、竜騎士だ」

「同じく護衛のマーギア、魔法使いです。そしてこちらが神子様です」

「よろしくお願いします!」


挨拶を交わし、そばを離れない事と指示に従う事を約束し、村人に見送られて森へと入る。森の中では高く跳べないので、おれは対面式の抱っこ。兎馬(とま)の肩から後ろを見られる高さだ。


入った途端に来た道が塞がった!!


「森を守る樹木達だ。彼らが道を隠し、余計な瘴気が発生するのを防いでいる」

「人間が入ると瘴気を産んじゃうんですか?」

「森には希少な素材がある。人は欲望を持たずにはいられないらしい」


人間の欲望は罪深い。


テテさん、リッターさん、おれ、マーギアさんの順で進む。森の中なのに自転車くらいのスピードが出てる気がする……。テテさん、軽ーく走ってるのに……。


途中、絡まってくる蛇とか蜘蛛の糸とか蔓植物とかあったけど、みんながサクッと処理しました。


テテさん、小さな弓を使って魔法を打ち出しているらしい。かっこいいなぁ。……もしかして、やっぱりエルフ?


「あれが我らが王の住まう城だ。城へは舟でお連れする」


森が終わったので抱っこ紐から解放してもらうと、突然拓けた視界に飛び込む美しい湖。

その湖の真ん中に、城壁で囲まれた青いとんがり屋根がいくつもついた真っ白なお城がある。水面に反射する光がお城をより美しく演出している。


「すごい! きれい!!」

「なんて見事な……」

「こりゃあ、難攻不落だな」


舟を運びながら惑わしの森を抜けるなんて無理だもんね。水の中には魔獣がいないって言うけど、泳いで渡るのは無理そうだ。


テテさんがピュイーーーっと口笛を吹くと、城壁の上からするすると舟が降ろされる。ずいぶん小さく見えるけど、うーちゃん達、乗れるかな?





あれぇ?

ずいぶんゆっくり進んでる、と思ってたけど、着岸したら予想の3倍の大きさだった。なんと漕いでる人が巨人族。2本のオールで漕ぐタイプなのに、漕ぎ手の他に20人くらい乗れそう……。


「かわいい……」


舟を降り、岸に上がった巨人さんがそう呟いて、マーギアさんが乗って来たピンクの鶏を抱き上げてスリスリすした。大人と幼児くらいのサイズ感。


「リーゼ、早く運べ」

「テテのケチ」

「リーゼ……」

「行く……」


仲良さそう。

巨人のリーゼさんが船の上に鶏をそっと降ろし、続いておれ達も乗せてくれた。そして始めはゆっくりと、徐々にスピードを上げて行く。


リーゼ、って女の子の名前に聞こえるけど、まさか……?


トップスピードはモーターボート並みでした。


20分でお城の城壁に接岸した。

リーゼさんがぶら下げられたロープを一振りすると、どこからかリロロロロンと不思議な音色が聞こえてきた。


「綱の中に鈴が入っているんだよ」


リーゼさんは優しく説明してくれる。

程なくしてジャラリと太い鎖が降りてきた。それを舟に取り付け、もう一度綱を振る。


舟ごとするすると運び上げられ、ぐんぐん遠ざかる水面。おれは少し……ほんの少しだけビビってうーちゃんにしがみついた。絶妙な力加減できゅっと抱きしめて背中をポンポンしてくれる。ほわぁぁぁ……、安心するぅぅぅ……!!


ガクン、と何かがハマって舟が固定された。


するとリーゼさんがおれを抱いたうーちゃんをまとめて持ち上げ、城壁の上の通路みたいな所に乗せてくれた。ここには城壁があるから怖くない!


……城壁が高くて抱っこしてもらってないと空しか見えない……。周りの景色は諦めよう。





そしていよいよ魔族の王様の所へ案内される。どんな人かなぁ?


「王が!」

「陛下が!」


突然、城内が騒がしくなり、走ってきた鎧の人が倒れて苦しそうに呻き声を上げている。なに? アレルギー!?


「人間はウマに乗って付いて来い!」


テテさんがそう言うと、うーちゃんは心得たとばかりにおれを抱き上げ、後を追った。倒れてる人は良いの!?


「闇落ちしたか」

「王様が? 間に合わなかったの?」

「神子様なら今からでも浄化できます!」


自分勝手な思いで瘴気を生み出す人間。


瘴気のせいで魔獣が発生し、人間や魔族が襲われる。


瘴気をその身に取り込み、浄化する魔族。


限界を超え、闇落ちして苦しんで、命を落とす事さえある魔族。自分より弱い魔族を守るために人一倍瘴気を引き受ける王様。


その王様が苦しんでる。

会った事もないのに心配で泣きそうになりながら大広間に駆け込んだ。


そこには沢山の人が倒れてのたうちまわっていた。人のような、獣のような、異形の姿。


人、だよね?


「陛下! 神子様を連れて参りました。もう大丈夫です」

「うぐ……ぅ……、がっ……!!」

「神子様、癒しを!」

「わ、分かった!」


大きな玉座の前に這いつくばる王様は、服は破れ、髪を振り乱し、黒い毛で覆われた腕と鋭い爪。それに捻れて伸びる2本の角。髪の毛で見えないけどもしかして悪魔みたいになってる?


苦しそう。

辛そう。

なんとかしてあげたい。


「王様、王様! 聞こえますか?」


声をかけても返事はない。

手を握ろうと近づいたら見えない壁に弾き飛ばされた。


「ミコ! どんな時癒しを感じたか考えろ!」

「優しさや可愛らしさ、いじらしさを王に見せてあげて下さい!!」


可愛らしさ? いじらしさ?


急に言われても難しいよ!

でもそうだ!

入院中にいとこが見せてくれたあれを!!


いや、大人がやっても可愛くは……


「「早く!!」」

「ぐあぁぁぁぁぁっ!!」


王様が苦しんでいる。

他に何も思いつかない!もう破れかぶれだ。


深呼吸をして気を強く持って。






♫ チェッ チェッ コリッ

チェッコリッサ

リサッサ マンガン

サッサ マンガン

ホンマンチェチェ!


運動会で低学年の頃やったダンスだけど、大人達には大好評だった。親戚が集まると子供達で並んで踊り、場を盛り上げた。……と言うか和ませた。3歳と6歳のいとこがお見舞いに来てくれた時にやって見せてくれて、めちゃくちゃ元気が出たんだよね。


だから、きっと!


最後の振り返るポーズを決めると、どこからともなく光が降り注ぎ、花びらが舞い、良い香りが鼻をくすぐる。


部屋の中の呻き声は落ち着いたものの、固まっているだけのようにも思う。


……すべった!?


「み、神子様! 可愛らしいです! もう1度、お願いします!」


マーギアさん……、ありがとう。

1人でも喜んでくれたなら頑張るよ。(涙)


恥ずかしさで叫び出したいのをぐっと堪え、もっと可愛く! と自分に言い聞かせながらもう1度踊った。


お読みくださりありがとうございます。

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