8話 予想外
帰る場所はなくなった。そして、今から行く場所も特にない。
とりあえず今後の計画を立てるために、落ち着いた場所に移動しよう。僕はハイパーアクティブな人間ではないため、ずっとユイを背負って移動しているのも一苦労だ。一応運動はできるのだが、それとこれとは話が違う。
近くの駅に向かい、電車に乗る。3駅くらい進んだところで降りる。あまり遠くに行くと、知らない土地になり、それも良くないかもと思ったのだ。
電車に乗っている間は多くの人がにこにことした視線を向けてきていた。恐らく兄弟にでも見えているのだろう。本当はユイの方が年上なのだけれど。
駅から出て、ある程度歩き、河川敷に到着する。
ユイをやっと背中からおろし、寝転がす。体が軽いような、重いような。疲れた。
やはり、心中症のことについてもっと知りたい。前に調べたときはざっくりとしか調べなかったが、今度はもっとしっかりと調べておかないといけない。情報なしでむやみやたらに動き回って何か成果が得られるとは思えない。知りたい事についてとりあえずまとめよう。
僕はメモ帳を取り出し、分からないことをリストアップする。
・感染経路
・なぜ、心中したくなるのか
・自分がなぜ人を殺したのか
・自然発生したものかどうか
・人為的なら何のためなのか
これくらいか。何も分かってないな。
インターネットを使うときは履歴が残らないように、シークレットモードを使う。気休め程度にしかならない気もするが。
検索をしてみるがやはり核心的なことは全くと言っていいほど載っていない。
知恵袋的なやつと、掲示板で書かれた大量のデマしかない。情報が統制されているのだろう。
検索結果の50ページにも差し掛かると心中症とも関係のないことが並び始めた。
その中から心中のやり方というサイトを見つけた。ノーマルな心中だが、参考になるかもしれない。
そのサイトは、とてもポップで明るいサイトの見た目をしており、ちょっと気持ち悪い。
読んでみると、とても分かりやすく書いてはあった。
心中にはナイフを使うよりも毒のほうが心理的抵抗も少なく、自分がパートナーを殺めた後に自殺しやすい......らしい。
こんなサイトを読んでいるとある意味で世界の広さを感じた。
ただ、一つ気になったことがある。僕は心中症にかかった人たちが毒で死んでいるのを見たことがない。残虐な手段で殺されている。
偶然かもしれないが、銃などの一般人にありえない手段もあったし、残虐であることに何かヒントがあるかもしれない。
隣でごそごそと聞こえる。
「ん......えと、どこ!?」
ユイが起きたみたいだ。まだ落ち着いてる様子だ。
「その辺の河川敷。覚えてるかは知らないけど、僕たち......」
少し言葉に詰まる。まだ認め切れていないのかもしれない。少し覚悟を決めて言う。
「僕たち、人を殺した、から逃げてるところ」
「そっか」
「そう」
静かにユイは両手を顔にあて、体を震わせている。
僕はそれ以上言葉を発さず、ユイを待つ。
ある程度落ち着いたかな、というところで、
「体、洗ってきた方がいいよ。後これ、服。男用だけど」
「見ないでよ」
「ちょっと離れたところで洗ってくれた方が、その、僕も助かる。寝転がって見ないようにはするけど」
「ありがと」
僕は寝転ぶ。ポカポカしていて緊張感も少し和らいだ。
10分ほど経っただろうか。足音が近づいてくる。ユイだな。
!?
起き上がるとユイがナイフをぼくに振り下ろそうとしていた。