5話 ユイ
「何のことでしょう?」
とりあえずしらをきる。
「まずこっち向いて」
言われた通りに振り返る。思っていたよりも背が低く、女性というよりは少女である。白くてふわふわした感じの服を着ており、首にはデジカメがかかっている。
「じゃあ、これを見て」
少女に見せられたのは、僕が水色の髪の女を殺した時の写真だ。証拠はばっちりってことか。
「それで、どういうわけさ? 僕は殺人者だぞ。危ないかもしれないのに近づいてきてさ」
少し脅しっぽくしつつ話してみる。
「だって、殺したくて殺した感じじゃなさそうだったし......」
怖いのは怖いらしい。
「それに、倉庫の女の人との会話を聞いてる感じだと、心中症にかかって生き残ったっぽいから......」
会話を聞いていたからこそ近づいてきたらしい。
「で、結論どういうこと?」
とりあえず話の筋を知りたい。
「友達がたぶん心中症になっちゃうからどうにかして助けてほしいの」
確かに、実際に生き残っているのを見たら頼んでくるのはわからなくもない。けれど、殺人者に近づくリスクの方が高いと思う。
写真をばらまかれても困るし、心中症の現場を見れるのであれば、一旦話に乗るしかないか。
「分かった。頑張ってみようとは思うが、保証はしないぞ」
「ありがとう!!」
少女は少し笑顔になる。
「で、どういう状態なのかを教えてほしいんだが。後、君の名前も」
「私は、ユイ。18歳の高校三年生」
ユイ、か。その名前が心にチクチク刺さる。けれど、人の名前は別にその人のせいじゃないし、悪く言っちゃいけないか。後、18って僕より年上じゃないか。
「ユイ、ね。分かった」
「それで、状態だっけ?」
「うん」
「私にはすっごく仲のいい友達が2人いて、一人が女の子でもう一人が男の子なの。それで、二人は付き合っててって感じ」
「なんとなくわかったけど、なんで心中症になるって思ったの?」
根拠があるのなら知っておきたい。
「心中症は地域ごとに一気に感染するなぁって思ったからかな」
確かにこの辺で心中症の話はちょっと前まで聞いてこなかったが、インターネットでも犠牲者数は出ていたものの地域などは出ていなかったはず。
「なんで地域ごとって分かった?」
ユイが渋い顔をする。
「北海道に住んでた親戚が全員心中症で死んだから......」
「ごめんよ」
やってしまった。気が利かなかった。
「まぁ、いいよ。今日の午後に二人がショッピングモールでデートするから、きっとその時に何か起こるはず」
「とりあえず、今からショッピングモールに向かおう」
ショッピングモールについたが、朝早く家を出ていたからまだ9時だ。仕方ないし、今日のご飯用の食材でも買っておくか。
食料品店を回りながら心中症の解決策を考える。でも、2人ともを救い出せる手段なんてものがすぐに見つかるとは思えない。じゃあ、結衣が殺されたみたいに片方を殺せばいい、というわけにはいかないな。でも、最悪の事態になったときにどうするかは決めておいたほうがいいか。
「ユイ、もしユイの二人の友達の一人しか選べないとしたらどっちを選ぶ?」
買い物についてきてくれているユイに聞いてみる。
「そうだねぇ......選べない、っていうのは無し?」
「いや、無理強いはしないけど、どうなのかなぁ、って感じ」
「じゃあ、選べないってことにしといてもいい?」
そんな会話をしたり世間話をしたりしつつ昼の12時になった。
二人はデートの初めにファミレスで集合してからデートをするらしいので、ファミレスが見える物陰にいることにした。
「やっほー!!」
「おいすー!!」
楽しそうな二人を発見した。双方左手で手を振っている。彼、彼女がユイの友達らしい。
ん? 片手で手を振っていて、もう片方の手を背中側にしているのって、僕と結衣のときと一緒じゃないか。
「キョウ、何とかなりそう?」
ユイにそう聞かれる。
「いや、あの二人両方を今止めても、見てないタイミングでまた心中しちゃうと思うから、どうにもできないと思う」
「そっか、じゃあちょっと私にナイフを貸してくれない?」
よく分からないが、とりあえずナイフを渡す。従っておかないとユイには何をされるか分からないし。
「ありがと」
ユイはそう言って、僕の隣を離れて二人の方に向かう。
ユイは2人に手を振りながらにこやかに近づいていく。
そして、ユイは、友達の少女を刺し殺した。




