2話 人殺し
結衣が殺された。それに、どうして僕は包丁なんて持っているんだろ......
バチッと音がして意識が遠のく。
目が覚めると、よく分からないところにいる。薄暗くて、天井は高くて、倉庫っぽい。いや、そんなこと考えている場合じゃない。
結衣は? あれは夢?
何も状況が分からない僕は立ち上がろうとする。結衣を探しに行かないと。しかし、動けない。
なぜか縛られている。
「やぁ、起きたみたいだね」
目の前にあるドアから誰かが入ってくる。外の光がまぶしいせいでシルエットでしか見えない。
「おっと、電気をつけるね」
目が明るさに慣れると目の前のやつには見覚えがある。さっき結衣を殺した......!
僕は必死で縄を解こうとする。目の前の女を殺そうという気持ちでいっぱいだ。
「ストップストーップ。私は君を助けたんだって」
何を言っている? 水色の髪の女はまごうことなき殺人者だ。
「私は、確かに君の彼女を殺したよ。それは認める」
殺してやりたい。許せるはずがない。
「ここからが本題。私が殺さなかったら、君が彼女を殺してたはず。証拠に君は包丁を取りに帰っていたでしょう」
確かに、なぜかは分からないが包丁を取りに帰ったし、結衣が殺される直前も包丁を握っていた。僕にはまだ女の話を聞く冷静さは残っているらしい。
「君、心中症にかかっているから。彼女も右手に包丁を持っていたから同じく罹患していた。私が入らなかったら二人とも死んでいた」
心中症。今朝もニュースで見たやつだ。でも、結衣は返ってこない。
「なんで結衣を殺して僕を生かしたのさ。僕を殺して結衣を生かす手だってあったはず」
何か行動を起こすにも、縄を解いてもらわないといけない。情報を得られるだけ得て、それからでも遅くはないか。
「君には冷静さがある。それに、運動も得意だろう?」
確かに、運動神経はそこらの人に負ける気はしない。ただ、それは相手の都合。僕にとっては何もよくない。
「そこでだ。君には心中症を解決してほしいわけ。心中症はウイルスじゃない、テロなのさ」
まだあまり整理がついてないのに、情報が次々と飛んでくる。
「メリットを伝えておこうかな。心中症を引き起こした犯人たちの目的はある人間の復活、だから、うまくやれば、君の彼女を蘇生することができるかもしれないって感じ」
結衣が生き返る!? 可能性が少しでもあるなら賭けるしかない。泣き寝入りするのは嫌だ。
「その話、嘘かもしれないけど乗るよ」
「ありがとう。それじゃあ、拘束を外すよ」
ナイフで縄を切ってくれた。
「大変な戦いになるはずだから、せめてこのナイフを渡すよ。切れ味はすごくいいから」
右手で受け取る。手渡されたナイフはすごく軽い。使いやすそう......
あれっ......
頭がフワフワとして、何かに誘導されたかのように体が動く。
右手に生暖かい感触が。
さっきまで話していた女を僕が殺していた。