11話 山頂にて
また心中症か。
死体を見ても、あまりなんとも思わない。それどころか何か手がかりになるのでは、と思っている自分がいることに少し怖くなった。
やっぱり慣れるものなのかな。できれば慣れたくはなかった。
心の中で悼みながら、観察しようとすると、カップルがだんだんと消えていく。今回は近くで見ることができる。
頭の方から順に小さな綿毛のような分子が飛んでいくのが見える。
なぜかその綿毛は全部この山の頂上に向かっている。
綿毛を見ているうちにカップルの死体が無くなっていた。
その場に残ったのは心中に使ったであろう包丁2つと、綺麗な衣服。
綺麗な衣服......?
カップルは血だらけだったはずなのに、包丁は銀色に輝いているし、服も、洗濯したてなのかってくらい綺麗だ。
包丁がまだまだ使えそうなので、日本とも、落ちていた衣服にくるんで持って行く。
他にはなにか......
リングケースが落ちている。中を開いてみると、小さなダイヤのはめ込まれた指輪。
プロポーズをするつもりだったのだろう。それで人気のない山奥に。
顔を上げてみると、綺麗な夜景が見える。少しの間見入る。
心中症のせいで、このカップルは......
全く知らない人たちだけど、せつない気持ちになる。
指輪とリングケースも持って行こう。
立ち去る前に、黙祷をささげていく。
20時。まだ眠るには早いな。山頂に行ってみよう。何か手がかりがありそうだ。
少し登っていくと、立ち入り禁止の柵と看板。
こんな何もない山に立ち入り禁止は怪しい。いや、普通に電力施設とかがあるだけかもだけど。
まぁ、どうせ、警察に追われてる身だし、立ち入り禁止乗り越えたって今更だよな。
山頂を目指してさらに進む。
別段何もないまま、山頂を目指す。
山頂に到着した。
あれ、こんなところに電波塔なんてあったっけ。
山頂にはどでかい電波塔が立っている。確かにこの山に興味なんてなかったし、知らなくても仕方ないか。
時刻は21時前。登るのに一時間くらいかかったな。でも、ただの電波塔があっただけ。
戻ってさっさと寝よう。電波塔を背にして、下山し始める。
......ちょっと待てよ。
電波塔が立ってるのに、この山なんで圏外なんだろ。
ちょっと木々で遮られても圏外って程じゃないと思うんだけど。
振り返るとそこに電波塔がない。
急いで来た道を戻ると、電波塔が再び見えた。
すると、突然電波塔が光り始め、僕は意識を失った。