転移少年は二度死ぬ
な、なんだ、なんなんだ?!
異世界転移したら最強とか、特別な才能とか、普通そういうのを与えられるんじゃないのか?
俺は山中で、いかにもな悪党面の3人組に追われていた。
ゴツゴツとした整備されていない山道を疾走する。
現世では何度か登山をした事があった。
爽やかな風、草の匂い、小鳥の囀り、でも俺は今実感している。
整備されている山道を登るのは登山ではない、ハイキングだと。
獣道といっても過言ではない道なき道を必死に走るが、足を取られ思った様に走れない。
そもそも履いているのは革靴だ! 着ているのは学校の制服だ!
俺をここに来させた神様は何処だ? マジで何か説明しろ!
山道を疾走する俺は、こんな所に転移した神を呪った。
転移先で殺されたら、次はどこに転移するのか?
現状俺が唯一頼れるのはそれだけ……殺されるのは確定な状況。
だって、ほら……思った通り囲まれた。
くねくねとうねる山道、恐らく近道があったのだろう、俺の目の前には大剣を持った髭面の男がニヤニヤしながら息も切らせず立っていた。
「な、なにも持ってない、マジでなにも!」
俺は後退り、尻もちを着いた状態で、手を上げ降伏の意を示す。
「あ? その見た事もない袋、なにか隠し持ってるのは明白だろが!」
俺を追っていた中年と思わしき風体の男が、俺の背後で少し息を切らし、眉間に皺を寄せ凄んで来る。
「ここでは役に立たないっつーの!」
バックには財布、スマホ、携帯ゲーム、充電器、家の鍵、そして昼飯の弁当……教科書と参考書、そりゃそうだよ学校に行く途中で転移しちまったのだから……。
「ええから、ええから、金目の物かはあとで確認すっから」
どうやってここまで来たのか? 山道の脇の林から禿げた親父が姿を見せる。
似非関西弁に聞こえる小太りの禿親父は、舌なめずりをしながら、ニヤニヤと俺のカバンとバックを見ていた。
「それにしても、ヒョロヒョロしてるから、女だと思ったけど、お前男なんか?」
大剣を持った大男が俺を珍しそうな顔で見る。
「そ、そう! だから、俺を襲っても……」
「大丈夫大丈夫、あたいはどっちもいける、生きてるか死んでるかも気にしないからん」
大男なのに女言葉? ギャップにも程があるだろうそいつは、剣先を俺に向け、恍惚とした表情で見つめてくる……な、なに言ってるんだこいつは……。
異世界に飛ばされた……俺はそれだけはわかっていた。
しかし、現世で読んでいた本の様な事は現状一切なかった。魔法も能力も武器も何も無い。
『うおおおおおお力がみなぎるぜええええ』なんて事も一切ない。
現世から持ってきた物を確認したが、全く役に立つとは思えない。
スマホだって当然圏外、写メを撮ってもどこにも送れない。
唯一使えそうなのは、太陽光パネル装着の充電器、登山の時に使えるかもと買った物だ。
そんな絶対絶命な状況、来てからほんの数時間で俺の異世界転移物語は終わりを迎えようとしている。
これって……物語としては最速なんじゃね?
どうにもならない状況に俺は思った。
本当に死ぬ時って意外に冷静になるんだなって……。
確かに現世でも冷静に死んでいったなって……。
実質数時間で二度死ぬ……転移少年は二度死ぬってタイトル……なんかカッコいいな……。
そんな事を思っているうちに、オカマ大男の大剣が俺の首筋に当たった。
できれば痛くない様にして欲しい……死んだ後はどうでもいいから。
俺は抵抗して痛い思いをするくらいならと、じっとしたまま目を閉じた。
「覚悟は出来たか? じゃあねえ~~」
まあ、こんな事する奴らなのだから、殺りなれているのだろう。その言葉に躊躇はない。
この世界に秩序なんてない、それだけはわかった。 次の転移先は出来ればギルドがしっかりしている秩序のある世界でよろ、出来れば可愛いエルフさんが面倒を見てくれる様な、そんな世界に……。
『とととととととと』
そう覚悟を決めた瞬間、地面を疾走する足音が聞こえた。
「な、なんじゃ!」
3人組の一番後ろに居た似非関西弁の禿親父はそう叫ぶ。
俺は目を開け、足音の方向を見ると、現世でいうパーカの様な服を、頭まですっぽりと被った小さな少年がこちら目掛けて疾走してくる。
「こ、こいつは!」
大剣を持ったオカマの大男は、その少年を知っているのか? 驚きの表情をしていた。
ほそぼそと書いていた異世界転移物|д゜)チラッ。
もし万が一続きが気になるなんて思った奇特な方はブクマ、評価をお願いします。