ごんぎつね
私の記憶に残っている母との思い出①です。
教科書に書かれた小説の感想文を、クラスメート全員が書いて文集にした。
私は、初めてそんな事をしたから、何だか少し大人になったような気がして家の自分の机の上に堂々と置いていた。母は、その文集に気づき、何も言わずに読んでいた。
あれ?何かいわないのかなってきになったけど、私のものに対して母は許可をとったことなんてなかったからある意味当たり前でもあったのだ。
パラ、パラと紙がめくられていく音が止んだ。
勢いよく床に投げられた文集は、貰った時のピーンと綺麗に伸びた表紙をグシャグシャの紙くずへと変えてしまう。直角になっていた筈の角が、まるく変形し、教科書の挿絵をモチーフにした表紙のイラストが鈍い表情でこちらを見上げていた。
どうして、母は投げたのだろう。私には分からなかった。
褒めて貰えると思っていた。いや、褒めて貰えなくても、せめて、せめて綺麗なままとっておくことが出来ると思っていた。
上から降ってくる母の怒号。雨のように全身に浴びせられた。
「お前は人の気持ちがわかってない。これを全員分読め」
そう言われて渡された文集は、ぐしゃりとひしゃげた形をしていた。
何故出来立ての文集を、無許可で読んだ末に投げてぐちゃぐちゃにしてきた人からこんな事を言われているのかも分からなかったけれど、キレた母に反論する事は幼心に無謀だと分かっていた。
ただでさえ普段寝る時間を過ぎていて眠たかった私は、何度も頭をガクンと落としながらページをめくった。
何人目かの感想文を読み、ふと今日中にやることなのか疑問に思い、就寝することに決めた。ベッドに入り込み、電気を消して、瞼を閉じる。
バサッと目の前に風を感じ目を開けると、文集越しに1時間前と同じ表情をした母がいた。
「何故言われたことも出来ない。だからお前はダメなんだ、さっさと読んで理解しろ、この人のは読んだのかこの人のは…」
クドクドと言われる内容は、最早聞き流す以外の術を持たず、諦めた母によってその日は終わった。