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転機

私は特別である。

白い肌白い髪、色素の薄いグレーの目。

色素の無い私は特別である。

…そうでなけばならない。


目の前に婚約者の殿下が険しい目で私を弾糾する。

傍らに男爵の令嬢を連れて。

「先日のソフィアが何者かに攫われた事件の犯人がそなたが依頼したことだと吐いた。

その他にも数々の嫌がらせ…もうそなたを庇うものは皆無であろう」


王族プライベートなお茶会があると呼び出され参加してみれば、彼の側近達に囲まれ、卑しい令嬢が婚約者に寄り添っているだけであった。

どういうことかと問いただせば婚約者は強い口調で言った。


「あら、卑しい身分の者たちに戯言を殿下は信じるのですか?…そこの娼婦と同じように」

「エリー…その発言はいけない。みな私にとって大事な者たちの証言だ」


失望を滲ませる殿下に私は鼻で笑って答えた。

「殿下は私を特別だと仰ってくださいましたわ。それなのに他の女に現をぬかしにおられて…婚約者としてそれを排除するのは当然のことですわ。怒りになるのでしたら、そちらの娼婦になさってくださいませ」

殿下はなぜ当然のことを紛糾するのか、わからず嗤う。


「殿下…彼女はもう駄目です。お切り下さい」

「……」

周りの側近が吠え、殿下は項垂れ、沈黙した後に決意をした顔をあげ私を視界に入れる。

「エリザベス・ノウェー、そなたとの婚約を本日限りで破棄する。またソナタは罪のない者達を殺害した罪により牢獄で反省したまえ」

そういった瞬間、周りを囲っていた騎士達が私の両腕を抑え乱暴に移動させる。


「殿下?!何をおっしゃいますのですか!ふざけないでください!」

様子が可笑しくて私は殿下にむかって叫ぶ。けれど殿下は目を合わせてくれず傍らにいた男爵令嬢に声をかけ背を向けて去っていく。

「殿下!殿下惑わされないでください!殿下…!アレイ…!」

悲痛な叫びを無視され私は無理やり引きずられて行き暗い牢獄へと連れられた。


それからどれ程の日がたっただろうか。

最低限の生活をも出来ないような暮らしであった。

ドレスは剥ぎ取られ質の悪い布切れを着せられ、食い物は細々とした食べ物…こんなもの食べ物ではないわ。それを死なないようにと無理やり食わされた。

躾の時間だと日が傾き始めた頃服を剥ぎ取られ背に鞭を当てられた。

私の肌は弱い、すぐに血が滲みミミズ腫れを起こした。

それ以外には手を挙げられなかったため服さえきてしまえば、それは見えない。


気力も無く質素なベッドの上で項垂れているとコツコツと誰かが歩いてくる音がした。

看守かと思い、顔を上げる気にもなれずにいると音は私の牢獄の前で止まった。


「…流石に最低限の扱いをされているようだな、身綺麗だ」


…何が最低限の扱いだ、そう思って顔を上げると見たことあるような無いような顔をした男が立っていた。見た目は良く、私が通っていた学園の学生服を着ている。

だが記憶に無い、大した人物ではないと私は嗤う。

「何がこれの最低限よ、腐った目を持った人しかいないのね」

男は憐れむような視線を私に送り、一つため息をこぼした。

「…、性格は矯正していかなければならぬな。しかしお前のその髪には利用価値がある。お前、ここから抜け出したいか?」

それを聞いてバカにしたような嗤いを止めた。

「…出たいわよ、こんなところで死ぬなんてごめんよ」

私はここで死ぬまで過ごされるのだと、そう聞いた。

殺すのは可愛そうだと、あの女が殿下に言ったとのことだ。なんとお優しい…そう言った監獄者を殺したくなったのは記憶に新しい。


「ドレスや美味い飯は与えよう…だが自由は無いし、エリザベス・ノウェーという名も捨ててもらう。お前は死んだことになる。それでもか」

自由も私という人権が無いのは今に始まったことではない。

私は頷いた。

そして数日後、私は牢獄から男と脱走し、獄内で舌を切って自ら死んだことになっていた。


「君に合わせたい者が入る、何も喋らなくて良いから来なさい」

脱獄して服や飯を与えられ一息を着いた時、男…エメラルドが言った。

雑な扱いに眉を寄せたが、そのままエメラルドに連れられたのは豪奢な一室であった。

「カスミ様例の者を連れて参りました」

そう言って紹介されたものにエメラルドは頭を下げ、私にもそれを目線で強要した。が、何も説明をされていないのだ、どんな人物かわからないものに下げる必要せいを感じずにそのまま立つ…というよりも私は驚いていた。

肌の色が白く髪も白い…私と同じように。

この国では茶色、金、赤…そういった髪色しか居ない。

私は白色は特別なのだ。脱色をしようとして出来るような色ではない。

だから私は…この色を持つ私は特別で、周りからも距離を取られていたのだ。


私以外にも同じ症状を持つものがいるとは聞いたことがなかかった。

「…なんで、なんでその色……」

唖然とつぶやいた言葉は無視され、その人は私にほほえみながら首を傾げる。


「あら…説明されていなかったのかしら。

…あなたには私の身代わりになって頂くことになっているわ、聞いてないかしら」

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