第8話
あれから早ひと月、ほとんど寝ていた気がするが監視の目が厳しく、おいたができない。
広い部屋の真ん中に、母と自分の寝床があり、いじれる物が殆ど見当たらない。
視力もだいぶ慣れてきて周囲の状況が把握できるのは良いが、いたって赤子らしい日々を過ごした。
・・・・とはいえ周囲の目を盗んでは体に魔力を満ちわたらせ、肉体強化を試みる筋トレは忘れない。
そう、うまく行っている・・・・とはいえ、オムツはまだまだ卒業できそうにない。
大小ともに我慢が出来ず、尿意や便意に襲われると、直ぐに放出してしまうのだ。
何とも情けない。とはいえ早熟の効果か、生後二か月程度のことは出来る。
母はブロンドの超美人。
胸も大きく、優しい笑顔がたまらない。
名前はクリスティアというのも分かった。
日中は随分と起きている時間が長くなり、暗くなると自然と眠たくなる。
活動限界が一時間程度なのは玉に傷だが、それよりも即寝落ちが少なくなったのは助かる。
そんなある日馬車に揺られて、どこかにお出かけだ。
車窓から流れる風景に季節が春であることが分かった。
草木の芽吹く匂いが鼻をくすぐる。
菜の花に蝶が戯れる。
最近、精神が肉体に大きく引きずられ、思考が極端に短絡に成ってゆく。
メインの脳が、サブの補助記憶装置を支配下におさめるのもそう遠くではないだろう。
「 あぶぶぶぶぁ! (そんなことより自分の状態だ明細鑑定!)」
>個体名:ラインハルト(仮)
>種族名:人間
>状態値:新生児 生後1か月状 状態良好 (光魔法:プロテクト継続中)
>存在値:LV2
>体力値:41HP
>魔素値:1233MP (保有1240MP)
>スキル:魔力操作 光 闇 火 水 風 土 木 治癒 重力操作
明細鑑定 早熟 肉体改造 念動 木工
体力が随分ついてきた、下手な児童より体力があるのではないかと、少々訝しく思う。
馬車が大きな市街門?城門?を潜り抜け、街中を走ってゆく。
門はフリーパスだったところを見ると、母は、そこそこの地位にある者であるようだ。
そんな事を考えながらも、馬車の内側の取っ手が気になる。
真鍮なのか、よく磨かれピカピカしている。
そういえば、前に作った木の玉コロはどこかに行ってしまい、遊ぶことが出来なくなってしまった。
「あぶぶ・・・・(そう、この取っ手で玉コロを作れば・・・・)」
母や、マーニ、随伴の女給の目を盗み、そっと取っ手に手を伸ばす。
・・・・よし、届いた。
光らないようにゆっくり魔力を浸透させると、ドロッ溶けて、手ごろな大きさの金属が手の中に納まる。
それをコネコネこねると、真ん丸な真鍮玉の出来上がり。
確か、銅と亜鉛の合金だったはず、じゃ、其々に分けてみよう・・・・
手の中で魔力を籠めるとゆるゆるの液状になり、スライムの様に右手と左手にそれぞれの金属が分離して球状になった。
『 ポーン 物質に対しての魔力の使用を検知 スキル【金属加工】が発生しました 』
「 きゃは! ふわぁ?! (やった!ってなんか神の声が流暢になってる?)」
「 ラインハルト? 今日はご機嫌ね♪ 」
何も知らない母が笑顔でほほ笑む。
「 あぶぶ! (ヤバ)」
取っては既に崩れており、手の中の金属はこのままだと取り上げられてしまう。
どこかに隠さなければ、ぬぬぬぬ・・・・そうだ異世界物にあるアイテムBOX的なやつだ!
それでどうする、異空間?空間を切る? とにかく念じる!!
「 あら? うんち? そんなに▲□んで、顔が〇×▲〇〇じゃない・・・・ 」
母がそう言うと、向かいの席のマーニがこちらに近づいてくる。
「 あぶぶきゃははふぁ!!(そんなんじゃない!!) 」
更に強く念じると、手の中の物がすっとどこかに飲み込まれ消えうせた。
『 ポーン 空間に対する魔力の干渉を検知 スキル【異空間収納】が発生しました』
いやな汗が背中を伝うが、ギリギリセーフだ。
「 奥様、ラインハルト〇▽□はどうも暑かったようです。背中が〇でグッショリですわ 」
「 あぶぅ、あぶぶぁ! (危な、取り敢えず明細鑑定!)」
>個体名:ラインハルト(仮)
>種族名:人間
>状態値:新生児 生後1か月状 状態良好 (光魔法:プロテクト継続中)
>存在値:LV2
>体力値:31HP (保有41HP)
>魔素値:732MP (保有1290MP)
>スキル:魔力操作 光 闇 火 水 風 土 木 治癒 重力操作
明細鑑定 早熟 肉体改造 念動 木工 金属加工 異空間収納
緊張と無理な魔力操作で疲れてしまい、適当にぐずってそのまま寝てやり過ごすことに成功した。