第5話
最近よく夢を見る。
幼い脳が、夢を見るようになるまでようやく成長したということだ。
しかし、夢と分かっていても覚醒しないのが口惜しい。
しかもその夢は、大石泰三で有った頃の過去の夢なのだ。
焼け出された、街並み焼夷弾で焼かれたなんとも言えない油の匂いが脳裏によみがえる。
3男4女の家族で何時も腹を空かせていた。
そんな折、儂は何とか空襲を逃れた町工場に丁稚として潜り込み、家族と別れて住み込みで働かせてもらった。工場の親方夫婦は子供を空襲で亡くし、儂を大層可愛がってくれた。
そうこうしていると、GHQから部品調達の受注を得ることが出来一気に規模を拡大することが出来た。
学校へも行かず丁稚として工場を走り回っていると、外人の軍人が配給品をくれたのがとてもうれしかったのを思い出す。
何とか小学校を卒業したところで、親方が倒れた。
連絡の取れなくなった家族を探しに広島に一月ばかり出かけたことがあったらしい。
病名は多臓器不全。 食べるものもろくにない中、無理して働く為驚くほどあっさりと亡くなった。
不幸事は重なるもので、うちの実家は事業に失敗し夜逃げしてしまった。儂を置いて・・・・
さて、町工場は親方の奥さんが仕切るようになったが、” 女だてらに・・・・” と取引先から馬鹿にされることも多く、支払いも足元を見られ悔し涙を流していたことを覚えている。
そんな厳しい中、奥さんは儂を旧制中学校・高等学校へと通わせてくれた。必死に勉強し、工場も手伝った。その甲斐あって、鉄鋼部品の加工技術を身に付け、高等学校を優秀な成績で卒業できた。
高校を優秀な成績で卒業できた為、帝都大学の推薦が貰えることとなった。
特待で授業料が不要、それでもっと沢山のことが知れる・・・・そう思うと堪らなくうれしく思う。
その反面、工場を切り盛りする奥さんが・・・・いやもう母といった方が良い、その人が苦労する姿が見て居られなかった。
だが母は、大学に行けと言う。仕送りもすると・・・・そして立派になって帰ってきて工場を切り盛りしろ言うのだ。その場では我慢したが、布団の中で声を殺して泣いた。
その時の気持ちが強く甦ると、胎児の儂がムヅがる様に覚醒した。
『 さてと、気を取り直して 定番の母子ともの明細鑑定!! 』
>個体名:なし
>種族名:人間
>状態値:胎児 六カ月 (実態状況9.5ヶ月)
>存在値:LV0
>体力値:9.5HP
>魔素値:450MP (保有459MP)
>スキル:魔力操作 光 水 土 闇 治癒
明細鑑定 早熟 肉体改造 念動
>個体名:不明
>種族名:人間
>状態値:18歳 妊娠中 良好 (状態:MPドレイン)
>存在値:LV26
>体力値:112HP(132MP)
>魔素値:98MP (113MP)
>スキル:不明
魔素への適合が進みすぎたのか、MPが母の4倍を超えてしまった。
腹の魔石も二回りほど大きくなり・・・・といっても飴玉位の大きさなのだが、キラキラした魔素の流入出が尋常じゃない。
試しに目を開けて周りを見渡す。
水中でよくわからないが、体を触った感触では髪が幾許か生えており、大事な一物もついている。
鑑定で見る限り、普通の赤子としてほぼ出来上がっている感じだ。
・・・・まぁ、かなりの早産になるだろうが、そこは母子ともに健康ということで納得してもらおう。
小刻みな睡眠と覚醒を繰り返す中、外界へ出てすぐに寝返りでもしてやろうと筋トレもしている。
バタ足200回、手の開け閉め100回 首振り100回・・・・・
残念ながら全てを消化する前にいつの間にか寝てしまっているが、起きるとその繰り返しで出産までの
いいところで睡魔が襲ってきた。胎児とはなんとも不便なもので、体が成長の為常に睡眠を要求する。
『 最後に魔力操作・・・・明細鑑定!』
『 鑑定結果:【魔力操作】 パッシブスキル 体内対外にかかわらず存在する魔素を認識し利用可能状態とし、魔力として自己の支配下に置く。魔力操作:習熟度75% 次スキルへの移行条件は未達』
『 ・・・・眠い、くぅ・・・・眠すぎる』
強く抗ってみたものの、抵抗むなしく夢の世界へと誘われていった。