閑7話
ある暗部長の手記より
私はシュバルツ王家の影だった者、今はスパイマスターのラインハルト殿下の忠実なる僕。
私は神の御業を垣間見た。
自分の体がグチャグチャに潰れ命の灯が消える瞬間この世に呼び戻される。
それも一度ではなく何度も何度も・・・
その時、神の世の扉も見た。
わずかに開いた神の門に滑り込もうとした瞬間 ” まだ早い ”と声が聞こえ意識を取り戻す。
今までの贖罪が済まないうちは、あの門を潜ることは叶わないのだろう。
そう、1歳にも満たない殿下には” 生と死 ”を司る力が有る。まるで使途だ。
元々豊かな大地を国土に持つこの国も、ラインハルト殿下のおかげで更にアダマンタイトで有名になり、国庫を潤す様になった。
暗部の予算も加増された。しかしその人員の補充も難しく30名程度では他国の情勢を把握することも叶わない。
王妃の母国シルバウム公国から資金が流れ込んでおり、商業・物流なども抑えられつつある。
正直この国はスパイ天国だ。
スラム街では裏社会の集団が幅を利かせ、その陰にシルバウムの影がチラつく。
そんな折だ、スパイマスターの暗殺計画が有ることが解った。
それは当人である殿下からの指示で明らかになったのだ。
我々の考えの及ばぬ情報収集能力。
只、知らされてからの時間的猶予はない、敵は我々の約8倍。どうあがいても殿下をお守りすることが出来ない。
だが、殿下は事も無げに指示をとばす。” 罠を張れ ”” 自分でも罠を張る ”・・・と。
ありとあらゆる罠を張った、しかしシルバウムの情報網に掛かり、全てが無力化された。
・・・にも拘わらずだ。 殿下の罠は、万能解毒薬をポーションをのんだ敵国の暗部を事も無げに狩ってゆく。 まるで命の穂を刈り取るが如く・・・
今まで煮え湯を飲まされ続けたシルバウムを児戯の様に捻り潰す。
胸のすく思いだった。
たった一人で敵を罠にかけ、一人残らず一度殺したのだ。
捕らえた者は息を吹き返し、攻めた者は蘇らなかった。
念の為数体の遺体を回収し解剖したが、死因が解らないのだ・・・あまりにも綺麗すぎるのだ。
殿下がその気で有れば、その死者も蘇ったかもしれない。・・・・そう思えるほど確実に・・・・
殿下は” 罠を張ると ”とおっしゃられた。
何らかの毒を使ったことは想像が付く。
しかし、それがいつ仕込まれたのかが解らない。
背筋に冷たいものが走る。
我々はその殿下の命を狙ったのだ。今思えばシルバウム公国から嫁がれた王妃の差配が有ったのだと思える。
だが我々は生かされた、許されたかどうかは判らないが。
只我々の存在価値を示し続けなければ、野花の手折るように我々の命は消えることになるだろう。
いつの日か贖罪を済ませ、安らかに黄泉の国へ旅立ちたい・・・そこが地獄だったとしても笑って逝けるだろう。
この事は、王には伝えてある。
しかしシュバルツ王家の4倍の国力を持つシルバウム公国。
そこの王妃を処刑・幽閉しようものなら戦争になるだろう。
その渦中の真ん中に居られるのがラインハルト殿下。
聡明あらせられる殿下は既に気が付いているであろうことは明白。
今回の件は前哨戦、これから経済戦争を仕掛けてくるのは想像に難しくない。
それをどのような差配で打ち砕くのか、楽しみでもあり恐ろしくもある。




