35話
渋滞を向けた馬車は順調に進む。
時折聞こえる囁き声に、『 漆黒の蜘蛛制圧 』『 首謀者は王族 』『 実行犯は第四側妃 』
等と間を置きながら聞こえてくる、なかなか使える暗部である。
『 取らえた実行犯の生爪を全てを剥ぎ取り、第四側妃のメインディッシュの皿にもれ。
足らなかければヒールを掛けて生えてきた爪を何度でも毟り取れ。』
『 ・・・っは!・・・ 』
耳元のささやきは消える。
” よし ”ラインハルトは心の中でほくそ笑み王城へと向かった。
その後何事もなく王城の城門を潜り、馬車止めへと通される。
既に周囲には登城の馬車は無く、最後が主賓となんとも冴えない状況となった。
執事がハラハラした表情で我々が下りるのを待ち、「 殿下 此方です お急ぎ頂けますよう・・・」等と主賓で有るはずの自分を急かすとは、この場でマーニから降りて歩いてやろうかなどと考えてしまう。
とわいえ遅刻は遅刻、マーニに抱えられ騎士を伴いエントランスを速足で抜ける。
階段を上がり広々とした瀟洒な廊下、絨毯は毛足が長く離宮とは雲泥の差である。
両開きの重厚な扉の祝賀会場前に到着すると、従者が扉を左右に開く。
「 ラインハルト・フリード・フォン・ヒューラ殿下 ご来場!! 」
儀典官が高らかにラインハルトの入場を告げる。
歓談していた人々の喧騒が止み、視線が一転に注がれる。
「 マーニ おろして 」
「 はい、殿下 」
ラインハルトは毛足の長い絨毯の上に下ろされ、背筋を目いっぱい伸ばしてひょこひょこ中央を進む。
子供連れの貴族が多いい、それがラインハルトの第一印象だ。
しかもその子供が全て女児。
驚愕・羨望そんな眼差しの中に、憎悪・嫉妬などの視線を感じる。
100mもない会場の中央、人々が波の様に引き一段高いテーブルに序列順に席に並ぶ王族の面々。
ラインハルトはまだこの面々の名前をほとんど知らない。
その中の数名の表情が引きつっているのが見受けられる。どうも本日の襲撃を何らかの手段で入手した者達だろう。 まさか生きているとは・・・といった心持だろう。
そんな中、怒気を孕んだ声が王妃から放たれた。
「 ラインハルト、いかに主賓とは言え遅れてくるとは何事ぞ。さぞ立派な弁明が出来るのであろうな? 」
・・・こいつは知っている・・・といった嫌らしい笑みを扇子で隠し問いかけてきた。
手の者が無傷で、しかも実行犯も生かして捉えてあるとは思ってもいない様子。
「 このたびは、わたくしの おいわいのしぇきに ごさんかくだしゃり ありがとうごじゃいましゅ。
だいがくからの どうちゅう あぶにおしょわれまして なんぎいたしました。
しかも、そのあぶは くもにあやちゅられておりまして、そのくもはなんと おおけかたとおしゃべりをする ふしぎな くもしゃんでした。」
王妃の顔が固まる。
傍にいる序列からみると第3か4の側妃の顔色が青くなる。
襲撃からの1~2時間でどこまで調べ上げたのか、取り巻きと心当たりのある者の背中に冷たい汗が流れた。
王妃と側妃ににっこり笑って見せ言葉を紡ぐ。
「 わたくしは むしをとらえることが うもうごじゃいましゅ。
いきたままとらえられましたので、めずらしいしゃべる くもは ひょうほんにして けんじょうしようかとかんがえておりましゅが、いかがでしゅか? 」
王は全てを知っているようで能面のような表情でラインハルトを見つめていた。
末子の王子にしては狡猾すぎる。しかも、実行犯は既に抑え生爪を剥ぎ略全ての経緯を把握隅と暗部から報告が上がっている。
生後6か月、見た目は3歳にしては老獪すぎる。
王は脇汗が止まらないのをひた隠し、ラインハルトの元へ向かう。
そして抱え上げると、野太い声で皆に喧伝する。
「 巷の雀が煩く囀る 子供賢者 儂の子である ラインハルト・フリード・フォン・ヒューラであーる!」
周囲の男性は一斉に頭を垂れ、女性はカーテシーで礼を取る。
国王はラインハルトを抱え皆のなかを歩いてゆきながら耳元で囁いた。
『 大事にするな 収集が付かなくなる。』
『 もう遅いでしゅ、一線を越えました。』
『 そちの兄弟と義理の母でもある。そしてわしの妻でもあるのだ。 』
『 では、なぜ野放しに? 手綱も握れぬ為政者は遇者とよばれましゅよ? 』
『 ぬぅ!・・・・ 』
『 わたしは 王位などいらぬのでしゅ 継承順位も低く政争も望んではいません・・・が、売られれば高値で買いましゅ。 ですから辺境伯でもなんでも良いので大きな土地を頂ければ王都にはもどりましぇん。』
『 なぁ!・・・・であるか 何もない辺境の地でも構わぬのか? 』
『 えぇもちろんでございましゅ。そこに王都よりも立派な街を作って見えましょう。わたしには、まだまだ時間がありましゅので・・・ 』
『 わ、わかった準備しよう。なので死者はだすなよ? 』
『 わたしはそのちゅもりですが、口封じをとめるのはお父しゃまのお仕事でしゅ。』
『 あ、あい分かった。肝に銘じよう。』
広間を一周し、子供用の席に座らされる。
後ろにはマーニ、影の中にはたぶん暗部が潜んでいるだろう。
王は立ち上がりワインの入ったグラスを掲げ音頭を取る。
「 ラインハルトの健やかな成長と我が国の繁栄に!! 乾杯!! 」
他の貴族もそれに倣い祝杯を掲げた。
少し遅めの昼食会は順調に進み、メインの皿にクローシュが置かれ、中身が見えない。
肉の香ばしいにおいがする。
鹿肉のソテー、そこそこの大きさだ。自分はお子様なので大人の4分の1程だが・・・
・・・・そして第4側妃の クローシュは外されると。花の様に飾り付けられた何かが姿を現した。
能々見ると、爪、まだ肉片が付いたものもあり、血が滴ってさらに溜っている。
「 ひいいっぃぃぃぃぃ!!! 」
飛び上がる様に立ち上がった側妃は嘔吐し、食事会の雰囲気をぶち壊す。
そして何故か王妃に目配せし「 気分がすぐれません お先に失礼いたします 」と足早に宮中へと姿を消した。
それを見た王妃は口元を扇子で隠し、執事に指示を飛ばす。
『 王妃の執事と第四側妃を追え、見聞したこと出来れば録音が好ましい それを陛下に詳らかにせよ 』
『 ・・・御意・・・ 』
暗部が去った後、念の為とも周りにプロテクトを掛け、サーチで毒物・見物をチャックし、鹿肉を楽しんだ。




