第16話
ラインハルトが階段を一歩ずつ這うように降り漸く中程まで差し掛かった所で、もう一人の賊が階下に現れた。
新生児が深夜に階段を懸命に降りており、ビックリして振り向く姿はなんとシュールだろうかと自分でも思いながら、賊を見た。
現れた賊は、鋼線で巻かれ海老反りになった仲間の姿に、辺りをひどく警戒している。
「 ち・・・違う!あれ「 あちゃ!(重力操作7倍)」ぶべぇ・・・・ 」
要らないことを喋られると拙いと思い、重力操作を発動させるならば序にと、二人目の賊も巻き込んで7倍の重力を掛けたのは良いのだが・・・・
ミシミシミシミシ・・・・
屋敷の床が抜けそうになる。一人60Kgの2倍さらに7倍、〆て840Kg。
家鳴りがするのも分かる。それと同時に・・・・
グキボキベキ・・・・
立っていた賊は、足と腰・首から嫌な音を立てて床に崩れ伏した。
倒れた姿を見ると、白目を剥き口から泡を吹いている。
たぶん、首と腰の骨は逝ってるっぽい。
海老反りだった男も、完全に曲がってはいけない方に二つ折りになって、脱糞している・・・・
「・・・・はぶぶ、ぁ~ (・・・・やべぇ殺したかな、解除 治癒)」
賊の歪に折れ曲がった身体が、あれよという間に元に戻る。
「 はぶぶあきゃは、ぶぶぶぅぅ・・・・(流石に7倍は厳しかったかなぁ間に合ってよかった・・・)」殺すつもりは無かったといえ、既に9割程殺している気がする。
白目を剥いた男のマスクを外し、同じように金属を回収。
嫌々ながら口の中に手を突っ込み、仕込み薬(すでに潰れており、焦って浄化を発動)を回収。臭い口に手を突っ込んだので、自分に浄化を三回もかけてしまった。
再び鋼線を作り出し海老反り二体目を完成させ、念動を使い居間のシャンデリアに吊るした。
「 あぶぶあばぶば・・・・(重力操作で自重を1/1000にすれば大丈夫か・・・・)」
吊るされた大人は、なんだか面白いオブジェに見えて楽しく成ってきた。
気を取り直し、もう一人も捕まえよと探知を行う。
居間の少し手前、玄関から少し入った所からこちらに向かってきている。
賊が到着するまで、居間のソファに座って待って居よう・・・・
「 きゃ~! (来た!)」
最後の一人はバックアップ要員だったようで、シルエットが女性のものだ。
「 ・・・・な! 」
仲間が鋼線で海老反りに縛られ、しかもシャンデリアに吊るされている。
とでも人間業ではない。
賊の女の全身に鳥肌が立つ。
同じ組織でも三本指に入る二人が、外傷も見当たらず生きたまま吊るされているのだ。
「 ・・・・あり得ない・・・・ 」
足場も無しに体重が50kgを超える大人をシャンデリアに吊るす。
そんな力技を行う凄腕の大男を想像するが、部屋には只、幼い新生児がソファで燥いで居るだけだ。
おそらくターゲットは目の前の新生児。
賢者の称号を生後三か月で手に入れた哀れな子、国の安定を脅かすと判断され、殺さねばならない可哀そうな赤子。彼女たちはその子を始末しろと命令されただけだった。
命令は絶対、状況的には既に失敗していた。
通常であれば彼女は証拠隠滅を図り、その確認を以って速やかに撤収する事が役目。
しかし、投げナイフ一本あれば始末できそうな新生児がすぐ手の届く所に居るのだ。
『 どうせ仲間を手に掛けるなら、この子に死んで貰ってからでも遅くないだろう。』
そう考えてしまったのが、彼女の最大の誤りとなった。
・・・・
「 あぶばぁ、んばぶあぁ・・・・(何か投げてきたら如何しようか・・・・)」
構想はある、異空間収納が有るのだから、異空間の入口と出口を繋いでしまえば鏡のように物理攻撃も反射できるんじゃないだろうか・・・・後は異空間に止める時間を入る物の大きさで微調整すればナンチャッテ反射が出来上がる。
そう考え、異空間の入口と出口を繋いで見る。
そうすると、目の前に薄膜のカーテンの様なものが目の前に広がった。
光は透過し、向こうが見える。
後は実証、死蔵していた亜鉛玉を入れてみると間髪入れず見事に戻って来る。
感触的には音のしない壁に亜鉛球を投げて、跳ね返って来た感じだ。
『 ポーン 異空間を利用した物体の移動を感知 スキル【ゲート(異空間移動)】が派生しました。』
ラインハルトがスキルを取得している間に彼女は居間繋がる全ての扉を確認し、ラインハルト一人であると無理やり自身を納得させた。
そして、ここにきて漸く鋭い投げナイフが投擲された。
投げナイフの投擲は、まっすぐラインハルトの眉間を狙って飛んでゆく。
「 ぶぶあぁ (あぶなぁ)」
ナイフが薄膜のカーテンの様なものに捕らわれた瞬間、音もなく彼女へまっすぐに跳ね返された。
舌打ちする女の賊、レスポンス無しの反撃に視線をナイフへ合わせ間一髪でそれを避けた。
「 あ~!(ゲート)」
出口を彼女の足元に定め移動する。
そして彼女の足を捕まえて、掴まり立ちをした。
「 あ、あの距離を一瞬で・・・・」
彼女の顔色が青ざめる。まるで今にも吐きそうだ。
「 さ、触るな! 」
彼女が足を蹴り上げ振り払うとする瞬間「 ぶぅぅ (重力操作1/1000)」自分の体重を鳥の羽のような重さへと変える。
そして、ソファの方へまるで風船のように飛ばされて行き、びゃちゃっとポウさんに張り付く。
「 きゃは! きゃは!! (うまい!うまくいったひゃほい!!)」
手を叩いて歓喜を現してみる。
「 何なんだ?! まるで重さが無いじゃないか!」
彼女は視線を足元に落とす、まだ掴まり立ちしていた感触が有るのだろう。
再びソファに視線を向けるが・・・・
「 ふぁ?!いない 」
「 きゃ~!(ゲート)」
同じ位置に転移し、再び掴まり立ちをする。
序に錯乱の闇魔法を小さく唱える「 あぶ!(闇魔法:混乱)」
「 い。いやぁ!!!!やめて!! 私が悪いんじゃないの!! 」
彼女の視線が一瞬揺らぎ、目が狂気の色に染まる。彼女が動き出そうとした瞬間・・・・
「 ぶぅぅ(重力操作:1/1000)」体重10Kg有るか無いかの新生児、それが10gとなり外套に捕まっているのに何の重さを感じようか・・・・
彼女は、全てを放棄し逃走に移る。
外套がはためくが、ラインハルトは走り抜ける風で吹き飛ばされるまでもなく、筋力2の握力で十分対応できた。
女は時折新生児を見ては、頭を掻きむしりアジトへと直走る。
門番の倒れた離宮を出、林に隠していた馬にまたがるとまだ張り付いている新生児を見ては恐怖に顔を引きつらせる。
「 イヤ イヤ イヤ イヤ! 悪くない 悪くない 私の赤ちゃん許して!! 」
錯乱の魔法が効きすぎている気がするがまぁ暗殺者なんだし、しょうがないだろう。
馬は王城に向けまっすぐに直走る。
「 イヤ イヤ イヤ お願い お願い許して!」
闇魔法が、暗殺者のトラウマをクリティカルヒットで射抜いたようで、馬にしがみ付き嗚咽している。
離宮からそう離れていない王都の城門、そこから少し離れた城壁にある隠し通路から城下町へ侵入し、王宮へと向かう。
・・・・黒幕は兄弟の誰か・・・・いやはや・・・・
新生児の夜更かしは辛いのだ、早く終わらせて母の寝所に潜り込みたい・・・
王宮の裏門、嗚咽しながら合言葉と暗部を示すパスを見せ王宮内へと侵入。
自分は外套に潜り込んでおり、まったく怪しまれなかった。
女は複雑な王城の基部へ向かうよう階下へと走りゆく。
人があまり使った形跡のない城の基部、もう使われなくなった牢獄、幾つもの隠し扉を抜け、暗部の本拠地へと辿り着いたのだった。




